チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

アートシーン・源信 地獄・極楽への扉 2017.07.30

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平安時代の僧侶・源信。地獄や極楽のイメージを解りやすく説くことで浄土信仰を広めました。今年はその没後千年に当たります。それを記念する展覧会。

 

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源信の教えから生まれた仏教美術の名品を集めました。

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巨大な臼で体をすり潰される人々。

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鬼たちが愉快そうに眺めます。

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国宝・地獄草紙。源真が説いた地獄の世界です。

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こうしたイメージのもととなったのが、源信の書いた「往生要集」。地獄や極楽の描写がリアルで絵師たちの想像力を掻き立てました。

 

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国宝・六道絵。

f:id:tanazashi:20170803220755p:plain生前の行いによって、生まれ変わるとされる6つの世界を描いています。

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最上位の世界は天童。楽器を奏でたり舞いに興じたり、楽しみながら暮らすといいます。

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こちらは、人の死に際し阿弥陀如来が極楽から迎えに来る場面。源信はこのような光景をイメージし、死に備えるようにとときました。

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奈良国立博物館

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極限芸術 〜死刑囚は描く〜

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極限芸術 〜死刑囚は描く〜

渋谷のアートスペース「アツコバルー arts drinks talk」で『極限芸術 ~死刑囚は描く~』展が開催されています。本店のテーマは死刑囚の絵画展です。「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」が2005年から公募で集めた死刑囚による作品群・何百枚の中から選別されたエネルギー発信力の激しい作品は見る者の心に衝撃を与えます。

昨年、クシノテラスが開いた『極限芸術 2 ~死刑囚は描く ~』展に感嘆して今回、アツコバルーでも開催することを 決めた。

それは言葉では説明できない何か、でも確実に感じられるものだ。関係を遮断されても彼等は胸の中で社会を見続け、生きている証拠を発信し続ける。確実に、薄っぺらな紙の向こう側にだれかが居る。まるでパラレルワールドからの誘いのように。

極限芸術 〜死刑囚は描く〜 | Schedule - スケジュール | アツコバルー ATSUKOBAROUH arts drinks talk

会期 2017年7月29 日(土)~9月3日( 日)

会場 アツコバルー arts drinks talk

アートシーン・ベルギー奇想の系譜 2017.07.30

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幼いキリストを背負い、一人の聖人が川を渡ろうとしています。

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周りには人なのか昆虫なのか。得体の知れない悪魔や怪物たち。

 

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こんな奇妙で不思議な美術の展覧会が開かれています。

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「ベルギー奇想の系譜」。

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通常では思いつかない奇抜な発想=奇想をテーマに、中世から現代までベルギーやその周辺の作品およそ120点を集めました。

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現在のベルギーとその周辺地域では、中世末期に発達した写実的描写のもと、独自の幻想的な絵画が生まれました。ブリューゲルの奇妙な生物、アンソールの仮面や髑髏、マグリットの不思議な風景など、そこにはどこか共通する奇想・幻想の世界が広がっています。
本展は15、6世紀を代表するボスやブリューゲルの流れをくむ作品から、象徴主義シュルレアリスムの作家を経て、現代のヤン・ファーブルにいたるまで、約130点の作品を通して、500年にわたる「奇想」の系譜の存在を探ります。

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15世紀から16世紀にかけて活躍したヒエロニムス・ボスの作品。「トゥヌグダルスの幻視」。

アイルランドの騎士が語ったとされる逸話です。主人公の騎士トゥヌグダルスは、3日間の仮死状態に陥っている間に天使によって天国と地獄に導かれ、そこで恐ろしい懲罰を目にし、目覚めた後に悔悛します。

f:id:tanazashi:20170801214813p:plain人間を積荷と導く愚かな感情と欲望。いわゆる七つの大罪が描かれています。

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貪欲の罪で罰せられる聖職者たち。怪物の鼻からこぼれ出るコインで溺れています。

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窒息するほどワインを飲まされる人は大食の罪を犯しました。

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キリスト教の世界観を自分なりの想像力を掻き立てて描く。ボスの奇想の表現です。

 

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ボスの影響を受けたブリューゲル七つの大罪を七枚の版画で表しました。

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この作品は怠惰の罪の表現。画面中央の女性は、怠惰の象徴である炉ばに凭れて居眠りをしています。

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怪物が枕を差し出しています。

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この怠け者はベッドに寝たまま食事をし、異動も怪物任せです。

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ボスが始めた奇想のイメージはブリューゲルの版画で広がっていきます。

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「現在のベルギー=フランドルでは、人々は勤勉で豊かなのです。だから周りの国が欲しがっていたわけです。裏を返せばいつも戦場になっていたということです。

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そういうなかで人々は若干内向的になるのか、空想を全開させていろいろなものを描いていった。奇想はアイデンティティになっていると思います」

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時代の流れとともにベルギーの奇想の流れは様々に変化します。19世紀、フェリシアン・ロップス(1833-1898)は豚を連れた裸の娼婦を描きました。

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食欲と性欲の象徴である豚。娼婦は目隠しをしています。欲に目がくらみ周りが見えなくなっている政治家たちを、ロップスは暗に批判しました。

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20世紀の画家、ルネ・マグリッドの作品です。曇天の海に大きな鳥のシルエット。中には白い雲が拡がる青空が広がっています。マグリッドは意外なものの組み合わせで、人々を異空間へといざないます。

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現代まで脈々と続く奇想の系譜です。

 

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カトリックの司祭がミサで着るガウンを身にまとった、死神として骸骨となった女が恍惚のダンスを舞っています。教会を風刺する本作は大型の画面に描かれており、作者の深い思い入れが感じられます。作者であるフェリシアン・ロップスは反カトリック的、反ブルジョワ的強迫観念をもっており、版画、挿絵を中心に、油彩画、水彩画、著述など様々な分野で才能を発揮しました。

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筆を咥えた骸骨が、ドラムにリズミカルに打ち付けられています。数多くの戦地となってきたベルギー芸術には死の表象が絶えず見え隠れします。この根深く厳粛な難題にユーモアで答えるコーペルスの表現は、ベルギーの芸術家が培ったアイデンティティの一つといえます。

 

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おもしろびじゅつワンダーランド2017

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体全体を使ってサントリー美術館の名品の魅力を感じる。家族揃って楽しめる体験・体感型展覧会が開催されます。例えば「桐鳳凰図」に描かれた鳳凰の秘密を探るなど、

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デジタル技術を使ったインタラクティブな創作体験を通じて、映像や音などを含めた空間全体で作品の世界を感じることができます。

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屏風を拡大して描かれている風景のすみずみまで観察。

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ッチパネルで絵巻の登場人物のセリフを読んだり、回転のぞき絵(ゾートロープ)をまわして、絵の中の人物を躍らせたり……。

大胆な色使いや繊細なモチーフなどが目を引く江戸時代の小袖や能装束、小袖の図案を集めた雛形本や小袖を着た焼物の人形などをヒントに、タッチパネル上で地色と文様を選んで自分だけのキモノをデザインすることができる。 

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ともすれば難しいと思われがちな日本の古美術について、その魅力とおもしろさを「発見」する展覧会です。

むずかしいと思われがちな日本美術をより親しみやすく、多様な切り口でご紹介するものです。映像や音などを含めた空間全体で作品の世界を感じたり、デジタル技術を使ったインタラクティブな創作を体験したり、さまざまなしかけを通してサントリー美術館の名品との出会いをお楽しみいただきます。

www.suntory.co.jp

会場 サントリー美術館 

会期 2017年8月1日(火)~8月31日(木)

日曜美術館「漆 ジャパン」京都の遺跡では漆器の意外な製法が明らかに

ヨーロッパで愛された日本の漆器。近年その製造方法について意外な事実がわかってきました。

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日本が漆器を盛んに輸出していた17世紀。ヨーロッパ諸国との窓口となった長崎の平戸。

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平戸オランダ商館の輸入の記録です。ここに漆について大きな謎とされてきた記述があります。

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日本にタイやカンボジアなど東南アジアから漆を輸入したという記録が残されているのです。東南アジアでも漆器が作られ、漆の樹液も採取されています。

f:id:tanazashi:20170730154816p:plainしかし、木の種類が異なるため樹液の色も質も大違い。日本の気候風土ではなかなか固まらず使い物にならないと多くの人は考えてきました。また、漆を意味するlackは、塗料とも訳せるため、これは漆の輸入記録ではないという人もいました。

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2004年。その謎を解き明かす発見が京都でありました。

f:id:tanazashi:20170730154828p:plain中学校の改修工事中、17世紀の遺跡が発見されます。この廊下の地下に大きな壺が埋まっていました。

京都市御池中学構内から出土した17世紀の四耳壺(しじこ)。付着した漆と思われる樹液を分析したところ、タイ・ミャンマー(同チチオール)とわかった。「当時は建築部材や輸出用の南蛮漆器のために大量の漆が必要だった。その原材料として輸入されたのかも」と明治大学バイオ資源化学研究所の宮腰哲雄教授教授は語る。

asahi.com(朝日新聞社):漆文化に多様性 他分野との共同研究で成果 - 文化トピックス - 文化 

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高さ60センチあまり。外側にも内側にも大量に漆が付着しています。

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この壺のそばからは刷毛やヘラといった漆職人の道具も見つかり、壺の漆を使って漆器を作っていることがわかりました。

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調査を担当した北野信彦さんは、付着した漆にある疑問をいだきました。

「日本の漆に比べて黒くて艶があるということが一つ違うかなということがありました」違和感を抱いた北野さんは漆のサンプルの鑑定を化学分析の専門家宮腰哲雄さんに依頼しました。

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宮越さんは日本を含むアジア各国の漆を採取。壺の漆と比較します。各地に漆を熱分解してガス状にします。そのガスの分子の質量を測定した所、壺の漆がある産地の漆とほぼ一致したのです。

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「これはまったく日本とベトナムとは違うパターンです。これはタイ、ミャンマー独特の樹脂特有のパターンです。分析したらタイ産であるということがわかりました」

オランダ商館の記録は事実でした。タイの漆が実際に輸入されていたのです。使いものにならないと言われてきた東南アジアの漆も、当時の日本の職人は使いこなしていました。

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でもいったいなぜ、わざわざタイ産の漆を使ったのか。

研究者が注目したのはオランダ商館の記録にあった漆の値段です。

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日本産の漆が60キロあたり1.43テールで取引されているのに対し、

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タイ産の漆は43.5テール。およそ30倍もの値段で取引されています。

「明らかに桁が違うくらい東南アジアの漆のほうが高価だということがわかってきた。むしろ製品でいいものに使う可能性があることがわかってきました」北野信彦教授

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あの17世紀の工房跡から発見された漆器のかけらには赤と黒があります。分析の結果黒の方にタイ産の漆が多く用いられていたことがわかりました。

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「最初から黒っぽい色に固化した、固まった膜ができるのですねそれと艶が結構良い。黒いので上に金やらでんが来ると非常に映えることも事実だと思うので、使い勝手も悪くなかったと思います」

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当寺ーロッパを魅了していた日本の漆器の色には黒が多く見られます。世界に名高いジャパンのブランドはアジア諸国とのつながりの中に気づかれたのかもしれません。

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17世紀輸出が制限された時代にも漆器は盛んに製造されました。イスラム圏に特徴的な形。当寺イスラム教のくにだったインドから持ち込まれた革製の盾に日本で蒔絵を施して輸出されたと考えられます。

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オランダからの特注品。中央にあるのはアムステルダムの名家の紋章です。

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オランダ商館長が長崎から江戸まで旅をした時の風景を日本の職人たちが丹念に描いています。江戸時代外国との交流の中で多様な表現が生まていった漆工芸。同じ頃国内向けの漆器は技術を洗練させていきました。

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全体に金粉をびっしりと撒く蒔絵の技法で作られた駆使。笹の葉には螺鈿が使われています。

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江戸時代、印籠や櫛など人々が使うちょっとした贅沢品にも漆が使われるようになります。

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明治時代の輸出用品です。芝山細工と言われて明治時代に流行した技術です。明治6年ウイーンで万国博覧会が開催され人気を博したと言われています。

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貝殻の螺鈿象牙象嵌されています。螺鈿も通常のものと違って厚く、浮き彫りに、レリーフ状にしたものを貼り付けています。f:id:tanazashi:20170730155004p:plain

貝殻の上にも蒔絵で細かい図柄を描いたりしています。離れてみても派手ですが、近くによって見ると細緻な技が使われていて、当時の技術の結晶が込められていることがわかります。

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「漆はアジア特有の文化です。アジアに共通の文化でもあります。16世紀から西洋とのつながりが出てきますと今度は西洋人を窓口にして広がっていく。相互の、世界との関わりの中で日本の漆文化は展開してきたというのを改めて感じます。

グローバルに広がっていくと、むしろ自分たちの個性の美意識だとか、自分たちの得意な技法だとかを出したくなる。グローバリゼーションとアイデンティティの問題を考えるモデルケースとしても漆は面白いと思い始めています」

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日曜美術館「漆 ジャパン」螺鈿・乾漆・蒔絵

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6世紀から8世紀の飛鳥・奈良時代。遣隋使、遣唐使などを通じて中国から様々な文化が伝わりました。その中に漆工芸の技法も数多く含まれていました。

 

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その一つが螺鈿です。東大寺正倉院の宝物にも用いられています。

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螺鈿とは貝殻の真珠層を切り抜き貼りつける技法。奈良時代以降日本でも盛んに用いられました。

もう一つ、奈良時代の日本で大きく花開いた中国伝来の技法があります。

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興福寺の阿修羅像にも用いられた乾漆という技法です。

 

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 その乾漆の技を現代に伝える人がいます。

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東京で看板彫刻を手がける細野勝さんです。阿修羅像のレプリカなどを作り続けて40年。今ではほとんど用いられなくなった乾漆の技法を構成に伝えようとしています。

 

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「技法そのものが曲がりなりにも伝わればというのが正直な気持ちですね」と細野さんは言います。

乾漆による仏像づくりを見せてもらいました。

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まず粘土でつくった型の上に布を漆で貼り付けていきます。その上に漆に浸した布を何枚も貼り付け細かな形を整えます。

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木を削るのに比べより繊細な形を作り出すことができます。

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やがて漆が乾くと背中を切り開き、中の粘土をすべて掻き出します。

 

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漆は乾燥すると固まるため、中の型を抜いても形が崩れることがありません。

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乾漆技法で作られた仏像の最高傑作の一つが興福寺の阿修羅像です。三つの顔それぞれに異なる表情。繊細な表現は漆を使ったからこそ可能になったものです。

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平安時代に特に発展したウルシの技法があります。蒔絵です。

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国宝・片輪車蒔絵螺鈿手箱。牛車の車輪が乾いて割れないよう水に浸した平安時代の日本独特の光景が描かれています。蒔絵は漆で描いた文様の上に金粉や銀粉などを巻く技法。これも中国伝来とされていますが、もっぱら日本で発展しました。蒔絵の器は日本の特産品として中国や朝鮮半島にも輸出され高く評価されました。

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15世紀から16世紀に生きた中国の文学者はこう記しています。漆を用いた技法はみな中国から生まれたものだが、今世にあるのは日本から伝わったものばかりである。真似ようとしても彼らのようにうまく作ることは決してできない。

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やがて、16世紀から17世紀の安土桃山時代。漆文化は大きな節目を迎えます。日本とヨーロッパが初めてであった時代。日本の漆器は遠くヨーロッパに輸出され、JAPANと呼ばれるようになるのです。

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17世紀頃の漆器は当時JAPANとよばれていたのですね。

「磁器のことをチャイナと呼びますが、それの対になる言葉だと思います」

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日本製の漆器を見て、漆器ならば日本ということで「ジャパン」と呼ばれるようになったようです」

 

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「こちらは特注品として作られたもので、輸出漆器としては並外れて技術的にすばらしい最高級品の一つです」

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「細かい文様が書かれています。これは蒔絵の技法で言うと付描と呼ばれる蒔絵筆で模様を描いて金粉を撒いています。線も確認できないくらい細かい唐草文様だとか、ねっとりとした漆で描かなくてはならない中で描かれています。人物も描かれています」

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「着物の柄まで細かく、柄の違いまで描き分けています」

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「これでもかみれでもかというパターンを繰り返していますが、寸分の狂いもないたいへんな技だと思います」

「漆というものはヨーロッパにはない塗料だったわけです。漆はウルシの木が生える地域でしか採れませんので、ヨーロッパには全く未知の塗料だったのです」

f:id:tanazashi:20170805204212p:plain「黒い艶。それもテカテカするものではなく、内面から湧き上がってくる優美な輝きですね。漆というものがまず珍しかったというものがあると思います。それと蒔絵の漆器というものは金を使いますので黒に金という大変ゴージャスな、ヨーロッパの宮殿にはふさわしい素材だったと思います」

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ヨーロッパの人たちのあこがれは、それまでになかったものも生み出しました。

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この作品。ものを収める櫃とそれを置く台からなるのですが、日本から輸出されたのは上の櫃の部分だけでした。

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下の台はヨーロッパで作られたもの。ヨーロッパにはウルシがないため、ラック貝殻虫というものを利用した模造ウルシで光沢を出しています。文様も似ていますが、日本のものが螺鈿つまり貝殻で表すのに対し、下の台は金属の箔を用いています。

ヨーロッパで愛された日本の漆器。近年その製造工程について意外な事実がわかってきました。

 

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日曜美術館アートシーン7月30日

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1.ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリットヤン・ファーブルまで(Bunkamuraザ・ミュージアム)

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会期:2017年7月15日~9月24日 

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ベルギー美術の500年の旅ということで、中世の末期から現在に至るまでの中で、ベルギーや周辺の地域で八突してきた写実的な伝統的な描写絵画は、幻想的なテーマの上に数々の作品が生み出されてきました。その絵画の数々を見ると伝わる世界は、空想的だったり、幻想的だったり豊かな発想の世界観によって描かれてきました。また、その真逆にあったのが、ボスやブリューゲルの流れを作ってきた画家(フランドルの画家)達が描いてきた写実的な悪魔や怪物などの絵画は、「本物」と見るものを恐怖に陥れる心迫性に満ちたものが生み出されてきました。この展示会は、ベルギーやその周辺の地域で、幻想的な世界観で描いてきた画家たちの、およそ500年に渡る奇妙な発想で描かれてきた絵画を、16世紀から19世紀までのコレクションが楽しめる展示会です。

www.bunkamura.co.jp

 

2.1000年忌特別展 源信 地獄・極楽への扉(奈良国立博物館

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会期:2017年7月15日~9月3日

『往生要集』を著し極楽浄土信仰を広めた平安時代の僧・恵心僧都源信。本展ではその足跡をご紹介しつつ、六道絵や阿弥陀来迎図といった源信の影響下に生まれた名品とともに、死後の世界へのイマジネーションを体感していただきます。

www.narahaku.go.jp

 

3.加納光於―揺らめく色の穂先に(CCGA現代グラフィックアートセンター・福島)

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会期:2017年6月17日~9月10日

1950年代に作家活動を開始して以来、版画、絵画、立体、装幀など多岐にわたる領域を横断しながら、独創的な数々の作品を作り出してきた加納光於(1933– )。なかでも版画は彼が最初に手がけた表現形式であり、創作の原点とも言えるものです。その作品は最初期の幻想的なモノクロームエッチングにはじまり、版の変容への意識が作品化されたインタリオ(凹版画)やメタルプリント、色彩そのものを主題にリトグラフ、インタリオ、シルクスクリーン、モノタイプといった多様な技法から生み出された作品など、幅広い展開を見せつつ作家のイメージ探求において重要な役割を果たし続けてきました。色彩や物象の絶え間ない変容と流動における一瞬の姿を、大気の中で揺らめく穂先の一点のごとく捉えて清新な視覚世界を私たちに示してきた加納光於の版画作品。本展ではその初期から現在にいたる代表作を回顧し、この類まれな作家の作品哲学に迫ります。

 

www.dnp.co.jp

4.小茂田青樹(島根県立美術館

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会期:2017年7月14日~8月28日

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院展日本画家で、静謐な詩情と幻想的な細密描写に独自の境地をひらいた小茂田青樹(1891-1933)。島根を印象深く描いて評価の高い風景画を中心に約90点(資料含む)で紹介します。

www.shimane-art-museum.jp

 

5.遠藤利克展―聖性の考古学(埼玉県立近代美術館

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会期:2017年7月15日~8月31日f:id:tanazashi:20170730114617p:plain

遠藤利克(1950-)は現代の日本を代表する彫刻家です。1960年代から70年代にかけて芸術の原理をラディカルに問い直したミニマリズムや「もの派」の洗礼を受けながらも、それらの地平を越えることを課題として、遠藤は1980年代の現代美術シーンに関わっていきました。美術における物語性の復権を掲げた遠藤の作品では、舟や桶、柩(ひつぎ)などのモチーフが古(いにしえ)の文化や神話的な物語を喚起する一方、水や火などのプリミティヴな要素が、人間の生命の根源にあるエロス(生の衝動)とタナトス(死の衝動)を呼び覚まします。作品の圧倒的な大きさは身体感覚にダイレクトに働きかけ、畏怖と恍惚が、そして生と死が一体となった、より高次元の感覚へと観る者を導いていきます。それは遠藤にとって、芸術を通じて「聖なるもの」に近づくことなのです。

www.pref.spec.ed.jp

6.日本美術のススメ キーワードと巡るぶらり古画探訪(群馬県立近代美術館

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会期:2017年7月15日~8月27日

本展は、「屏風(びょうぶ)」「六曲一双(ろっきょくいっそう)」「たらしこみ」「切箔(きりはく)」といった名称、形、技法や表現に関する用語をキーワードとして解説し、戸方庵(こほうあん)井上コレクションをはじめとする多彩な作品に交えてご紹介します。用語を知るだけではなく、作品を通してその意味を実感していただき、作品の持つ魅力に迫ります。
戸方庵井上コレクションは、高崎の実業家であり、文化人でもあった井上房一郎氏が蒐集(しゅうしゅう)し、昭和49年(1974)、当館の開館を機に寄贈された古書画のコレクションです。中国の南宋から清時代、日本の平安から江戸時代にわたる作品から成り、質、量ともに充実しています。また、近代美術館である当館にその枠をこえた分野の作品があることは、多面的な展示や作品研究ができる強みでもあります。
今回は、長谷川宗宅(はせがわそうたく)《柳橋水車図屏風(りゅうきょうすいしゃずびょうぶ)》や伝俵屋宗達(たわらやそうたつ)・本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)《卯の花図屏風(うのはなずびょうぶ、仙厓義梵《万才(まんざい)図》など戸方庵井上コレクションの古画の名品を一挙公開するとともに、群馬にゆかりのある2人の画家、金井烏洲(かないうじゅう)と小室翠雲(こむろすいうん)に注目し、主に近世から近代にかけて幅広く展示します。また、画材、下絵、画法書、なかなかお見せする機会のない掛軸の箱や画家が使用した印章、さらには県内外の素晴らしい作品を加えて、様々な見方から豊かな美の世界をご案内します。
約3年ぶりの古画の競演です。魅力あふれる日本美術をご堪能ください。

mmag.pref.gunma.jp