チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

漫勉 浅野いにお

浅野いにお 浦沢直樹 対談

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「仕事しちゃおうかなって感じになるね」

「そうですね。無理矢理そういう気分にしないとだらだらしちゃうんで・・・」

「ここだけで完結するようにするんですけど」

「漫画家さんの机周りとしてはシンプルだよね」

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「たしか20位違うんだよね」

「そうですね。高校くらいの時MONSTERだった」

「その若い、次の世代の人たちの感覚ってのはそこの代表格っていうふうに見えますよね。そういう新しいビートの感じって言うかね。」

*アシスタントは二人だけ

*午後2時ごろ仕事を開始

トレース台でアタリをとる

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「これ、青のシャーペンなの」

「そうですよ。水色のシャープペンシルの芯」

「それだけでいいんだ」

「最悪、消さなくても印刷には出ないらしい」

「ずっとGペンですか」

つけペンに関してはずっとこれで」

「すっごく不思議な角度で持っているんですけど、親指の方にペンの背が来ているくらいなかんじで・・・(ほんとだ)よくこれでペン先をコントロールできるなと思いながら見てたんですけど・・・」

「ぼく、昔からつけペンって書きづらいなと思っているんで、角度の問題かもしれないです。ちょっとショックです。」

 

「これは何ミリですか?」

「たぶん0.05のミリペンなんで、細い線書きたいときはこれかボールペンの0.25」

 

「この髪の毛ですよ。いつもやっぱり浅野さんの髪の毛のその流れがね、まあ、美しいわって見てたけど、このペンなんだよね」(そうですね)

 

「これ、この細かい作業ねすごいよね」

「こういう作業は平気なんですね。決められた範囲に細かいものをミッチリ埋めていくという作業は全然苦じゃない。永遠にこれできる。細かくできるだけ細かくしたい。もっと。」

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「今はペン画にいかに写真を合わせていくか」

「このデデデがはじまったときに、あれっアナログっぽい線になっていると思って、で前のプンプンのときの方がもっとデジタルルっぽかった。融合の具合がだいぶ違うんだ」

「そうですね。だいぶ比率が変わりました。ちょっとアクシデント的な、アナログ的な要素をちょっと入れたいというのもあったんですよね」

「隙を作るってのか、読者が入ってくる隙を作る。隙ってのはやっぱり大事で、あまりにハイクオリティなものってみんな以外と求めていないっていうか・・・」

「ペン先使いこなすのが大変だな。ヒーヒーイイながら描いてる線っていうのが実は個性になっていて、あまりにうまい線が達者に入っていると、そこには誰かわからない無記名な感じになってしまって・・・」

「そうなんですね。デジタルだと「完全にきれいな曲線」が描けるんですけど、もうそれって計算で・・数式で表せる線だから、誰でも再現できる線になっちゃう。ムラとかエラーを起こしている部分がそれぞれの絵の個性ということになってしまうわけだから・・・」

 

「どういう場所かってことがまず最初に決まっていないと何も想像できない。だからたとえば東京なのか地方なのか、その東京に住んでいるキャラが何区に住んでいるのかで人間性が変わっちゃうんで」

「浅野さんの場合は取材から入っていってそこにある風景が物語を紡ぎ出す」

「そうですね、町があって、別に実在の町でなくっていいのですけれども、舞台として町というものがあった上で、そこに暮らす人たちという順番になるので、順番的には景色とか背景の法がまず先にあって、むしろそっちの方がメインということもあるとおもうんですよね」

 

「背景が主人公みたいな系譜っていうのは、浅野さん世代だとどの辺の人なんですか」

「僕が学生の時にたまたまつげ義春を読む機会があって、そこに一瞬すごくかぶれたというのがあるんですよね」

「通るよねあそこはね」

「あと最近浅野さんの作品を見ていると、水木しげるが相当見え隠れするんですよ」

「そうです、鬼太郎とかもそうですけど、リアルな背景に超デフォルメされたキャラクターが、あのバランスがたまらないんですよ。僕的には、「ヒバナ」の別冊で描いたやつとか、草むらの中に潜んでいる小人たちみたいな、あのときの草の入れ方は、おっ水木漫画だって感じがある。あこがれのあの絵にデジタルサイドから近づくみたいな」(そうですね)「水木先生のあの路地の感じとかね、軒下の縦線の入れ方とか」

「生活感とものの質量みたいなものが感じられる背景、それとやっぱりアナログでかけ網とかを使って描かないと表現できないものがあってああいうものに憧れますね」 

 

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「主人公も別に普通にすくすくと育ったね、女の子とかにした方がいいのかなとは思うんですけど、どうしても恥ずかしくてできない。嘘くさい。」 

「いかにキャラにキャラをつけさせないかということ。たとえばキャラクターの名前でさえ本当は決めたくないというところがあったりして・・・」

「いや、名前をつけるってすっごい嫌な作業なんですよ」(嫌ですよね)

「HAPPYって漫画の時に、うだつの上がらないコーチ3人ってのが出てきたときに、布田国領柴崎(京王線の駅名)っていうのを・・・ある地域の人たちしか笑わないギャグっていう・・・笑 なんか深く考えないっていうか」

「安直であればあるほどいいって感じがするのね」(そうそう)

「物語に対して作者側がどれくらい干渉すべきなのかっていう問題になってくるじゃないですか。物語に作者が出すぎちゃうと読む人にとってそれがウザい」

「僕が以前「ソラニン」という漫画を描いていて、そこでヒロインの女の子にそばかすを描いたんですよ、でそれは僕がまっとうな美少女を描かないっていう、ある意味僕からの宣言だったんですけど、以外とそこが「逆にいい」みたいなこと言われて」

「絵っていうのはフェティシズムの宣言なので、昔から古今東西、絵描きっていう者が描いている絵というのは、おまえはそこをエロく感じているのかだとか、良く気づいたなと長年なんかいいと思っていた、それはそこなのかということを提示する」

「読者としては自分がひっそり抱えていたものを代弁してくれたわけだからそれはかなり救われると思うんで、僕は今のこの漫画の女の子、基本的にはよだれを垂らしている。よだれ垂らしていてもかわいいっていう人がいるんですよ。僕もそう思うんですけど、ここが今ね「引かれる」かどうかの瀬戸際なんです」

「あそこはギリだね」(全員笑)(そうですか・・・)

「浦沢さんもなんかのインタビューで、美少女はあまり描きたくないみたいなことをおっしゃってましたけれども」

「おまえ、これかわいいと思っているのかっていうのが出るのが恥ずかしいのですよ。すごいそれがなんか照れちゃうんですよね。自分では(好みと)ずらしている」

「こういう話をしていると浦沢さんは青年誌の作家さんなんだなあってすごく思う(笑)少年誌だったらダイレクトにかっこいいもの、かわいいものでもいいのかもしれないですけど」

「なんかその辺をごまかそうとする何かがあるのですよね」

 

「これはグレーですよね」

「グレーです。だいたいグレーの10%っていうのがトーンでいう61番相当の濃さになるので・・・」

手書きスクリーントーン・自分で作った自家製のかけあわせトーンみたいな感じでしょ。あれが実は下手なアナログよりもアナログっぽく見せちゃっている。これはでもコンピューター使ってやっている人たちにはすごい刺激的な画面でしょうね。今回かなり惜しげもなく見せてくれていますけどね」 

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「木魚です。これもまた作中に出てくる宇宙船のアタリとして使う」 

「撮影スタッフの」

「ものすごい機会が密集している感じを・・・」

「絶対そういう装置じゃないと思いますけどね。自分の中でリアリティがあればもうそれでいいっていう感じなので、」 

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「ちょっと見たことない風景ですものね」

「めちゃくちゃそれっぽい」

「僕今までSFとかファンタジーとかやったことがないんで、こういうものを創作自分でデザインしろといわれたときにけっこう躊躇がある」

「コンプレックスもあるでしょ」

「ありますね。そういうのあまり向いてないっていう」

「これ専門にやっている人たちっているじゃないですか。ロボットデザインとか。ぼくPLUTOのときそうですよ。PLUTOのロボット。それこそロボットどうするっていわれて、まあそのコンプレックスたるやひどくて。でもういいやと。小学校上がるか上がらないかぐらいの時に鉄人28号を描いていた。開き直ってもう鉄人28号でいいやっていうデザインでもう描いてみんなに笑ってもらおうと。ちょっとギャグになるじゃないですか」

「リアリティ保てないんだったらもうまったくむちゃくちゃにしちゃった方がいい」

「たまに思います。普通に描いた方が早いんじゃないかと」

「それはこの作業のVTR見ながら思いました。でもきっとこれらの作業すべてを遊びのように楽しんでやっているんだと思いますよ」

「デジタルを使うことで目新しい絵の表現ができたら楽しいじゃないですか。そのための面倒くささはあまりいとわずにやるというか、変なところだけアナログなんですよね。こういう。何でここは手で描いているんだろう」

「完全に90度回転させた見開きっていうのを一度やってみたくて」

「落ちている感じを出す。それを最大に生かすなら見開きで縦だと思って・・・なんかすごい地味になりそうで怖いな」

 

「何パターンくらい」

「とりあえずぼくは30パターンを。一番大きいの30パターン。このあとにスタッフにさらに小さなやつを60個くらい描いてもらったかな。それを素材として」

「それだけあれなんだ。実は書き下ろしなんだ」

「これこそコンピューターならではの処理になってくるんですけど、いっても結構大変な作業じゃない」

「面倒くさい作業ではありますね」

「確かにじゃあこれをアナログしか手法がないときにこの絵を作ろうかと思ったかっていうとやらなかったですね。デジタルツールで何かが新しいことができるかなとかこの機能を使ったらこれできるんじゃないかなとか、確立できたときは凄く面白い瞬間で・・・」

 

「これはありなのかなしなのかっていうのを読者の反応で試しているときが一番面白い」

「あー、ここは引くんだとかね。あくまでお客さんをハッとさせるということだからね」

「最終的には読者がおもしろがってくれればそれでいいので」

 

「原稿用紙ってのは270×180というのがだいたい漫画の通常の雑誌サイズの120%大で描いている。で、そういうのを鑑みながらどのくらいの密度で絵を描こうかっていうのを考えているんですけどコンピュータを使ってしまうと拡大縮小がいくらでもできる」

「最近僕が思うのがデジタル作家の絵がどんどんでかくなってきている。すごく引いた画面でコマに顔とか描いちゃうと、実際単行本とか雑誌になった時にえらいどアップになっちゃうんですよね。引いて描くとわからない。小さい絵を描いているからわかんないじゃないですか。ちっちゃい絵を描いているから」

「逆に僕ら小さい絵を拡大して描くと思っていて・・・遠くにいるモブなんか書き込まれすぎて見えたりする。そういうこともあるけど真逆のケースもある」

今の人は電子書籍で見る人もいるから、あれって見る方も大きさって自由自在じゃないですか・・だから何が基準かはもうわからなくなってきている」

 

「遠くにいる侵略者はトーン処理でちょっと色濃くして奥行き出さないとちょっと混ざっちゃうかもしれないから」

 

「答えがないな。この作業はどこで終わっても結果的にはあまり変わらないんですけど、コピペかよっていわれるんだろうなと思ってこれ」

「いや逆だって・・・描いてるのかよっていうのが強いです。浅野さんのコンピューターの作業を見ていて、決して手を抜くとか楽をするためのコンピューターではないってことは痛いほどわかりました。」

「ハハハッよかった」

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 「単行本でどうなるかだな。ぜひ拡大してみてもらいたいな」

「コンピューターというおもちゃを手にしてこれで何ができるかっていうことを実験しているっていう風に考えると、それだったら楽しそうだなって」

「だからなるべく人に教えられたくない。教えられてしまうとつまらなくなる」

「それだったらジミ・ヘンドリックスみたいにギターを手にとっていきなり歯で弾いてみたというようなことをやってやりたいという感じなんですよね」

「この道具をこういう風に使ってねといわれるとそういう風には使いたくない。それをいったら台無しなんだよって。発見みたいなものがあるから、次の絵を描いてみようってなれる。」