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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「沖縄 見つめて愛して 写真家・平敷兼七」

井の中の蛙一天を見つめる。天は全世界とつながっている。つきぬけてゆくと宇宙にもたっする。」
高校の先生がいった言葉が沖縄の写真を撮影していく力になった。
基地の中に沖縄はあるとよく言われているが、私は沖縄の中に基地があると思いたい。
人が住んでいる約四十七の島でなりたっている沖縄を「復帰」前後の時期から
撮影したのがこれらの写真である。この写真集を通して、沖縄の歴史とは、
沖縄とは、沖縄人とは何かを感じてもらえればと思っている。

 

写真集『山羊の肺 沖縄一九六八―二〇〇五年』(影書房)の冒頭に書かれている言葉です。

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ETVで放送された日曜美術館「沖縄 見つめて愛して 写真家・平敷兼七(へしき・けんしち)」は、61歳で亡くなるまで、40年間にわたって沖縄の人々を撮り続けた写真家・平敷兼七を特集した番組です。

番組では平敷の写真に衝撃を受けたという写真家、石川竜一氏が平敷の足跡と写真を辿ります。 

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1948年、アメリカ統治下の沖縄に生まれた平敷がレンズを向けたのは沖縄の海でも、基地でもなく・戦後の混乱期を必死で生きる無名の人々でした。22歳の時訪れた南大東島で”料亭”と呼ばれる夜の店で働く女性たちと出会った平敷は、貧しさの中で生きる人々こそ自分の撮るべきものだと確信します。

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「普通は人は死んだら無になるって言うんだけど、やっぱり人は死んでも何かを教えているようなね、感じがするわけですね。それを生きているこっち側が感じとらなけりゃあもう、それまでですよね。」(ドキュメンタリー「うしなわれしものたち1968~2005・沖縄」2008年 RBC琉球放送のインタビューより)

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本島に戻った平敷は、夜の街に通い、女性たちとの信頼関係を築きさ津英を重ねます。しかし戦後、本土復興の盛り上がりのなか、世間は彼女たちから目をそらすようになっていきました。そんな人々を肯定したい・・・・。たくましく生きる女性や、貧しき労働者、無名の老人たちなど、誰も見ようとしなかった"沖縄の姿" が平敷の写真には記録されています。

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疎外された人への愛情

 飾らない「写真ヌジャー」 

 

障害者、アル中、薬物患者、職業婦人、半端者等、いずれも家族や社会から排除された人々に愛情の目を注いでいる。

「脳は宇宙をかけめぐる」は、薬物患者であり、「まわりの人の心を豊かにする少年」は、おそらく知的障害であり、「昼間から酒を飲む人」はアル中であり、「私にジュースをおごってくれた女性」も普通ではない。

さらに、「籠を作り部落の者から金をもらい生計をたてている男」「双子を産み一人は家族にとられ、もう一人をとられまいと逃げ回っている女性」「部落に帰ってきた人を最初に迎えてくれる人」もまた、家族や社会から排除され、疎外された人々である

それらのタイトルは、彼ら彼女たちへの平敷の愛情と親近感をよく表していて愉快だ。
シャレてない。
哀れんでいない。
気取ってもいない。
自然のままの表情が実にいい。
だから、余りも不足もない。
愚直な山羊のようだ。
平敷の飾らない優しい人格がここにある。
それにしても、排除され疎外された人々の、何とも優しいまなざしでなないか。
何とも屈託のない笑顔ではないか。
何とも素直で美しい人々ではないか。
彼らこそ、一切の常識やしがらみから開放された自由人ではないのか。
山羊の肺とは、自らの運命を受け入れ、しなやかに強く生き抜く彼らの事ではないか。
平敷は、そう問いかけ、彼らを排除した僕たちを逆照射する。
写真を「ヌジュン」という。
ヌジュンとは、魂を抜き取ることだ。
平敷兼七は、社会の周縁で強く生きる、内臓たちの喜怒哀楽に寄り添う、山羊のような優しき「写真ヌジャー」なのだ。
写真展の盛会を期待したい。

大城和喜(元 南風原文化センター館長)が写真展によせたことばの中には、女性たちの存在を丸ごと肯定し、慈しむことによって、写真を撮るという行為が持つ暴力性を昇華させた平敷の仕事への敬意がにじみます。 

山羊の肺 沖縄 一九六八‐二〇〇五年―平敷兼七写真集

山羊の肺 沖縄 一九六八‐二〇〇五年―平敷兼七写真集

 

タイトルの山羊は沖縄の生き写しといえる言葉です。山羊は気性はきまじめでおとなしく優しい動物です、しかし最後にはその絶妙な味ゆえに殺され食べられてしまいます。

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人生をマンガタミー(人の不幸をみんな自分で背負うこと)して底辺で生きる人々を見つめ続けた写真は、私たちに強い感動を与え続けます。

山羊の肺 [ 平敷兼七 ]
価格:3780円(税込、送料無料)


 

この写真集は、当時大学生だった中條朝氏が平敷氏とその作品に出会い、強い衝撃と感銘を受け、写真集刊行を決意して奔走して刊行しました。

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南風原文化センターを中心に県外にもまたがる友人・知人らの支援によって創り出された幸せな写真集といえます。そして、2008年度の伊奈信夫賞を受賞しました。

 

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平敷兼七(へしき・けんしち)の世界

https://www.facebook.com/kenshichiheshikigallery/


制作:NHKエデュケーショナル

ディレクター:今 理織

NHK沖縄放送局 | さぁたぁちゃんの取材日誌

制作統括:佐藤念彦、棚谷克巳、 村山 淳