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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「木版画 未踏の頂へ~吉田博の挑戦~」

日曜美術館

ダイアナ妃が愛した日本の版画があります。

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ダイアナ妃が自らの執務室の壁にかけていたのが吉田博の2枚の木版画です。f:id:tanazashi:20170129110749p:plain

画家は、自然と人間の間に立って、それをみることが出来ない人のために自然の美を表してみせるのが天職である。

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左:「光る海 Glittering Sea」 右:「猿沢池 Sarusawa Pond」f:id:tanazashi:20170129110905p:plain

日曜美術館木版画 未踏の頂へ~吉田博の挑戦~」は、洋画家、風景画家としての素養を持ちながら版画家として新たな境地を切り開いた画家、吉田博(1879~1950)の特集です。

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吉田博は明治、大正、昭和にかけての風景画家の第一人者です。久留米市に生まれた博は三宅克巳*1の水彩画に魅了され洋画の修行をはじめます。

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博の作品は当時アジアの美術品を収集していたデトロイトの実業家・チャールズ・フリーアの目に留まります。彼の招きで明治32年に渡米。伝統的な日本の美術品を見慣れていたデトロイトの人々の関心を集めます。

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作品は大いに売れ、ロンドンやパリを巡って帰国します。しかし日本では彼の作品はなかなか評価されませんでした。日本画壇の中心は黒田清輝の率いる白馬会によって占められていたからです。淡い色彩を特色とする明るい外光派は「新派」と呼ばれました。博の色彩は濃淡の差があることから官僚的な色彩を持つ「旧派」と呼ばれる明治美術会の仲間として扱われたのです。

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自然を愛した博の人柄を偲ばせるスケッチが残されています。

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作品に光を当てたのは版画というメディアでした。大正9年(44歳)頃から新版画運動を進めていた渡辺木版画店から引き合いがありました。博は始めての木版画を出版し新境地を開きました。

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free-artworks.gatag.net

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水彩・油彩で才能を発揮していた博が木版画を始めたのは49歳。西洋画の微妙な陰影を版画で表現しようという前代未聞の挑戦でした。博が描こうとしたのは版画を使って水の流れや光のうつろいを驚くほど繊細に描くことでした。

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番組では博のお孫さんにあたる明浩さんと刷り氏の沼辺信吉さんお二人の協力を得て、版画の再現を試みます。

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版画は、一枚の作品を刷り上げるために、絵の構成要素を分解した版木と呼ばれる原盤を何枚も何枚も作り、それぞれに色をつけて刷り重ねます。そのため一枚の印刷物を刷り上げるための工程数は色使いが多くなればなるほど増えていきます。

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博は様々な技法を駆使して作品に挑んでいたことが再現を見ることでわかります。

特に色が薄く切り替わるグラデーションの再現が特徴的です。江戸時代の浮世絵では、一枚の版木に色の濃淡をつけて刷りましたが、博の場合は「ねずみ版」と呼ばれるぼかし専門の版木を挟んでいたことがわかりました。

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日本を離れ、東西の芸術作法を自分の目で見つめた博は、おそらく「これが日本人の洋画だ」と思いながら、世界における自らの位置を考えつづけた画家だったのでしょう。

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博の版画の特色として、平均30版以上といわれる多色刷り、細部での亜鉛凸版の使用、大判木版画などがあげられます。なかでも帆船シリーズに代表される、同じ版木を用いて色を替えて刷ることによって、時間や気候の変化を表した同版色替の技法は大きな特色のひとつです。

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自然を描き続けた博は、その後インドなど外国に題材を求めます。最晩年の作品は日本の農家をモチーフとした作品でした。

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日本では無名に近い吉田の作品が海外で圧倒的な人気を集めていた。まるで日本のアニメーションの評価のようです。吉田の遺伝子は、現代アニメーションの背景画に受け継がれていると、感じることがあります。特にスタジオジブリでの仕事で知られる男鹿和雄氏や山本二三氏が描く背景画の質感。「有頂天家族」のアートワーク(川面恒介氏)などに見られる色彩感がそれです。吉田の蒔いた種が日本のコンテンツの中に育ち受け継がれているように思えてなりません。

av98ingram.wpblog.jp

 

博は10代頃から旅行や登山を好み、30代から40代にかけては毎夏日本アルプス周辺の山に登り写生をつづけたそうです。自ら山に登って光や視点、構図を手に入れることで独自の世界観を得たのではないでしょうか。 

 

ディレクター:井上元

取材:渡邊秀治

制作統括:村山淳/堀川篤志

制作:NHKエデュケーショナル

制作プロダクション オフィスラフト

 

◇生誕140年 吉田博展 

穂高日本アルプス十二題など、雄大な自然の美しさを描いた大回顧展が開催されます。

2017年4月29日(土)~6月18日(日)

生誕140年 吉田博展 | サントミューゼ

 

「吉田博 全木版画集」吉田博 著(阿部出版)

明治期に衰退していった木版画工房の中にあって、自分のためだけの工房を営むことのできた吉田博の木版画集。浮世絵の美質を継ぎつつ、洋画家としての写真絵画を木版画化すべく努力した吉田の全作品をまとめた画集。

吉田博全木版画集第2版 [ 吉田博 ]
価格:6480円(税込、送料無料)


 

 

吉田博 全木版画集

吉田博 全木版画集

 
吉田博 作品集

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山と水の画家吉田博

山と水の画家吉田博

 
吉田博全木版画集

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20世紀の日本芸術 吉田 博 - 作品集 - (フォレストサイド)

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こころにしみるなつかしい日本の風景―近代の浮世絵師・高橋松亭の世界

こころにしみるなつかしい日本の風景―近代の浮世絵師・高橋松亭の世界

 

 

  

www.yamada-shoten.com

 

*1:1874年~1954年。明治から昭和初期に活動していた日本の洋画家