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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「あるがままこそ美しい~メアリー・カサットの挑戦~」

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メアリー・カサット(米国の女性画家、版画家 / 1844~1926)の言葉です。

女性が画家になることが難しかった19世紀、画家を志し21歳でアメリカからパリに渡り、数々の困難を乗り越え才能を開花させた女性です。

 

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横浜市横浜美術館で開催中のメアリー・カサット展を見てきました。 平日の水曜日でしたが、館内は立ち止まってじっくり眺めることができるほどの人の入りです。f:id:tanazashi:20160726155934j:plain

「眠たい子どもを沐浴させる母親」*1を掲げたポスターが象徴するように、カサットは「母子像の画家」として知られています。日本では35年ぶりとなる回顧展です。

作品リスト

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http://f.hatena.ne.jp/tanazashi/20160824100629?key=5t5JWWA0xdrg68BR

チラシ

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http://f.hatena.ne.jp/tanazashi/20160824100630?key=5t5JWWA0xdrg68BR

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メアリー・カサットは米国ペンシルヴェニア州ピッツバーグ郊外の裕福な家庭に生まれました。画家を志し、21歳のときに父親の反対を押し切ってパリに渡りました。古典絵画の研究から出発し、やがて新しい絵画表現を模索するなかでエドガー・ドガと運命的な出会いをとげ、印象派展への参加を決意します。

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ドガのパステル画を初めて目にした時の回想です。

カサットの油彩画やパステル画、版画の代表作に加え、エドガー・ドガベルト・モリゾなど交流のあった画家たちの作品やカサットが愛した日本の浮世絵版画や屏風絵なども併せて約100点が初期から晩年にいたるまでの時系列で並んでいます。

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展示は大きく3つのテーマで構成されています。青雲の志を持って渡欧したカサットが男性中心の画壇の中で、自分の才覚と画家との交流で成功していく時代。ドガとの出会いや浮世絵のとの出会いを経て画風が変化する時代。修業時代に見た聖母子像や浮世絵に描かれた日本の子どもや女性像から母子像に視点が定まっていく時代です。  

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ドガの友人の娘をモデルに描かれたそうです。右手前のソファーに、少女のリラックスした姿態、左のソファーには子犬。奥には二つのソファーが交互に描かれ、部屋の奥行きを構成しています。通常の肖像画と異なり、だらしなく足を投げ出している少女像、あまりにも日常的な場面構成が、当時としては斬新過ぎたのかも知れません。パリ万国博覧会のアメリカ部門への出品を断られています。

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「沐浴する女性」1890~91

カサットは、1886年に第8回印象派展覧会に出品した後、印象派の手法からいったん離れて独自の技法を探りはじめました。1890年にエコール・デ・ボザールで開催された日本の浮世絵展に刺激をうけて本作を含む、多色版画の連作画10枚組を25部限定で制作しました。

「背中の輪郭を一本の線で描き、女性の肌の柔らかさとボリューム感を表現した。その描線はドガが嫉妬したほど」(沼田英子主席学芸員

細く柔らかな髪の描線はドライポイント、木版画のような質感の色面はアクアチントと、技法を使い分けています。

頭の部分が鏡に映っていることで、作品世界に広がりが生まれます。鏡は歌麿が描いた浮世絵でも、鏡をのぞく女性がたびたび登場するようによく使われるモチーフです。

背中の肌の部分は、色の表現や、ストライプ柄の淡彩の柄、逆S字を描く立ち姿と構図が楽しめます。

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展覧会ではカサットが影響を受けたとされる浮世絵も展示されていました。湯浴みや行水は浮世絵で好まれた画題です。カサットも喜多川歌麿らの版画を所蔵していました。

油彩画、パステル画、版画、などさまざまな技法にトライし、それがすべてうまい・・・!印象派の塗りと、浮世絵のラインを手に入れたカサットの充実感を感じることができます。

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展覧会の中盤に配置されているのが「眠たい子どもを沐浴させる母親」です。母親が子どもの足先を洗う、子どももその様子を見つめている。二人の緊密な関係が画面に構成されています。

カサットは一生涯独身で子どもを産むことはなかったのですが、絵のテーマに母と子を選ぶことが多くなったと聞きました。母と子を題材にした代表作が数多くあります。 

本展を企画したのは横浜美術館主席学芸員の沼田英子氏です。

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「カサットは、アメリカのコレクターに印象派の作品の収集を薦め、アメリカに印象派を広める懸け橋となりました。女性の職業画家がまだ少なかった時代に、さまざまな困難を乗り越えて意志を貫いたカサットの、力強くエレガントな生き様は、現代の私たちにも勇気を与えてくれるでしょう」というのがカサット展の企画意図だそうです。

なぜカサットは生涯独身を貫きながら母子像を描いたのか?ドガとの交流の真相は?気になった二つの点について、展覧会では解説がなかったように思います。

しかし、会場に掲げられていたカサットの年譜にはドガの死没年が記載されていました。さらに年表はカサットが晩年、ドガの手紙を全部焼いてしまったことが記載されていました。これはいったいなにを意味するのでしょうか。

カサットはパリに来て画家のドガから手ほどきを受けたり、銅版画を共に研究したり、ドガの最後はカサットが看取ったとありました。

展覧会では憶測による表現はありませんでしたが、カサットの行動にロマンを感じることができます。学芸員の沼田英子氏の企画展示は時代を切り開いた女性に対する敬意が込められているように思えました。

 盛夏を迎えた美術館前の広場で水遊びを楽しむ母子の姿が、鑑賞をより印象深いものに変えてくれました。

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日曜美術館「あるがままこそ美しい~メアリー・カサットの挑戦~」

メアリー・カサットの生き方を、いきいきとした“母と子”の絵に秘められた格闘の物語を軸に描いた番組です。 

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女性が一人で外出することも、自由に絵の題材を選ぶこともできなかった時代。カサットは身近な家族や友人とその子供たちを徹底的に観察し、こまやかな視点で描き続けた。一見、親密で仲むつまじい母と幼い子の絵。しかしそこには現実の母と子の間にある、目に見えない複雑な心情までたくみに表されていた。女性であるが故の制約や偏見、身の回りに起きた苦難と闘いながら、新しい美に挑んだカサットの知られざる魅力をひもとく。

 

メアリー・カサット-主要作品の解説と画像・壁紙-

9月27日から京都国立近代美術館へ巡回します。 

メアリー・カサット展 | 京都国立近代美術館

cassatt2016.jp


www.nhk-p.co.jp

メアリー・カサット画集: 母と子と偶像 (世界の絵画)

メアリー・カサット画集: 母と子と偶像 (世界の絵画)

 

 

カサット (岩波世界の巨匠)

カサット (岩波世界の巨匠)

 

 


 

*1:部分:ロスアンゼルス郡立美術館蔵