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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

ハドソン川の奇跡 を見る

「われわれは自分の仕事をしただけだ」

離陸直後にエンジン事故に巻き込まれ、ハドソン川に不時着した機長の言葉です。

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危機に直面したとき、計算通りに正しい手順を選ぶか(ただし時間がかかるという難点が伴います)、それともおおむね正しいものと思われる経験則を選ぶのか私たちは迫られます。だいたいにおいて後者を選ぶのが人間ですが、選んだあと起きた責任を前者が問い詰めます。

2009年1月15日乗客155人を乗せたニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が、ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に不時着水した航空事故。この実話を今年86歳のクリント・イーストウッド監督が映画化した最新作です。

離陸直後に渡り鳥と見られる鳥の集団に衝突。二つのエンジンが破損した状況の中とっさの判断でハドソン川への不時着を決意した機長は、乗員155人全員の命を救います。

 

奇跡の帰還、乗客乗員全員生存というグッドエンドともいえる実話をイーストウッド監督はなぜ映画化しようと思い立ったのでしょうか。

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ストーリーは、英雄となった機長の判断へ疑いが掛けられるところから急展開します。事故の原因を調べ始めた事故調査委員会はトム・ハンクス分する機長の言い分を認めようとしません。保険会社と航空会社の肩を持つような態度で嫌疑を積み重ねていきます。イーストウッド監督が得意とする事実の積み重ねのような硬質な店舗で進行します。まさに「裁判映画」のような構成です。自分の判断が間違っていたのかも知れないと悩む機長の心理が描き出されます。

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さらに映像も凝っています。エンジン事故から着水までのわずか3分半の出来事を航空機に寄り添うように撮影した臨場感あふれる映像が、スリルあふれる編集で引きつけます。

前作「アメリカン・スナイパー」や受賞作「ミスティック・リバー」のようなバッドエンドとならなかった所はやや食い足りない気もします。(水中から発見されたエンジンのエピソードも、後出しじゃんけんのようにみえるのも構成ミスだと思います)

しかし、実際に起きた事故を元にした筋書きなので、結論はわかっているのですが、事故鑑定を巡る攻防やどんでん返しのような展開はカタルシスあるエンターティンメントとして楽しめました。

イーストウッド監督の作品としては小ぶりな印象を感じていたら、制作スタッフの名前が連なるエンドロールにとびきりチャーミングな仕掛けが用意されていました。

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スタッフロールが唐突に切り替わり、番号を抱えて読み上げる人たちの映像が映し出されます。3D、15F、36A・・・ほどなくそれが何を意味するものかが分かった瞬間、体が揺さぶらるような感覚がしました。数字は座席番号。集まった人たちは事故機に事故機に乗り合わせた乗客たちでした。

映像だけ取り出せば、それは平凡な仲間うちの記念撮影のようなものなのですが、1時間半近くの本編の最後に位置づけられると、映像に記録された人々の姿が輝きだして見えました。

数字にはそれそれの人生があります。機長が守ろうとしたのは155人の人生だった。

偶然乗りかかった航空機が縁でつながる見知らぬ同士の絆が深く心に迫ります。

生きていることの喜び。監督はこれが描きたかったのかもしれません。

このシーンから映画作りがはじまったとガッテンしました。