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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「1945年 黒の黙示録 香月泰男 丸木位里・俊 川田喜久治」

「人間」はつねに加害者のなかから生まれる。被害者の中からは生まれない。人間が自己を最終的に加害者として承認する場所は、人間が自己を人間として、ひとつの危機として認識しはじめる場所である。

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 内村剛介「あさましいから美しいのだ」「シベリア画集」香月泰男著  新潮社の巻末批評文より

 

 

日曜美術館「1945年 黒の黙示録 香月泰男 丸木位里・俊 川田喜久治」

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戦後日本を代表する3つの連作が初めて一同に展示された。香月泰男の油絵。丸木位里・俊の日本画。川田喜久治の写真。過酷な記憶が刻まれた黒い傑作群は、いま何を語る?

放送日

2016年10月16日

番組内容

戦争の果てに生まれた連作3つ。シベリア抑留体験からにじむ思いを塗りこめるように香月泰男が描いた「シベリア・シリーズ」。広島の原爆で目の当たりにした惨劇を忘れないよう、人間一人一人を絵にした丸木位里・俊「原爆の図」。原爆ドームのシミを軸に戦争と戦後をつなぐ時空を写した川田喜久治の「地図」。これらが並んだとき何が見えてくるのか。共通する“黒”。誕生までに必要だった長い沈黙。いまに響く作品の力とは?

【ゲスト】映画監督…小栗康平,平塚市美術館 館長代理…土方明司,【出演】写真家…川田喜久治,原爆の図 丸木美術館 学芸員…岡村幸宣,【司会】井浦新,伊東敏恵

 

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シベリアシリーズと名付けられた57点の作品。黒の表現が圧倒的なシリーズ。その中で異彩を放つ絵があります。「埋葬」です。

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画面左。一人の男が過酷な戦闘で命を落とした占有を弔う光景。香月が日本に戻った翌年の1948年真っ先に描きました。

「死んだ戦友のためにできるだけ明るい雰囲気に描いてやろうと思って描いたんです。かわいそうにという気持ちもありますし、これでお前たち日本に帰れるのかという羨望感もありました」

弔う方が死者を羨むほど、厳しい抑留生活。この絵には男の顔が描かれていません。描けなかったと言います。この絵のあと香月はシベリアを10年近く封印します。

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香月が出征したのは32歳の年でした。戦地で2年。さらに敗戦後捕虜となった香月はシベリアに抑留され2年にわたる強制労働を強いられます。氷点下30度を下回るシベリアの冬。寒さと飢えにより、収容所の仲間250人のうち30人あまりが半年で命を落としました。

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抑留生活をなんとか生き延び帰国を果たした香月は故郷の小さな村で高校の先生をしながら再び絵筆を取ります。

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シベリアを封印した香月。家族との暮らしの中で身近な草花を絵にすることに熱中していきました。

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台所には香月が描く色鮮やかな宇宙が出現しました。しかし、何か足りませんでした。アトリエにこもった香月はシベリアの夢をよく見るようになります。

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「時々話しますが、あまりつらい思い出は話しませんでした。それは、ものすごくつらかったのでしょう」

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この頃の香月の絵にはうつろな気配が漂います。人物の多くは後ろ姿。顔をあえて省く描き方も目立ちます。

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もはや戦後ではないと言われ始めた1950年代なかば。画家の中に刺さったままの棘がうずきました。香月は鳩の足を掴んだ青年の姿を描きます。

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「戦争による膨大な犠牲の代償として唯一与えられたもの。戦争への憎悪による平和への願望だったはず。日本人は今、それを忘却しようとしている。私は段美的な仕事をしているわけにはいかない。鳩が飛ぶときではない」

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中東や朝鮮半島など世界各地で戦争がまた始まっていました。絵描きとして自分が出来ること。香月は自らの中にあるシベリアの記憶と向き合う覚悟をします。それは、自分の顔を探すことから始まりました。

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さらに亡くなった戦友たちの顔。個性がそぎ落とされていく顔。香月が手にした顔です。そして黒。抑留中に絵の具代わりにした煤を手がかりに、香月はシベリアの色を木炭に見つけました。

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シベリアを封印すること10年。香月は描き始めました。

シベリアの事など思い出したくない。しかし、白い画布を前に絵の具を練っているとそこにシベリアが浮かび上がってくる。絵にしようと思って絵にするのではない。絵はすでにここにある」

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香月は再び戦友の弔いの記憶が蘇ります。10年前は顔が描けなかった埋葬の光景。

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「涅槃」。生けるものも死ぬるものも包み込む悟りの境地。黒の中に埋葬の記憶を描きました。

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シベリアを描きながら、私はもう一度シベリアを体験している。私にとってシベリアはいったん何であったのか。私に襲いかかり、私を飲み込み押し流していったシベリアを今度は私が画布の中に飛び込みねじ伏せることによってそれを捉えようとする」

 

 

ディレクター:岩田弘史

制作協力:レノンズ*1

info25820.wixsite.com

制作:NHKエデュケーショナル

 

香月泰男(1911年10月25日~1974年3月8日):画家。1969年「シベリア・シリーズ」で第1回日本芸術大賞を受賞。黒と褐色を中心にした暗鬱な色調でおおわれた画面、木炭や方解末を混ぜた油絵具を塗り重ねていく独特の手法で知られる香月泰男の〈シベリア・シリーズ〉は、彼がシベリア抑留中の記憶をもとに、帰国後、故郷・山口県三隅町で制作し続けた日本絵画史上、類をみない作品群です。全57点にも及ぶシリーズは、その一点一点が、シベリアでの鮮烈な記憶、体験を物語っており、作品としての造形的な美しさと力強さをたたえています。

 

blog.kenfru.xyz

 

www.city.nagato.yamaguchi.jp

 

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丸木位里・俊:丸木夫妻は、広島に投下された原子爆弾の様子をいち早く目撃し、代表作となる《原爆の図》をはじめ、 戦争や公害など、人間が人間を傷つけ破壊することの愚かさを生涯かけて描き続けました。

丸木美術館−丸木夫妻略歴と館史

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川田喜久治:写真家1933年1月1日茨城県土浦市生。土浦第一高等学校に入学後、立教高等学校へ編入。高校卒業時に写真専門誌「カメラ」の月例に応募し、審査員・土門拳木村伊兵衛の目にとまり特選を得る。 立教大学経済学部に入学、写真部に在籍し1955年に卒業、新潮社に入社。「週刊新潮」の創刊時よりグラビア撮影などを担当する。1957年、第1回「10人の眼」展(小西六フォトギャラリー)へ出品、日本写真家協会会員となる。1959年に新潮社を退職しフリーのカメラマンとなり、初個展「海」(富士フォトサロン)を開催。同年、佐藤明、丹野章、奈良原一高東松照明細江英公らと共に「VIVO」を結成(~1961)する。 1961年に個展「地図」(富士フォトサロン)を開催。1965年に最高傑作となる写真集「地図」(美術出版社・限定800部)が出版され、2005年には復刻版・写真集「地図」(月曜社・限定1000部)が出版される。

http://www.ymterui.jp/kawada/in.htmlより

 

取材先など

川田喜久治 Kikuji Kawada

 

av98ingram.wpblog.jp

 

展覧会

www.city.hiratsuka.kanagawa.jp

 

香月泰男

シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界

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香月泰男 シベリア画文集―全作品の自筆解説文と学芸員解説

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戦場へ行った絵具箱―香月泰男「シベリア・シリーズ」を読む

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 丸木位里・俊 

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In the Wake 震災以後 : 日本の写真家がとらえた3.11

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*1:NHK・民放のディレクター・プロデューサーを経て、2009年9月に代表の岩田弘史が設立した新しい制作会社