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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

「足下の小宇宙」雑草にもドラマがある・甲斐信枝さん

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「足元の小宇宙~絵本作家と見つける生命のドラマ~」

 

blog.kenfru.xyz

 

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今日はどんなタネを探すのかな。アメリカフウロ。変わった形の草花です。かわいい飾りがついている。こっちは棒の根元に丸い玉がついている。

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「これがタネ。中の白っぽいのがタネ。5個ある」
このタネどうやって出てくるの?実は棒の部分が裂けて丸まると同時にバネのようにタネを放り投げるのです。

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「いたいた。いるけど、やる気かな。やる気あるかもよ。このへんのヒト」
豆のさやがついている。黒いからカラスノエンドウです。

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さやから豆が飛び出した。力を加えるとさやが二つに割れるんだ。さやが乾燥して縮むと真ん中の裂け目が耐えきれずにはじけるんです。まるで自分で種まきしているみたい。

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「ああいいもの見た。こんなにだって。人間でいえばお産だって。同士にあった気がする。同士、がんばっとるかって気がしない?あんたもがんばってるねって思わない?よく頑張ってるという気がするんだなお日様を」
「タネは草がつくった草の子ども。飛んで、飛んで、飛んで、土に落ちて芽を出して大きくなってタネをつくる」

 

#安住せよ。植物の教え

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植物の営みを人間と重ね合わせて見つめる甲斐信枝さん(85歳)。生まれは広島ですが、家族と京都に移り住み、それから40年近く自然が残るこの地で仕事を続けています。甲斐さんと植物とのつきあいは子どもの頃にさかのぼります。学校より野山が大好きだった少女時代。草笛を吹いたり遊び回っていました。大人になってからは草花の美しさに惹かれ、仕事やアルバイトをしながらスケッチを続けました。

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書きためたスケッチをもとに40歳で絵本作家としてデビュー。大好きな植物を題材に、次々と作品を生み出しました。

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「焼けたの。焼けたスケッチブックの焼け残り」
なんと隣の火事が燃え移り、自宅が全焼の被害に遭遇。描きためた70冊ものスケッチがほとんど焼けてしまいました。この時支えてくれたのが植物でした。

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「私人生観変わったの観察しているうちに。草が教えてくれたのは安住せよ。長い長い自分たちは生きてきた歴史の中から自分たちは安心しているんだって。細かなことでガタガタ思うなって。安住せよ。ちゃんと時間が解決するって。それはもう大変な財産でしたよ」
草の生き方に教えられたという甲斐さん。このあと周囲が驚くような絵本を作り上げることになります。

f:id:tanazashi:20161223224609p:plain代表作「雑草のくらし」発行部数5万部を超え、30年以上たった今も版を重ねているロングセラーです。

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それは絵本作りというより壮大な実験でした。舞台は70平方メートルほどの空き地。更地になった場所でどんな植物がどんな営みを繰り広げるか、5年をかけて毎日のように通って観察したのです。結果は甲斐さんの想像を遙かに超えていました。

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いろいろな草が生えてくると思っていたら、一年目はメヒシバが空き地の王者に。ところがそこに外から種が飛んできて、f:id:tanazashi:20161223224709p:plain

2年目はオオアレチノギクに乗っ取られてしまいました。

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3年目はカラスノエンドウが蔓を伸ばして入り込んだものの、クズとヤブガラシが上から覆い尽くして天下を取ってしまいました。いつも同じように見えていた雑草の世界は栄枯盛衰。戦国時代差ながらの熾烈な戦いが繰り広げられていたのです。

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夏。そんな戦いを間近で見ることができるといいます。
「草が騒いでいるという感じがするんですよ」
春とは大違い。草ぼうぼうですね。

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「私にはぼうぼうじゃなくって元気よくやっているようにしか見えない」
この草たちも勢力争いの真っ最中なんだ。
縄張りを回ってこんどはタネと遊んだ草むらにやってきました。

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「えー。刈ったんじゃ」
きれいさっぱり刈り取られている。

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「なんとまあどんなに期待してきたのに。あーあ。ここにオオアレチノギクとかセイタカとかいっぱいの予定だった」
ここはもともと畑雑草たちも波瀾万丈の人生です。
「みてよーこれそうじゃん」

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小さな芽がびっしり。草が刈られて光が当たったおかげで土の中のタネが芽を出したんですって。
「こういうことやるのよ連中は。ハッハッハ」
甲斐さん実はすべてお見通し。「雑草のくらし」を制作していたときのことです。観察の最後に当たる5年目。

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放っておいた草を全部取り除いたら驚いたことに消えたはずのメヒシバが芽を出したんです。

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土の中のタネがチャンスが来るのをずっと待っていたのです。
「育とうとして競争している。ちょっとでも地面があったらそっちに這っていく。もう熾烈な戦いを見せてくれましたよ。これだって何も遊んでいるわけじゃないですからね。考えてるんだよ。この連中は。人間が考えてるようじゃ体で知ってるよ」

どの草もそれぞれの戦略で戦っている。雑草にもこんなドラマがあったなんて。
甲斐さんが「頑張ってる」という気持ちがわかってきた。

 

#宝物

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甲斐さん今日はどちらに。
田んぼや畑など人の傍らで暮らす生き物も大好きなテーマの一つ。
農家の方に協力していただき観察やスケッチを続けています。

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野菜を作っている北川勝治さんです。キャベツ畑で私たちに是非見せたいものがあるといいます。
北川さんは農薬をあまり使っていません。

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「こんな虫食いのキャベツはないよ」
キャベツはモンシロチョウの幼虫の大好物。チョウが集まる北川さんの畑を舞台に甲斐さんは一冊の絵本を作りました。主人公はキャベツの葉の裏側に張り付いている謎のへんなもの。

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ありがちょんとつついたら変なものはうごいた。
実はこれモンシロチョウのさなぎ。

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時々動くこの生き物を甲斐さんは「ピョコリ」と名付けました。
ある日ピョコリはチョウになって飛び立っていきます。それを観察しようと待ち構えていたとき。甲斐さんまたしてもお宝をもらったのです。

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「赤とか青とか黄色とかに光るんです。すごくきれいです。それが目を奪う。私独り占めじゃもったいない。誰かに見せたいけど畑まで来る人はいない」
朝方もう一度キャベツ畑を訪ねることにしました。

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「こんなにあがってきてますでしょ。たまっている」夜明け前の畑では、キャベツの
葉っぱに水玉が並んでいます。これが光るんだ。

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「お日様が出た。光った。角度だ」

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顔をほんの少し動かすと色が変わって見える。光は水玉を通るとき、色によって屈折する角度が違うそうです。そのため色が変わって見えるんですって。
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彼岸花に挑戦

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実りの秋を迎えました。この時期田んぼのあちこちで甲斐さんが待っていたある物が姿を現します。彼岸花です。f:id:tanazashi:20161223225544p:plain
わずか数日で畦が真っ赤に縁取られました。f:id:tanazashi:20161223225559p:plain

魔法のように突然姿を現し、数日で輝きを失う不思議ないのち。子どもの頃から甲斐さんの心を捉えて放さなかったといいます。これまで何十枚となく描いてきましたがまだ満足行く一枚が描けていないのだそうです。f:id:tanazashi:20161223225617p:plain

「ここはきれい。こっちの色の方が上品」

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ようやく納得いく一本にたどり着きました。
6時間かけて描きましたが、失敗。

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「どうしても鋭くて重い感じがが出ない。重みが出ない」
でもあきらめず、おしべの黄色を描き続けていきます。

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「申し訳ないですよ。こんな立派なお手本があるのに。訳のわからない絵を描いてしまって。これであきらめて。この次はうまく描いてやろうというのがダメなんだ。相手に近づこうとしないと。こういう連中はどこまで行ってもおいでおいでするから。永久に追いかける」
甲斐さんどうやら今年も満足できない出来だったようです。
一年のうちでほんの数日しか出会えない彼岸花。85歳の甲斐さんの挑戦は続きます。

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毎日通り過ぎていても気がつかない足下の草花の楽しさ。ちょっとしたコツで見つけることが出来るんですって。
「足下の雑草を見るときは相手と目線をそろえる。目線はああいう目線とこういう目線とでは美しさが全然違うのよ。別のもののように美しく見えます」

足下は無限の楽しさが見つかる小宇宙。たまにはほんの少し歩みを止めて、足下のお宝を探してみませんか。