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日曜美術館「グラナダ 魂の画譜 戸嶋靖昌」その1

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日曜美術館グラナダ 魂の画譜 戸嶋靖昌」その1

 

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秋田県で育った戸嶋靖昌は、1953年武蔵野美術大学の西洋画科に入学しました。入学当初から優れた才能を示し将来を嘱望されるようになります。
画家の甲田洋二さん。蔵野美術大学時代の後輩です。

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「戸嶋さんは入学したとき住まいがなくて学校に住んでたのです。一種の無頼派でしょうね。実生活のことを気にしないで、まず自分の造形に関してできるかぎりそこに注ぎ込む」

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3年生になると彫刻の勉強も始め絵画と彫刻。その両方で技量を上げていきます。

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青を基調とした裸婦像。戸嶋30歳のときの作品です。セザンヌの影響も見て取れる力強い色と彫刻的な造形。対象の実在感にいかに迫るかを日夜追求したことがうかがえます。

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33歳の時、銀座の一流の画廊で古典を開きます。暗い色調。画廊はいま流行の明るい色調を使うよう進言します。

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しかし、戸嶋は拒否。汚い色を使いこなさなければ本当の美しさは出てこないと、信じていたのです。戸嶋は画壇に出る大きなチャンスを逃します。1970年。このころ戸嶋は近くの神社の森をたびたび訪れて作品にしています。f:id:tanazashi:20170122153348p:plain

出口の見えない、暗く閉塞感に満ちた森。当時の心境が色濃く反映されています。戸嶋は絵を描くことに深い行き詰まりを感じていました。人間性はもとより、その人が背負ってきた歴史までをも描きたい。どうすればそこに行きつけるのか。若い戸嶋は苦闘します。

 

f:id:tanazashi:20170122153351p:plain1970年。世間を揺るがす大事件が発生します。作家・三島由紀夫の割腹自殺。三島の文学や美意識に共感していた戸嶋は強い衝撃を受けます。そして、画壇の名声や富のむなしさと決別して日本を離れることにします。

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40歳となった戸嶋は、妻子を日本に残し、単身海を渡ります。その地はスペインのマドリードでした。

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スペインが世界に誇るプラド美術館。戸嶋は毎日のようにここに通いました。自ら求める新たな芸術を生み出す上で不可欠な作品があったのです。その作品とはスペイン・バロックを代表する画家・ベラスケスの作品群でした。

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最高傑作「ラス・メニーナス」。世界三大名画の一つです。
多くの人物が集う空間。その場の空気感まで描き切ったベラスケス。戸嶋はその描き方の根源は何かと探りました。
例えば遠くから見るとリアルに見える衣装やブローチなどは、近づくと大雑把な筆運びで描かれています。こうした技法がベラスケスのリアリズムを支えているのです。戸嶋は美の対象に向かう時、その都度言葉を残しています。

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「ベラスケスの絵は崇高なものだけを求めている。崇高とは生命の神秘と悲哀だ」

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ベラスケスのリアリズムに触れた戸嶋。その姿を追ってベラスケスの故郷の近郊に移り住みます。

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聖母・マリアの誕生を祝うアスナルカサルの聖体行列。戸嶋も見たこのカトリックの祭事は毎年9月に行われるものです。町は宗教的な熱狂に包まれ、人々は目に見えない神の存在をリアルに感じます。スペインでは今も生活に根差した敬虔な信仰が生きています。戸嶋はこうした宗教体験に触れて自分が求める新たなリアリズムのヒントを得ていきます。

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聖体行列の世話役サンチェスさん。彼は戸嶋の作品を持っているといいます。
今まで全く知られていなかったその作品を見せてもらうことにしました。絵のモデル、サンチェスさんのおばは小間物屋と魚屋を商う女性でした。

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戸嶋は日頃の感謝の気持ちを込め、作品をプレゼントしました。この油絵はスピード感のあるタッチと大胆な省略で描かれています。細部が描かれていなくてもモデルの温かい人柄が伝わってきます。

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「幼いころからこの作品の筆遣いと色合いに衝撃を受けてきました。まるで話しかけられているというか、じっと見られているかのようです。僕は絵の中に伯母さんを強く感じます」
人々との交流を深めながらスペイン社会になじんでいきました。

 

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戸嶋がスペインを選んだのはベラスケスに加えて、もうひとつ大きな理由がありました。

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「死にゆくキリスト」日本にいるときこの作品を画集で見て強く魅きつけられました。
エスの凄惨な姿が一切美化されることなく再現されています。イエスが人間の贖罪のために払った苦しみを忘れないためにリアルに表現しているのです。

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その生々しい姿を見た人々はあたかも自分が目撃したかのように感じるのです。生命の根源。魂までをも描きたいという戸嶋は、ここでの体験で多くの発見をしていきます。

 

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戸嶋靖昌 : 自ら進んで弟子となった者たちによる本 (樹流山房): 2009|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

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