チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」とキュレーター・片岡真実さん

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現代アートを中心に様々なジャンルの展覧会をキュレーションしてきたのが森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実さんです。片岡さんのインタビュー記事を読むと、展覧会を陰で支えるキュレーターが果たす使命と役割を再確認することができます。

www.realtokyo.co.jp

日本アートの位置づけ

言語化できない感覚というものを日本だけの問題として捉えるのではなくて、東洋、アジアをつなぐ何らかの課題として見たときに日本の在り方が見えてくるのではないか。日本は他のアジア諸国と比べて中途半端に早く近代化してしまいましたが、近代化と自国の伝統や文化という二重性は、この20〜30年、どの非欧米系文化の中でも大きな課題になっています。メキシコでもロシアでも、ラテンアメリカでも、みんなが独自性を模索している。日本はその課題を100年前に議論し、その後戦争に突入し、戦後はアメリカの背中を追いかけて、バブル崩壊して、この20年は目標や位置づけを喪失して漂流している。

世界基準のアートというのはいま、存在しない

西欧近代化以前の文化を持ち続ける地域には、大地のエネルギーを感じ取ったり、ヒエラルキーや時間の概念さえない社会や共同体で暮らす人たちがいる。彼らが共有する近代化とは別の価値観を再検証してみると、日本の自然観や宗教観にも驚くほどつながりがあって、それが現代アーティストの作品にどのように反映されているのか、いまとても興味を深めています。

一方、ニューヨークやハリウッドのカフェで編み物をするのが流行っているという話もあるように、ハンドメイドという非効率的で生産性の低い作業への欲求も広がっています。スターリング・ルビーのように彫刻の素材として粘土や焼き物をアーティストが使うような現象からも、近代化、大量生産、合理化、効率化と相反する価値観が再評価されていることは実感します。意識の中で仮想空間の占める割合が大きくなっている世代の中で、温度や触感など感覚や精神性といったものに対する自然な欲望が生まれているのだと思います。

片岡さんがキュレーションした展覧会が「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」( 2017年2月4日(土)-6月11日(日)森美術館)です。N・S・ハルシャは1969年にインド・マイスールで生まれのアーティストです。

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www.mori.art.museum

 

「今日のインド現代美術のなかでも、最も洗練されたアーティストのひとりとして国際的にも高く評価されて」いるハルシャは、インドの伝統文化や自然環境に向き合いながら、絵画を中心に宇宙や日常の営みまで幅広いテーマを取り上げた作品を発表しています。

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インスタレーション「空を見つめる人びと」(2010)。床に描かれた人々の上に立ち、天井を見上げると、群衆の中に紛れて空を眺める自分を発見することができます。「人々が見つめる先にあるものは何か」「自分はどこにいて、世界はどこに向かっているのか」など、様々な思いを巡らすことができる作品です。

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ハルシャの作品には大勢の人々が登場します。老若男女や様々な職業の人々、映画のヒーローやインドの神さま、動物まで登場します。描かれたキャラクターは約2000人(匹)。何度見ても新しい発見が有り、見飽きません。

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ハルシャは故郷インドの一地方都市・マイスールを舞台にした作品も数多く制作しています。日常生活を題材に政治経済や文化さらにはグローバルな動向を批判的に捉えた作品からは、日本とは異なる文化と価値観の違いを読み取ることができます。

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遊び心あふれる豊かな発想と地域に暮らす人々への温かいまなざし、やんわりとした批判精神。中国やアフリカ、インド、中東など成長著しい地域の現代アートの中に、きらりと光る作家や作品が次々に生まれていることがわかります。

「世界基準のアートというのはいま、存在しない」という発見に出会うことができます。

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【展覧会レポート】森美術館「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」 | 編集部BLOG | 六本木未来会議 -デザインとアートと人をつなぐ街に-

ひるがえって日本を見ます。

日本のアニメ産業は1兆8253億円となり、前年比12.0%増となった*1そうです。アート・エンタメ系の持つ潜在力はあなどれません。http://animationbusiness.info/wp-content/uploads/2016/09/%E7%84%A1%E9%A1%8C2.jpg

大衆文化を含めた日本文化を国内外へ発信することで、国際貢献と産業の育成を進めていこうというのが日本の戦略です。平成28年3月にまとめられた報告書*2によると、クールジャパン産業を支える人材確保のために外国人人材の受入促進をめざす方向性が示され、その恩恵を受けるかのように、私たちはかつてないほど豊富なコンテンツに接する機会が増えています。

 

技術や表現メディアを「日本のブランド」にして育成するだけでは、輸出を中心とした一方通行の振興策にとどります。100年前の明治初期、日本の書画骨董が海外に流失した時代と意識の上では変わりません。注意して見ていかなくてはならないのが、ハルシャ展のような非西欧のアートなのではないかと思いました。

日本の文化が伝承してきた精神性。自然観や価値観を世界に伝え、別の価値観を持った人たちの精神性や価値観を共有することが、日本文化の発信力をより力強いものにしていくように思います。

 

*1: 日本動画協会が11月に発表した「アニメ産業レポート2016」から

*2:「国家戦略特区における追加の規制改革事項等について」