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チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「ティツィアーノ ヴェネツィア 欲望の色彩」

日曜美術館

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日曜美術館ティツィアーノ ヴェネツィア 欲望の色彩」

ティツィアーノの手による傑作絵画「フローラ」が来日中。モデルが実在しないこの美人画はなぜ人気を保ち続けるのか?その秘密に各界の第一人者が迫る。

CGアーティストや、肖像写真の名手による分析の結果、ティツィアーノはそれまでになかった方法で絵画にリアリティーを与えていた事がわかってきた。それは、人間の認識や、内面性に対する深い洞察が元になっていると思われるのだ。さらに、当時衝撃を持って迎えられた裸体画。エロスを追求したかに見える作品にティツィアーノが込めたメッセージとは?アンドロイド研究の第一人者、石黒浩さんとともに、名画の深部へと踏み込む。f:id:tanazashi:20170226170049p:plain

【ゲスト】大阪大学教授(知能機能創成工学)…石黒浩,東京都美術館学芸員小林明子,CGアーティスト…TELYUKA,写真家…坂田栄一郎,【司会】井浦新,伊東敏恵

放送日

2016年12月4日

放送

フローラの秘密

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15世紀末の北イタリア。ティツィアーノは裕福な両親の元で生まれ育ちました。幼い頃から画家を志し10代前半でヴェネツィアに移り住みます。貿易で栄え、アドリア海の女王といわれたこの町は画家にとってチャンスの宝庫でした。商売で成功したセレブたちの間で、部屋を絵で飾ることがブームになったのです。

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彼らは厳粛な宗教画より目で見て楽しい娯楽性の強い絵を好みました。求められたのはローマやフィレンツェで流行していた神話の女神たちを描いた作品。中でも花の女神フローラは男女とわず人気のキャラクターでした。ティツィアーノはそんな時代の空気を敏感にとらえます。

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フローラ。ティツィアーノが20代で描いた出世作です。人々を驚かせたのはファッション。

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純白のドレスは当時流行した下着。肩から羽織っているのはベネツィア特産の織物です。赤みがかった金髪は人気のヘアスタイル。ティツィアーノは神話の世界の住人ではなく、身近な存在として描いたのです。やがて多くの画家が手本とする美人画の定番となりました。当時のフローラの人気を物語るエピソードが残されています。

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「19世紀になってもフローラを模写しようという画家はあとを絶ちませんでした。そこで当時の館長が、フローラの模写は一日十人までというお触れを出したのです。いかにこの作品が愛されてきたのかよくわかります」500年の時を超え愛され続けるフローラ・・実は、ほかにも人々を引きつける秘密が隠されていたのです。

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現代の美人画作りに挑むアーチストに分析してもらいました。CGアーチストTELYUKA。リアルを追求した作品で注目されています。手がけているのはモデルのいないバーチャルな女子高生。f:id:tanazashi:20170226171406p:plain「saya」。圧倒的なリアリティです。その高い表現力は海外でも話題です。なまなましさの秘密は手作業へのこだわり。写真などのデータは一切使いません。

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肌は油絵のように何層にも色を塗り重ね、微妙なグラデーションを表現。作品はデジタルでも頼りにするのはアナログな直感です。「どう一枚の絵だけで人を引きつけるのかというポイントの一つは、透明感を大事にしてますね。肌の透明感だったり髪の毛のふわふわ感だったり、ほっぺたの軟らかさを表現するのがすごく難しい」f:id:tanazashi:20170226171633p:plain

 

人は肌の表現には敏感で、つくりものっぽいとすぐに見抜かれてしまうのだというのです。さらに人を引きつけるための工夫があるとか。

「好きな先輩が目の前を歩いていて、先輩が振り返ったときにちょっと媚びたかわいい表情を・・輩早いよ。もうちょっとゆっくり歩いてよみたいな。(妄想が)ちょっとした人間らしさというか、生々しさが想像力をかき立てるポイントなんですよね」
そんなTELYUKAの二人はフローラをどう見るのでしょうか。

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「意外と小さい。肌の立体感がすごい。グラデーションとか。うっすら青白い。血管みたいものが見える気がする。実物だと組織が見えるような生々しさが。透き通り感がすごい。すごい。ここにいますっっていう。存在感がすごい」
二人が注目したのは肌の質感。複雑な色使いで実現したティツィアーノの高度な技。

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「どうやって描いているのか描いているところが見たい」
さらに見る人の想像力をかき立てる細かい演出にも注目。
「いいにおいがしてきそう。いい声で話してくれそう。すごい美人というわけではないけど。からいらしい。髪の毛もフワフワフワとした、あえてウェーブになっているというところもかわいさを盛り上げる要素の一つかな。かわいいって、一般的に受け入れられやすい感覚です。売れる要素。かわいいは癒やしも入っているので。一般の人たちもわかりやすいですよね。エンタメになっている。自分だけの感覚に固執しないで見ている人の感覚にも寄り添って作ることができる人なのかな。だからみんなにもわかりやすくて、受けいれられたのかもしれない」
リアルな質感と想像をかき立てる演出。見る人を楽しませ様々な工夫が愛される理由なのかもしれません。

 

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石黒さんは人間とは何かを知るためにアンドロイドを制作しています。より人間らしく見せるためには私たちが普段無意識に行っている微妙な動きが大切だといいます。

石黒「たとえば目の動きとか、無意味な体の動きというのが非常に重要なのです。目が動いていて体が止まることはない。人間の揺らぎというのは非常に重要です。想像の余地をたくさん残すということが大事です。見る側、関わる側の想像をできるだけ引き出す。そういうことを意識すると誰でも画関わりやすいアンドロイドになる」

見る者の想像力が生み出すリアリティ。石黒さんはフローラにもそんな仕掛けがたくさん仕掛けられているといいます。

石黒「二次元の絵を描こうと思って描いていないと思うのです。人の存在感をどう表現するかということを結構意識されている。

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たとえば、まず表情に目がいくじゃないですか。視点が定まらない目があったり、笑っているか笑っていないかわからない表情があったり・・・はっきりした感情じゃない。非常に中途半端でニュートラルな感情を目で表現しているので、見る側が戸惑うわけですよね。いろいろ想像するじゃないですか。それが人を立体的に表現するような手法になっているのではないか。見る側が自分の物語を想像して作れるような、そういう情報の立体感がすごくうまく取り込まれているという気がします。f:id:tanazashi:20170226172532p:plain手の表情もすごく重要で、この手どうしようとしているのか・・握ってもいないし、チョキっぽいし。親指どこに行っているのか。動作が少し曖昧なところがあるのと、見ているとき解釈が揺れるので、解釈の中にずっと置かれると、動いている錯覚を覚えるので、ですから制止画を動かすには曖昧な表現を随所に取り入れる。花を持っている右手もそろえていないし、薬指どこに行っているのだろうかとか、瞬間的に引き込まれる視線がある。そういうのが立体感につながるように思います。


見るたび変わる不思議な表情・パウル三世

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フローラで一躍人気画家になったティツィアーノ。注文が殺到したものがありました。それは肖像画

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魔法のような筆裁きで人物の魅力を引き出す肖像画はセレブたちの間で大人気になりました。額に飾られたもう一つの自分を見て彼らは自尊心を満たしたのです。

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時の権力者たちもその才能に注目しました。当時ヨーロッパの頂点に君臨した皇帝カール5世。特徴はこのとがった大きなアゴ。内向的な性格で近寄りがたい雰囲気を持っていたといわれています。

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ティツィアーノが描いた皇帝の肖像画です。大きなアゴは髭で巧みに隠し、犬を連れた姿にすることで親しみやすさを演出しています。ティツィアーノを気に入った皇帝はパトロンとなり、自らの肖像を次々に描かせ権力を誇示していくのです。これをおもしろく思わない人物がいました。ローマ教皇パウルス三世。カール五世とは政略結婚や権力闘争などで、常に激しい駆け引きを繰り返していました。教皇ティツィアーノを口説き落とすと肖像を描かせます。

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教皇パウルス三世の肖像。この絵をカール五世との会談の場に持ち込みます。薬指に光るのはカール五世から送られたダイヤの指輪。右手で押さえる金貨の入った袋は、経済的支援を暗に拒否するサインだともいわれます。皇帝への敬意を示しつつ自らの優位をアピールする。肖像画は政治の場面でも威力を発揮したのです。

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坂田栄一郎さんは世界の著名人やアーチストを千人以上撮影してきた肖像写真の名手です。坂田さんはティツィアーノの描く肖像画にも人が感動するメッセージが込められている考えています。

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「この人の絵を見ると、強そうなんだけど心根は優しい。生き生きしているのがすごい」
教皇パウルス三世を見た坂田さんは実在感を超えたすごいものを感じると語ります。

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「特別なものを感じる。パウル三世の持つ半端ではないエネルギーを感じる。それは目が語っている。心を動かす何かがある」いったい何を見つめているのか。威圧しているのか、見守っているのか。見るたびに違った印象を受ける不思議な絵だといいます。「自分の今の精神状態によって見え方が違う」坂田さんはティツィアーノが生きた時代にも注目します。写真はまだなく一瞬で人物を見抜く必要があったのです。「ティツィアーノはどれくらいの時間をかけてこの絵を制作したのだろう。写真がない時代だから、パウルス三世と向きあって、一瞬の表情をとらえる。眼力、洞察力すべてにおいてティツィアーノは卓越している」

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小林「目の光っている部分を円白。白一点で描いていますが、的確に捉えています」
石黒「最近のアンドロイドは目が大切です。ハイライトが入るかどうかで生きているかどうかが決まります。最近は眼球のの前に膜をかぶせています。もっと自由用なのはどう動かすか何です。左右の目は同時に動かないとか、常にばらばらに動くとか、そういう特徴はよく出ています。目は向いているんですけど完全にこっちを見ているわけではない。若干左右の目で焦点がずれている。それから右側の顔と左側の顔で明らかに表情が違っている。

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右側は女性的、左側は陰に隠れて男性的で厳しい顔をしています」
小林「衣服の部分を見るとフローラの時より奔放な質感になっています。立体感や質感が見事に残されている。こうした表現が後世につながっている」

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「体は大きく、頭は小さく描いてています。プロなんだと思います。技量だけでなくいろいろなことを考えながら、最適解を出せる人だったのではないかと思います」


究極の官能美と隠された画家の意図

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ティツィアーノの才能にほれ込んだ人たちが最も欲しがったものがあります。それはヌード。神話を言い訳にしなければ裸を描けなかった時代。ティツィアーノは限りなく人間に近いヌードを描き期待に応えました。表現は次第に過激さを増していきます。

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一糸まとわずベッドに横たわる女。「ウルヴィーノのヴィーナス」そのまなざしは誘うようにこちらを見つめています。背景に描かれているのは当時の富裕層が暮らした豪邸。神話の要素はほとんどありません。ヴィーナスを名乗りながらも明らかに情事を連想させるこの作品。持ち主は密かに披露しては自慢したといいます。その裸は聖職者たちをも虜にしました。f:id:tanazashi:20170226175031p:plain

教皇パウロ三世の孫アレッサンドロ・ファルネーゼウルビーノのヴィーナスを超えるヌードを求めます。筆を執ったティツィアーノ。究極の絵に挑みます。f:id:tanazashi:20170226175123p:plain題材に選んだのはダナエの物語。若く美しい王女・ダナエが黄金の雨に変身したゼウスに誘惑され交わるというエロティックな場面です。やがてティツィアーノの挑戦は大きな壁を突破します。

ティツィアーノは、閣下のご注文のもと、厳格な枢機卿も魔が差すほどの裸婦をすでに完成させております。これに比べたら『ウルビーノのビーナス』など修道女のようでございます」

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完成した作品は度肝を抜くものでした。モデルはアレッサンドロの愛人だった娼婦ともいわれます。黄金の雨に変身するゼウス。ティツィアーノは金貨で表現しました。お金でつながる男女関係を暗示しているともいわれます。ダナエはゼウスの愛を受け入れるかのように、両足をゆるやかに開きます。シーツをつかむ指先。快楽に身を任せるその姿は息をのむほどエロティック。まるで情事のさなかを除いているようななまなましさです。神話の面影はもはや一人描かれた天使のみです。

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石黑「顔は片側しか見えていなくて、読み取れる表情は単純ですよね。エロスの向こう側に何があるかというと人間の欲望なので、その欲望に訴えかけるものを描きたいと思うじゃないですか。単に表面的に多少エッチな絵を描いて、表面的に喜ばすなんていうのにそんなな高い芸術性なんて感じられないわけで、なんか未完成な感じさえするんですけどね」

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実はティツィアーノはこの後も繰り返しダナエを描いています。基本的な構図は同じですが、よく見るとダナエのそばにいた天使が金を集める老婆に描き換えられています。石黑さんはこちらのダナエこそが本来ティツィアーノが描きたかったものなのではないかと推測します。

石黑「新しい技法を生み出して、完璧な表現を突き詰めようとしている人なので、欲を表現しようというのなら徹底して表現するのだろう。老婆なら、若さに対するあこがれとかお金に対するあこがれとか、人間の欲望がすべて入った絵になる気がする。人間の欲を表現しようとするとエロティックなものではなくなってしまうので、そうなってはいけないので止めてしまったのではないか」

「欲の表現が押さえられているとしたら、それは注文主が聖職者だったからかもしれない。バチカン枢機卿が頼むというのはあからさまにできることではなかったので、枢機卿の要求に絶妙な加減で答えるというのが、ティツィアーノの腕の見せ所だったのかもしれません」
「プロの葛藤ですかね。裸婦の方は天使を消して暗い背景にすればもっとよくなった」

取材先など 

blog.kenfru.xyz

 

放送記録

av98ingram.wpblog.jp

 

書籍 

ティツィアーノの女性たち

ティツィアーノの女性たち

 
ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち: (世界の名画シリーズ)

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ヴェネツィア 美の都の一千年 (岩波新書)

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ティツィアーノ:c.1488-1576 (巨匠の世界)

ティツィアーノ:c.1488-1576 (巨匠の世界)

 
ティツィアーノ -ヴェネチアの巨匠- (世界・美の旅22) [DVD]

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展覧会

http://www.nhk-p.co.jp/common/event/main/titian.main.jpg

www.tobikan.jp