チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

版画家・一原有徳(いちはら ありのり)

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現代アートに近い斬新な作風で、常に新しい表現に挑み続けた明治生まれの小樽の版画家がいます。一原有徳(いちはら ありのり)さん(1910~2010)です。

日曜美術館 2017年5月21日放送予定

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小樽貯金局に務めていた一原さんが美術と出会ったのは1951年、41歳の時のことでした。友人から譲り受けた油絵に興味を持った一原さんは地域の展覧会の常連となります。あるとき、パレット代わりにしていた石版石に残ったペインティングナイフの痕跡に注目した一原さんはモノタイプと呼ばれる版画の手法に興味を持ちます。

モノタイプとはガラスや金属板などの平らな土台にインクなどを使って絵を描き、乾燥する前にその上に紙を載せて転写するという手法です。彫りなどの製版作業が不要なかわりに、量産ができないため呼び名の通り一枚だけしか作ることができません。

第32回国画会展に出品したモノタイプ作品が初入選を果たします。59年、第27回日本版画協会展に出品した「轉」が初入選。この作品がアメリカ人コレクターに買い上げられたことで、当時の神奈川県立近代美術館副館長土方定一の眼にとまるなど、世間の注目を集める作家になりました。

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作品 Ron(1) (1960)

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一原さんの作品を観ていると、画像の中から人の姿や街の景色などのフォルムや情景が浮かんでくるような気がします。この現象を心理学ではパレイドリア(英: Pareidolia)と呼ぶようです。脳が視覚刺激や聴覚刺激を受けとり、普段からよく知ったパターンを本来そこに存在しないにもかかわらず心に思い浮かべる現象と言われています。

つまり、何らかの具体的なイメージを連想させる。そしてそのイメージを膨らせてゆく楽しみがあるのが一原さんの作品なのかもしれません。

一原は、「何を描いたか」というイメージを特定する鑑賞法に疑問を投げかけます。確かに異星の風景や金属の削り屑、水滴や岩肌など、さまざまなイメージを見る人に喚起させますが、一原には、あらかじめ具体的な対象を想定する意図はないようです。彼は「独創性」を第一とする版画家で、言葉では説明できない、この世にないものを見つけたいと考えているからです。「一原有徳/新世紀へ」(2001)

一原さんは常に新しい表現手法に興味を持ち続けた画家でした。

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職場であった貯金局の地下には彼の作業場がありました。そこで彼は新たな手法、新たな素材、新たな表現に挑戦し続けたと言われています。素材に水酸化ナトリウムなどの溶液をかけ、それによって溶かすことで模様を生み出す手法や、様々な素材を熱したり叩いたり穴を開けたりしたものにインクをのせて刷ることもしました。

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 彼の作品のもつ最大の特徴は、その思想性や題材の選び方にあるわけではありません。新たな手法、新たな素材、新たな触感を生み出すことこそが作品制作の狙いであり、その「挑戦的な精神」こそ、彼の作品から発散されている輝きの本質だったのでしょう。

 

放送が楽しみです。

 

小樽市 :市立小樽美術館 一原有徳記念ホール

 

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