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日曜美術館「ワイエスの描きたかったアメリカ」クリスティーナの世界

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クリスティーナの世界は、アンドリュー・ワイエスが1948年に描いたテンペラ画。

20世紀中期の最も有名なアメリカの絵画の1つです。

樹木の無い殆どが黄褐色の草原に覆われた地面に横たわり、地平線に見える灰色の家や隣接する小さい離れ、納屋を見上げる女性が描かれています。

描かれている女性は、アンナ・クリスティーナ・オルソン(1893年5月3日 - 1968年1月27日)。

ワイエスはどんな思いで筆をとったのでしょうか。

 

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日曜美術館ワイエスの描きたかったアメリカ」

 

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現代美術の電動ニューヨーク近代美術館。ここに20世紀アメリカ美術の最高傑作と称されるワイエスの作品があります。  

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1948年に描かれたクリスティーナの世界です。

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広い草原に横たわり丘の上の家を見上げる女性の後ろ姿。

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草の一本一本まで細かく描きこまれています。

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実は足が不自由なクリスティーナという女性が地面を手で掴み、体を引きずりながら家に帰る姿です。ワイエスはこの絵にどんな思いを込めたのでしょうか。

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クリスティーナの世界が描かれたアメリカ・メイン州クッシング。

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海を見下ろす丘の上に絵のモデルとなったクリスティーナ・オルソンが住んだ家がありました。

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200年ほど前、アメリカ建国後間もないころに建てられたオルソンハウスと呼ばれる家です。当初はここを訪れる外国の船乗りなどを泊める宿として賑わっていました。

オルソン・ハウスはアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されており、ファーンズワース・アート・ミュージアムが管理し、一般に公開されています。

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ワイエスが描いたクリスティーナの肖像です。クリスティーナの父親も船乗りとしてアメリカにやってきたスウェーデンからの移民でした。

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知り合った頃クリスティーナは、弟のアルバロ(オイルランプで描かれている男性)と二人で暮らしていました。

 

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ここでワイエスはクリスティーナからその頃使っていなかった宿や時代の部屋をアトリエとして借り受けます。

 

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「クリスティーナは妻の友人でした。妻との長年のつき合いもあって彼女は私を暖かく迎え入れてくれた。すぐに打ち解けて「この家を我が家だと思ってください」と言ってくれたんだ」

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この部屋であの「クリスティーナの世界」が生まれるのです。

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あるときワイエスはある光景を目にします。それは、外で用事を済ませ、クリスティーナが家に帰ろうとする姿でした。

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歩くことができない彼女は手で草原を這って進んでいたのです。その姿にワイエスは衝撃を受けました。それは不自由な体で力強く生きてきた彼女の人生を表していたからです。ワイエスはすぐさま鉛筆を走らせます。

その衝撃を物語る証が日本にあります。

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東京の都心から来るまでおよそ一時間の埼玉県朝霞市です。

 

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丸沼芸術の森。1985年、若手の芸術家に創作の場を提供するため作られました。

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ここにワイエスが絵を書くための下絵。いわゆる秀作が数多く所蔵されています。若手の芸術家がワイエスの絵を見て学ぶためです。

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クリスティーナの世界の秀作です。

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クリスティーナの世界ワイエスは何枚も秀作を描いたことで知られています。ここにあるだけでもその数12点。

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特にワイエスがこだわったのがクリスティーナの体を支える手の描写です。

 

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手の部分を何度も繰り返し描いています。

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いつも地を這っていたクリスティーナの手の節々は固くこわばっています。

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ワイエスがこれほどクリスティーナの手の描写をたくさんしたということは、クリスティーナの手にものすごく感心を持ったということ。彼女をとにかくあるがままに描くことがクリスティーナに対する尊敬だと。そこに行くと思うのです」

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実際に完成した絵ではクリスティーナの手は力強く大きく描かれています。わいえすにとってこの手は障害がありながらも、この地に根付いて自分の力で生きようとするクリスティーナの象徴でした。

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「彼の作品のテーマはとても普遍的です。人間の境遇について描いているのです。人生で困難な状況に置かれた人々がそれをどう生き抜くのか、どう乗り越えていくのか。ワイエスはそこが描きたかったのだと思います」

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「(ニューヨークの美術館でワイエスの絵を見て)地味だなと最初は思いました。しかし、数秒後にものすごい力強い絵だと思ったんです。印象がガラッと数秒の間に変わったんですが、彼の芸術の素晴らしさというのは、見る人によって多分違うメッセージが出てくると思うのです。希望や力強さも感じますが、すごい絶望も感じます。こういう悪夢ってあるじゃないですか、目指すところにたどり着けない。でも、這っていくわけです。ですから、アメリカって言うとアメリカンドリームを目指して移民してくる人。がんばれば成功したり裕福な生活を遅れるみたいなイメージがありますが、アメリカでの生活の現実というものをバラ色にせず、そのまま冷たく見せてるなと僕は思ったのです」

 

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「人物を描く時ふつう顔を描いてその人の表情をどこかで表すことはあると思うのですが、ワイエスの絵とくにこの絵は、最初のインスピレーションでは、(ワイエスはあの家にいて)あの家から家に戻ってくる彼女の姿を見つけて絵心を動かされているわけですが、けして正面から描くのではなくてその背後に回って描いている。手に何を言わせるか・・・それこそ語るのではなくどう見せるのかというところが重要なポイントであることがわかっていたのだと思います。だからこそ描いて習作がたくさん残されているということだと思います」

「ポーズについては、帰ってから奥さんに様々なポーズをしてもらったという話は残っています。見たのは一瞬だけで、習作を描くときに頭の中だけで婦人にポーズをとってもらって描いたという話です」

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「写実的ではありますがコピーしているわけではない。どういう風にしてリアルに描いたのかどらまがありますね」

・・・ワイエスにとってクリスティーナのはどういったテーマだったのでしょうか。

「彼女の父親も移民で、アメリカを作った礎になった人々で、名前は残らない。障害に対して向かっていく意志の強さをあわせた複層的な大賞だった。ワイエスにとっては単なるもでるではなくかった。それがアメリカを描くことにつながるのではないかと思います」

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アメリカとは何かを描こうとしたワイエス。その後新たな表現に挑戦します。

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これは「晒された場所」と呼ばれる作品の習作です。クリスティーナと弟のアルバロが暮らしていたオルソンハウス。ここには建物があるだけで人物は書かれていません。ワイエスは人物を描かずに人の生活の気配を描こうと試みたのです。

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ワイエスの息子。画家のジェイミー・ワイエスさんです。作品を生み出すため葛藤する父親の姿を覚えています。

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「実際父は激しい画家でした。絵の具や物を投げるんです。なんとかして動きのないものを生き生きとした刺激的なものに変えたかったのです。単に建物を見せるための絵ではなかったのです。建物自体が人になり人が建物になるのです」

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一階の窓。その奥にワイエスは物思いに耽るクリスティーナの姿をよく見かけていました。彼女の存在を感じながら描いていたのです。

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三階の割れた窓ガラスにはカーテンが丸めて突っ込まれています。年老いて窓の修理もできなくなったアルバロの切なさを絵に込めました。

かつては船乗りたちが泊まる宿として栄えたオルソンハウス。その栄枯盛衰までワイエスは描こうとしたのです。

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ワイエスが興味を持っていたのは人間がその土地や建物とどう結びついているか。そこに自分自身が生きた証をどう残すかを描くことだったのです。

そこにはアメリカという国が過去200年にわたって発展してきた歴史を思い起こさせる何かがあり、それがワイエスの興味を引いたのでしょう」

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人の気配が感じられる建物を描くことでこの家が辿ってきた長い歴史と営みを表現する。ワイエスが描きたかったアメリカの姿でした。

f:id:tanazashi:20170917180136p:plain「(見えないものを描くには・・・)いろいろなテクニックがあります。音楽に例えますと音量だったり、いいたいことの半分だけを言うとか、表現したいものを控えめに表現することによって、聞いている側の人がもっと求める。求めて延長線上のものをすべて可能性を想像させるということも可能ですよね。不在の絵みたいなことをおっしゃっていましたが・・・」f:id:tanazashi:20170917090204p:plain

「音楽の中で音のない部分のほうが意味があるときがあるわけです。音楽というものもそのまま伝えるのではなくて、聞いていただいてそこからまた世界が広がるようにすることが目的ですから、ただ事実だけをそのまま伝えることだけではなくてそれ以上のものを感じていただきたいですね」

 

「アーティストの役割とは、アーティストと観客・聴衆と分けて考えてますが、やはり聞いている人たちのクリエイティビティを誘うことが大切だと思うのです。ですから、自分のアート、ささやき、音楽というのはあくまでもきっかけなわけですよね。それを使って見ている人、聞いているひとのクリエイティビティをー・アートを生み出すようにすることが究極のアートなんじゃないかなと思ってます。

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「(ワイエスが再評価されているのは)今の時代だからこそインパクトがアルのかもしれないですね。彼の絵は僕が思うには非常にスピリチュアルな部分があると思うのですね。いろいろな意味で自分の周りの世界がわからなくなってきている。混乱してきた人たちが答えを求めるんだと思うのです」f:id:tanazashi:20170917090218p:plain

「彼の絵というのは、答えはこれだよと言ってくれないけど、観た瞬間に何かを得たような気がするわけです。そこで気が安らぐというか納得するわけです。一瞬彼の絵を見ると、周りの世界、自分の知っている世界が解りやすくなるんです。人間というものはこうあるべきものなのだ。こういうのが人間の真実なのだというのがなんとなく感じるのだと思うのです」

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「今の時代はアメリカ人にとってナショナル・アイデンティティが揺れている時代なんだと思うのです。もともとアメリカは移民が増えてアメリカを形成しているのに、時代が下ってくると次の移民に排斥をするような今の時代になってきている。本来アメリカが持っている寛容さがどうしたのかというところが、ワイエスの絵を見るときに、もともとアメリカってこうだったというナショナル・アイデンティティを思い出させるようなところがあるんだと思うのです」

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「人のあり方をワイエスは、アメリカのために描いたのではなく、自分と共感を持てる周りの人たちを描くことによって結果的に普遍性を獲得しているからこそ、われわれ日本人が見たときも、人の生きざまや人の尊厳だとか、つましく生きてる人たちの重要性だとかを何かしら感じるからこそ日本でも支持されていると思うのです」

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「今の世代。自分もそうですが、すべてをものすごいハイスピートで判断する癖がついているので、僕だって服選びや絵を見る時、大体2秒で決めつけますからね。でもそれに飽きる時ってあるんです。一瞬だけで変わるものではなくもっととらわれて、あれっ、これってもっと裏になにかあるんじゃないかというものを考えさせられる。深いもの。意味のあるものに惹かれてくると思うのです。彼のパワーは一瞬戸惑わせるところがあります。それって今の世代の持つハイペースな感覚の中では必要なのではないかと思います」

 

クリスティーナの世界をはじめワイエスが多くの作品を描いたオルソンハウス。底に広がる草原の片隅に、ワイエスの墓はあります。

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ワイエスは91年の生涯に渡ってアメリカを描くことにこだわりました。

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その集大成といえるのがワイエス72歳の時の作品「スノーヒル」です。

輪になって踊るのはワイエスがこれまで作品に描いてきた人たちです。

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ドイツからの移民で農場を切り開いたカーナー夫妻。

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奥にいるのは

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アフリカ系移民のアダムです。

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父親がなくなったときに描いた自分の分身のような少年の姿もあります。

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同じ移民同士が手に手を取りあってこのアメリカの大地で生きていく。そんな思いをワイエス

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この絵に込めたのかもしれません。

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