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響くアートの愛好家

日曜美術館「メキシコ 謎の“大洪水図屏風(びょうぶ)”」

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日曜美術館「メキシコ 謎の“大洪水図屏風(びょうぶ)”」

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メキシコに謎の屏風絵が残されていた。画題は聖書の「ノアの箱舟」。しかし日本人の技術の痕跡が発見された。作者は誰?秀吉・家康の時代、迫害されたキリシタンの悲劇か?

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メキシコ・ソウマヤ美術館の謎の屏風絵。f:id:tanazashi:20171029105806p:plain画題は旧約聖書の「ノアの箱舟」。

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しかし、舟には東洋の伝説の鳥が乗るなど奇妙な印象を与える。最新の調査で、絵には日本人ならではの技術の痕跡が確認された。誰が、どこで描いたのか?謎の追跡から浮かぶのは17世紀のマカオ。秀吉や家康が活躍した時代、日本に初めてキリスト教が伝来するが、やがて禁教令で迫害の対象に。マカオは信者が追放された場所だった。絵に隠された秘密とは?

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【出演】エッセイスト…三浦暁子,九州国立博物館主任研究員…鷲頭桂,【司会】井浦新,高橋美鈴

放送日

2017年10月29日

 

①屏風の謎を探る

 

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メキシコの首都・メキシコシティ。メキシコは15世紀から19世紀までスペインの植民地だったという歴史を持っています。

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街の中心にあるソウマヤ美術館*1。メキシコ人実業家カルロス・スリムが創設しました。

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世界中から集められた美術品を所蔵しています。

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今から19年前、この美術館が不思議な屏風を入手しました。

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それが大洪水図屏風です。

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縦およそ2メートル。横およそ4メートル。

油絵の具などを使って絵が描かれています。

旧約聖書に登場するノアの箱舟のものがたり。

物語の様々な場面が屏風の左から右に、時間の経過に従って配置されています。

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人間たちの間で悪行がはびこり、神は人間を作ったことを悔いるようになりました。

そして人間に罰をくだすことを決意します。

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その一方で、正しきものであるノアには船を作ることを命じます。

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やがて方舟が完成します。

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舟には様々な動物たちも乗り込みました。

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そこに起こった大洪水。船に乗ったノアたちは無事新しい世界にたどり着きます。

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ノアとその家族は神に感謝を捧げます。

この大洪水図美容部は謎に包まれています。聖書の物語が描かれた屏風は登用独自の調度品。そして絵の中にも幾つもの不思議な表現があるというのです。

ソウマヤ美術館は入手した時、絵の来歴を調べましたがまったくわかりませんでした。

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「メキシコではこうした作品を見たことがありません。とても不思議で興味深い屏風です。カコにどのような場所に収蔵されていたかもまったくわかっていないのです」

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屏風は中国で生まれた調度品。朝鮮半島や日本など東アジアに広がっていました。

西洋など世界に伝わったのは今からおよそ500年前。大航海時代のことでした。

ポルトガル、スペインなど西洋の国々が新たな貿易路の開拓やキリスト教の布教を目的に東アジアにやってきたのです。

西洋の人々は初めて見る屏風を宮殿や貴族の邸宅などを飾る調度として珍重しました。

屏風は中国や日本などから次々と西洋に持ち込まれました。

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このころ日本は戦乱が終わり、天下統一へと向かう時代。

織田信長豊臣秀吉徳川家康などの英雄たちが活躍していました。

日本からは織田信長安土城などを書かせた屏風がローマ教皇に贈られました。

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キリスト教の修道士バルトーリがこう記しています。

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スペイン語の辞書にこんな言葉があります。

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ビオンボ=屏風という言葉がスペイン語として定着したことを示しています。

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西洋でも人気が高まった屏風は17世紀になると植民地で制作されるようになりました。これはメキシコで制作された屏風。メキシコを統治したスペインの副王の宮殿。その前の広場が賑わいを見せています。

f:id:tanazashi:20171029113205p:plainラテンアメリカ研究の第一人者、大阪大学の岡田裕成教授です。

スペインの植民地メキシコで屏風が作られるようになった理由をこう紐解きます。

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「メキシコに残っている屏風にメキシコ的な主題が描かれる。それはメキシコの征服とか、都市景観。彼らにとってはアジアからもたらされた画面形式に彼ら(スペイン人)自身の栄光の歴史、あるいは年の繁栄のイメージを託すということは、自分たちの新しい植民地社会のアイデンティティを表現するにふさわしいと考えられていた」

 

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当時西洋で人気の風俗が描かれたメキシコ製の屏風。

それらに比べてこの大洪水図美容部には独自の特徴があります。

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ノアの箱舟の上に乗っているのは東洋の伝説の鳥、鳳凰です。

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西洋の伝世の生き物、一角獣の傍らに描かれているのは中国原産の牡丹の花でしょうか。

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こちらは方舟の建設の場面。

足場には竹が使われています。

竹はヨーロッパには自生しません。

この屏風は絵の中にも東洋の特徴が色濃く現れているのです。

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この大洪水図屏風が、九州国立美術館で開かれる展覧会に出品されることになりました。日本で初めての公開です。

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実は2013年九州国立博物館はこの屏風を本格的に調査。意外な事実を明らかにしたのです。

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調査を担当した鷲頭桂さんです。

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「この作品の面白いのは裏側です。日本の古い屏風を扱っていられる方は、この裏を見るとアッと思われると思うのですが」

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屏風の裏に見える特徴的な文様。

「日本の古い屏風の裏に使う唐紙の雀紋。

f:id:tanazashi:20171029113317p:plain雀の意匠化したパターンがあるのですが、それにすごく似たマチエールが全面に印刷されているところがすごく面白くて」

 

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これは鎌倉時代に描かれた絵巻。

女性たちの背後にある屏風の裏にも雀紋が描かれています。

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大洪水図屏風の雀紋は日本の伝統的な美術とも強いつながりを伺わせます。

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さらに屏風をつなぐ蝶番にも特徴がありました。

メキシコや中国などで作られる屏風の蝶番は殆どが金属製です。

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しかし、大洪水図屏風には布の蝶番が使われていました。

これは日本特有の高度な技術がなければ作れないものだというのです。

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京都。200年以上前から修復を手がけ、国宝を扱うことも多い表具屋です。

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日本の屏風は蝶番に紙が用いられています。

布の蝶番はこの紙と同じ仕組みで作られています。

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紙の蝶番には大きな長所があります。

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開いたときに隙間ができません。

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そのため大きな画面の絵を切れ目なく描けるのです。

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いっぽう金属では蝶番が邪魔をして、表面に隙間ができ、絵を切れ目なく描くことが難しくなります。

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「紙で蝶番を作ることによって(一枚一枚の)隙間がなくなる。それによって、大きな画面に一つの作品を描いて、開いたところで一体化した作品が見られる」

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紙の蝶番を作るには職人の熟練した技が必要だといいます。

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蝶番に使うのは楮でできた強度の強い和紙・それを互い違いに貼っていきます。

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このとき、全体を糊付けせず。一部を浮かせて隙間を作ります。

この隙間が蝶番のあそびの部分になります。

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「これが糊付けしていないからこそ曲がるわけです。糊付けしていたらここで止まってしまうのです」

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厚みとなる蝶番の大きさはすべての蝶番で均一でなければなりません。

負荷がかかりすぎる部分があると、何度も開閉するうちに、その部分が破れるおそれがあるからです。

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大洪水図屏風の布の蝶番も紙と同じ仕組みで作られています。

切れ目なく描かれた山の姿。

屏風という素材に描かれていますが、切れ目なく描かれた細部が、物語を豊かにしています。

この屏風には日本の熟練した職人が持つような高度な技術が用いられていたのです。

 

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「屏風を調査しようと思ってメキシコに行ったのではありません。南蛮美術を調査しようというのがきっかけで行った所、南蛮美術のすぐ横にこのタイプの作品が展示されていることに気づいて興味を持ったのです」鷲頭

「始めてみたときに日本の屏風のような形をしていること、日本の屏風によく出てくる金の雲の装飾が画面にあったり、裏側に唐紙によく似た装飾があることに惹きつけられました」鷲頭

「私たちが現地で見て興奮している所を現地の学芸員さんはICレコーダーを持っていっしょになって盛り上がっていました」鷲頭

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「始めてみた時圧倒されてのけぞりました。熱量のある作品です。キリスト教の物語をよく知っている人が描いたものだと思います。ノアの箱船は洪水の後、洪水の引いた後の状況を調べるため鳩を放すのですが、聖書をよく読んだ人の手によるものかと思います」三浦

「製作時期についてはこうしたタイプの作品はメキシコでは多く作られていたのですが、絵画的な表現として西洋的なものに変わっています。4つの大陸を擬人化した作品。日本の屏風から離れています。形は日本の屏風ですが美術的には西洋のものです」鷲頭

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ポルトガルリスボンに所蔵されている別の屏風です。こちらは布の蝶番が使われています。スペインからポルトガルが独立する時の戦争」

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「その戦争をテーマにしているので、屏風はそのあと作られたことがわかります。これが一つの基準となって、大洪水図屏風は17世紀後半から18世紀初頭の制作ではないかと推測されます」鷲頭

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取材先など

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ビオンボとは17世紀頃、マカオやメキシコなどで生産されていた日本の屏風を真似た屏風のことをいいます。日本では,その存在がほとんど知られていませんが、海外の人たちに日本に対する関心をかき立てた美術品といえます。

放送記録

av98ingram.wpblog.jp

 

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展覧会

youtu.be

www.kyuhaku.jp

 

*1:メキシコ人実業家カルロス・スリム氏が2011年3月にオープンさせたソウマヤ美術館。スリム氏の亡くなった妻の名前から、ソウマヤという名前が付けられました。自身のアートコレクション約6万6000店を展示し、入場料はすべて無料です。これは、海外に出ることが出来ないメキシコ人のために、自国で芸術に触れることが出来る美術館にしたかったという、スリム氏の意向によるものです。
この美術館は特に15世紀から20世紀のヨーロッパ芸術のコレクションが豊富です。フランス国外では最大のロダンのコレクションの所蔵を誇るスリム氏は、その他にも、レオナルド・ダ・ヴィンチやエル・グレコ、モディリアーニシャガールピカソ、ダリ、モネ、ルノワール、ドガ、ゴッホ、ミロといった名だたる1流アーティストの作品を展示しています。ヨーロッパの巨匠の作品に限らず、メキシコの偉大な芸術家ディエゴ・リベラやシケイロス、オロスコの作品も展示しています。最も高価な作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の"Madonna dei Fusi (Madonna of the Yarnwinder)"です。