人形でしょうか?毛並みの一本一本まで精緻に作られた猫のオブジェはまるで生きているような躍動感を感じます。
ドイツ出身の建築家・ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの標語
「God is in the detail」(神は細部に宿る)を連想します。
実はこれは陶芸作品。猫だけでなく、リアルな鳥やカニが器から飛び出す!という超絶技法の作品です。
日曜美術館「“超絶”を生きた男~明治の陶芸家・宮川香山~」
明治時代の陶芸家・宮川香山(こうざん)は「高浮彫」と呼ばれる究極の器で世界に挑み、海外の万博などで高い評価を受けました。
ドイツ出身の建築家・ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの標語「God is in the detail」(神は細部に宿る)を連想します。
器によじ登らんとする、蟹。器に接する蟹の足は今にも動き出しそうな躍動感です。
その驚きに満ちた器はどのように生まれたのか?番組では、その超絶技法のヒミツに迫るべく、器の一部の再現に挑戦します。見えてきたのは、単なる装飾を越えた香山の奥深い世界観でした。
京都の伝統的な窯元の家に育った香山は、当時貿易の要になっていた横浜に移り住み、外国人相手の陶芸作品の製作をはじめます。
手がけたのは、 カラフルな意匠の陶芸商品でした。
日本を訪れた外国心は、描かれた異国情緒に興味を持ち、これらの作品を「これが日本だ」と喜んで買い求めたといわれます。日本人から見ると「とんでもない勘違い」の陶芸作品だと思いますが、当時の日本は外貨獲得のためにオブジェのような陶芸作品を奨励していたのです。(アニメを中心にしたコンテンツビジネスが重なって見えます)
香山はここでたぶん一皮むけたのではないでしょうか。器の再現に挑む作家(塩谷良太さん)の取り組みを見ると、高い技術を持った香山がさらなる研究に挑んでいたことがわかります。
材料の粘土に一度焼いて砕いた陶片を混ぜたり、樹木の皮肌の型を取って陶器の部品にしたりと、やりたい放題です。番組では、香山の姿勢を「人を楽しませられれば何でもOK」と評価します。
つるつる、くりくりからざらざらまで質感の差。同じものが二度とない。不自然な世界を一つにまとめる香山の世界観は、時代を超えた新鮮な輝きを感じます。
その頂点となったのが蟹の器です。国に買い取られたほどのできばえに香山は何を思ったのでしょうか。
しかし香山はこで立ち止まりませんでした。舞台は陶器から磁器に移ります。香山が挑んだのは磁器の肌触り、とりわ色彩への挑戦でした。
釉薬を重ねて微妙なグラデーションをつくる作業は根気がいります。相手が素焼きのものだけに一カ所でも塗りむらができると一巻の終わりです。最晩年、立体造形に加え、色彩の技術も会得した香山が手に取ったのが、若い頃国に買い取られた蟹の器でした。香山はその器と似た作品を作ります。できあがった器には、若い頃の作品にはない特徴が加わっていました。それは色彩でした。
並べられた二つの器を比べ見るて、ものづくりに携わる人の思いに胸に迫るものを感じました。
ディレクター 今長冬香*1
プロデューサー 島崎葉子、藤村奈保子
制作統括 村山淳、堀川篤志
プロダクション NHKエデュケーショナル
美術映像プロジェクツ
明治は“超絶"と賞される明治工芸の粋が花開いた時代でした。
たとえば京都『三年坂美術館』を開いた村田理如氏のコレクション。約一万点と言われる氏のコレクションの中にも凄い作品があります。
安藤緑山『竹の子と梅』
さらに台北の故宮博物院には至宝、門外不出と呼ばれる宝物“翆玉白菜”と“猪肉形石”があります。高精細な映像が身近になったことで細部に住む神様たちの姿を手軽に楽しめるようになりました。
「翠玉白菜」
模倣からはじまり、観察、積み重ね、常識からの逸脱、工夫、研究と香山の足跡をたどった番組は超絶技法の先人の存在を身近に感じさせてくれます。ここが重要なところで、これから世界をめざす人たちに道しるべをしめしてくれるからです。
香山の残した制作手帳。釉薬の試験に失敗した記録が朱書きで「大ベケ」とダメ出しされています。超絶技法の持ち主香山の人間くささと、番組制作者のやさしさを思います。
初代宮川香山は、明治3年、京都から横浜に移住しました。そして明治4年、現在の横浜市南区庚台に窯を築きました。香山30歳のときです。香山の作り出した作品は、海外の万国博覧会などで輝かしい受賞を重ね、非常に高い評価を得ました。
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