絵を志している人は「すげえなあ」って思うと思うんですよ。
「面白いとは何かというものを自分で体得していくしかないものね。何を吸収して、何を見て感動してとか、何を見て怒ったとか、どうなってうれしかったとか、そういうようなことが全部総動員になって、面白いってものができあがるじゃない」
「感性を磨くって事なんですよね。普通の日常生活の中でもね、感性のある人にとっては、特殊な体験なんですよね。人よりも特別な体験をしなければものは描けないとか、そう言っている間は、何も描けないですよ」
「いい男が出てこないと描いてても面白くないんですよね」
「美男美女に思い入れが強すぎる」
「女房なんかに言わせると”異常者”だっていう」
4シリーズ目を迎えた漫勉、第一回は
顔をださないという条件で登場。池上遼一さん(72)です。
デビューして55年 。第一線で活躍を続けています。最大の魅力は画力です。美男美女を描く事へのこだわりを探ります。
「どうやって描いているんでしょうかね。人が描いているんでしょうか・・・」浦沢さんが向かったのは池上さんが、新人時代に住んでいた吉祥寺の喫茶店。ここで取材ビデオを見ながら対談します。
二人が会うのは15年ぶりなんだそうです。
「実はもうリスペクトしていますから」
「そんなに言っていただいたらもう、今日はこれで終わりでいいかな・・ハハ」
「こんな爺さんが描いてけつかんのか・・とか読者に思われるとね。娘はね、今のパパはテレビに出るような顔ではないよって、ハハハッ」
池上さんが27年近く作業しているアトリエです。
「手袋をされるようになったのって、昔からですか?」
「爪が真っ黒けになるのがいやなんですよね」
「以前漫画の描き方の本に池上さんが出たときにえらいことになっているんですよ。ペンだこのところとか」
「今はどうですか(と手を見せてもらうと)ワー」
「いやいや、これはたいしたことない」
「塗装屋さんにいた頃の"はけダコ"ですよ」
「塗装屋さんにいた頃のタコなんてもう消えてますよ・・」
定点カメラで撮影します。まずは女性の執筆から。2Bの鉛筆で下書きを始めます。左手には定規を持っています。
「デッサンで定規を使ってアタリを付ける。こんなに緻密にやられているのか」
「皆に言われるのですが、常に絵の一番基本になる線を引っ張ってから描く。顔の中心がどこに来るのかをはかる。そうすると絵が安定してくる」
「表情にこだわるのです。僕の場合。下書きの段階で気に入らないとペンには入らない。
「克明な下書きですよ。この下書きだけでごはん何倍でも食べちゃいますね」
「リアルな絵で、荒唐無稽な話をやりたいんですよね。こんなことあるわけない。こんな主人公いるわけないじゃん。ってなるんだけど」
「絵をリアルに、演出をリアルにすることによって、ひょっとしたらって思わせる。それが僕の仕事だと思ってるんで」
「表情は目ですよね。目が一番感情を出せる。あとは口ですかね。唇の下の陰なんだけど、男の唇でも、下の陰の付け方次第で深みのある唇が描ける」
「唇のところに影が付いていると唇がポテッとする」
「リアルに描いていこうとするとそういうところまで描いていかないといけない」・・・
「あと指ね。男性の爪は深爪にしているんです。不潔感は出したくない。指のクローズアップになった時は、その男の指も格好良くないとダメだろうって思う」
続いて手に取ったのは筆。水彩用のものを使います。
「筆遣いに迷いがないですよね。ちょっとヒヤっとしますよね。もうすこしそーっといかないのかなっていうときに、ここベタって塗るじゃないですか。オオーッてなるじゃないですか。自分の頭の中のものを描き込むときに、まず頭の中のビジュアルありきなんだろうなって」
「今までの経験でしょうね」
ペン入れが終了するとアシスタントに指示を出します。
「ここ反転して」
「ここ、逆さまにしましたよね」
「右向きの顔がどうしてもいい顔が描けないんです」
「ぼくも何故なんだろうって考察しているんてすけど」
浦沢さんも右向きの顔が苦手なんだそうです。右利きの人は右から左に線を描くのが苦手で、筆の先を左の方向に押し出すような感じになり描きにくいというのが浦沢さんは考えです。
「左向きは絶対的に自信がある。反転しても崩れない自信がある」
巨匠の超絶技法の詰まった絵が生まれました。
「漫勉 池上遼一 その2」へ続きます。

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