日曜美術館「ありのままこそ 応挙の極意」
江戸時代中期、京都一の人気絵師だった円山応挙。その傑作が勢ぞろい!応挙が大切にした写生の極意とは?作品に秘められたある思いとは?今回は展覧会場でとことん探る!
放送日
2016年11月20日
番組内容
「目の前のものを徹底的に見ること、写すこと」。応挙はときに鏡を使って冷静に写した。写生図から驚きの入念さが見えてくる。代表作の一つ、国宝の「雪松図屏風(びょうぶ)」を最新の3D機器で模写すると…応挙の松は見事に立体的であることが判明。松の立体の形を完璧につかんで絵にしていた!さらには、風景にただよう空気までとらえた知られざる傑作も登場!美術館の中をめぐりながら、応挙の絵と人生の極意を探っていく。
【ゲスト】根津美術館 学芸課長…野口剛,【ゲスト】水墨画家…土屋秋恆,【司会】井浦新,伊東敏恵
作品
江戸時代中期、京都で活躍した絵師の傑作が東京・根津美術館で展示されています。円山応挙。まじめで無趣味、人柄は穏やかで愛すべきと慕われました。応挙は写生で日本の絵画に革命を起こしたと言われました。
木賊兎図
鯉が滝を勢いよく登る姿で知られる「龍門図」描かれた鯉にかかる水流は白い紙の地肌です。応挙がいかに知恵と工夫を凝らしていたのかがわかる作品です。
極意 実際のものを写生して自分で新たに形をとらえなければ絵画とはいえない
応挙は写生をさらに清書までするほど徹底的に突き詰めました。
美術館には応挙が写生に力を入れていたことを物語る証拠が展示されています。
応挙がスケッチに使った「写生図巻」応挙は何段階にも分けて写生を積み重ねました。
写生した絵に着色をほどこし作品に近いまでものの姿の模写につとめました。
写生雑記帖のページの隅は黒く汚れています。おそらく何度もページをめくって写生画を見返したのでしょう。
極意 鏡に映して描くがよい
鏡に映すと三次元のものが二次元になる。平面にしてある種客観的に見て写す。ものを見る時、人間の目は動きます。そうした動きをある程度抑制するため鏡に映してフラットなものにして写生の精度を高めるのです。
ただ一筋に目の前のものを見続け、そこにあるかのような姿で写し取る。応挙の徹底して見る力はどのようにして生まれたのでしょうか
京都市高岡市。応挙は1733年、農家の次男として生まれました。家は貧しく着るものにも困る暮らしで、幼くして寺の小僧として働きます。10代で京の町へ出た応挙は高級玩具を扱う店で奉公します。
その店は当時海外から入ってきたレンズを使ってものを見る「眼鏡絵」なども扱っていました。京都の人々の間で眼鏡絵の人気が高まるにつれ、応挙はその制作を任されるようになります。
遠近感や立体感。人々の注文に応えながらこうした新しい視覚を体感する日々が、応挙の見る力を磨き上げていったのです。
水墨画家の土屋秋恆さんです。土屋さんは18歳で水墨画の道に入り、2年で師範になりました。若い世代にも興味を持って貰いたいと水墨画の新しい可能性を探る日々。
そして古典の題材に真摯に取り組み水墨画の表現をさらに探求しています。土屋さんと応挙の出会いは20年以上前にさかのぼります。
「20歳の時展示を見に行った時、生まれて初めて人が描いた線の細さに驚いた。触角・・・消えそうで消えないぎりぎりの筆で描かれた昆虫の触角の線を見て汗が出てきた。
筆の先には3本ほど"命毛”というものがある。その一本分だけを使って描いたような考えられない線が出ていて、線の細い中にもダイナミクスがあるのがすごい」
土屋さんといっしょに見ていくのは写生の腕を磨いた応挙がさらに飛躍するきっかけとなった30代の作品です。
「七難七福図巻」
仏典にも記されている七つの災難、七つの幸福を描いています。依頼したのは若き応挙と交流のあった滋賀県大津市の円満寺の住職。天災人災幸福・・・真に迫る光景の全長15メートル全3巻に及ぶ大作です。
人々の信仰心を高めたい。誰もが納得できる七難七福という難しい注文に、応挙は3年がかりで答えました。古い絵画を参考にしたり、時には処刑などを実際に目の前で見たといわれます。
当時は「相学」というものが、学問として日本に入ってきた時代だったので正確に悪い人の人相をこの中の登場人物に描いていると言われます。
応挙はこの作品で応挙になったと言われる出世作です。
時の豪商・三井家のために描いたとされる「雪松図」応挙50代。降り積もる雪は地の紙の色をそのまま生かして表現しています。
応挙の絵には様式化された従来の絵にはない特徴があります。それは3D。立体感です。最新の機器を使って応挙が描こうとした立体感に土屋さんが迫ります。
応挙の絵には立体感に加えて、ある種の空気感が漂います。代表的な例が、暗がりの中で漁をする鵜匠が印象的な「鵜飼図」です。
闇の中で燃える松明の明かりが男の顔を照らします。うっすらと影が表現されています。一部に影を配置する表現はこれまで見られなかったものです。
朝靄の中、秋の草木が佇んでいます。画面の下方は薄く藍が塗られています。
輪郭のない朦朧体という手法は、時代を下った明治頃に流行しました。若い頃の応挙は精密な写生をしつつ、このような輪郭をぼかした表現にも挑んでいます。時代を先取りした応挙の力を感じる作品です。
雨に打たれる竹林。竹の質感を応挙は、竹の節をわざとずらして描くことで表現しています。くたびれた感じが再現されました。
晩年、応挙はその心中を子孫に残した手紙にしたためました。
取材先など
応挙の画業人生
https://www.1101.com/edo/2004-02-26.html
展覧会
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