作品を構成する素材として選んだ「題材」や作品に使用した「素材」は、常に他者により解釈され、政治的な意味を持ちます。
作者の意図はともかく、作家自身の価値観や世界観を反映したものと見なされます。政治的課題に応えた作品も同様です。作品は作者の世界観そのものです。
対象物を排除する。つまり無対象の世界を描くこと。「スプレマチズム」は1915年ロシアの画家カジミール・マレーヴィチ*1が主張した、抽象性を徹底した絵画の一形態です。20世紀初頭、革命のロシアで波乱の人生を芸術にささげたマレーヴィチは「絵画は誕生して以来、対象物に縛られることで不自由さを余儀なくされている」と考えました。
対象物に縛られている限りは、時代の流れ(科学技術の進歩や宗教あるいは政治)に翻弄され、真に絵画そのものの独立はない。だから対象性を排除するのだ。「無対象」が必要なのだ。作家の持つ直感だけを絵にして、対象物は描かない。
対象物を描かないというマレーヴィチの考え方が実を結んだのが「Black Square」(白地の上の黒い正方形)と呼ばれる抽象絵画です。芸術を時代の流れから切り離し、独立した存在として描いたマレーヴィチの姿勢それ自体に政治的な意味が含まれています。