ヒロインが戦場を舞台に活躍するアニメは数多くありますが、往々にして既視感を感じるものです。本作は見せ方において観客の読みを裏切り続ける異色作となりそうです。
殺戮戦の様相を呈する第一次世界大戦のヨーロッパ戦線。それによく似た戦場で年端のいかない幼女が主人公となって戦うイメージから一種のマニア向け作品と思い込んで見始めたところ、なかなか引き出しの多い作品です。
戦闘描写で引っ張る第一話は、目をみはる空中戦に代表されるように数話分の予算をつぎ込んだ精密な舞台設定が見物です。情け容赦なく戦いを続けるヒロインの凶悪な性格が効果的に示され戦場の英雄譚であることが印象づけられます。
ところが第二話の舞台は一転して現代の日本に飛びます。そこで観客は作品が単純な戦記ものではないことを知らされます。ヒロインの正体はサラリーマン。それも他人への共感に欠けた相当ブラックな鬼畜エリートでした。
「会社のルールに従うのに、苦労はない…、かの“シカゴ学派”を引用するまでもなく、ルールは、システムの円滑化に不可欠」
主人公の「男」は、リストラした男に駅のホームから突き落とされます。死ぬ瞬間、男はその生き方に反省を促す“神”の声を聴きます。しかし、男は耳を貸すどころか“神”をすら否定する言葉を吐いてこの世から消えます。社会的弱者、異世界の幼女として転生した男の物語だったのです。
人物設定とルールがわかったところで、三話の舞台は戦が続く異世界に戻ります。幼女となって再生した男は軍に入隊し出立の道を邁進する姿が描かれます。しかし、幼女が発する台詞は自己保身と出世願望、それに信仰を否定する内容ばかりです。
ここまでの流れを振り返ると、テーマは自己啓発に限りなく近いビジネスサバイバルものであることが感じられるようになります。
不都合を生じる可能性があるものはいつか必ず不都合を生じます。有名な法則でしょう
再び主人公の前に姿を現した"神"に対して、主人公は挑戦的な態度を取ります。
「相変わらず目に余る態度だな。なるべく無干渉を貫くつもりだったが、愚かな子羊には道を示してやらねばならん」
「お気遣いなく。柵の中で飼われるのは性に合わない」
「なぜ創造主を称えぬ。昔は語り掛けるだけで人々は神を崇め、時には人間側からの呼びかけすらあった」
「だから伝統工芸品にも祈りを捧げろと?ご冗談でしょ」
「やがて貴様の心も信仰に満たされるであろう」
「あ、悪質すぎるマッチポンプ…。どこまでクソッタレなんだ?」
立身出世、自己保身という位相・レイヤーに重なるように、「信仰」という要素が加わり、物語は複雑な様相を呈してきます。そこに軍事に関する知識が加わります。理不尽な世界を生きる主人公の言動や生き方が存在感をもって迫ってきます。
深刻なテーマを含んだ重い物語と思った期待は、続く第四話でまた裏切られます。軍の出世コースを歩み後方勤務で生き残りの道を狙った主人公の思いを阻んだのは自らの取った言動でした。自己保身と出世を第一とする主人公が上官の面談で語った言葉は、一種のギャグとして楽しめるのです。
一見アニメファン、ミリタリーファン向けの物語と思わせながら、観客の期待を先回りして思ってもみなかった仕掛けを提示する作品です。それも今私たちが実際に感じる社会の息苦しさや世相、宗教観を挑発する仕掛けも忘れてはいません。エリート至上主義のサイコパスという存在はどこの企業にもいて、彼らの存在や言動に苦しめられた人たちが共感するのかもしれません。作者はこの先どんな試みを用意してくるのか目が離せない作品です。