横浜赤レンガ倉庫1号館の展示品の中から、強い衝撃を感じたのがドン・ユアン作「おばあちゃんの家」です。
誰もが持っている幼少期の写真。写真に映し出された記憶や、子どもの頃の思い出は長い人生を支えくれる玉手箱のようなものです。ところが、写真の代わりに絵画で懐かしい思い出を表現しようという労作がドン・ユアンの作品です。きっとドン・ユアンはおばあちゃん子だったのでしょう。
入り口を入ると狭いスペースに色とりどりの絵が飾られています。正面に見えるのは祭壇でしょうか。
本尊を取り巻くように飾られたろうそくや線香に供物は実在する祭壇のようです。
祭壇の右側の壁に見えるのは食器棚。どうやらここは中国の民家の一室であることがわかります。
隣の部屋にも祭壇が飾られています。おびただしい供物はそれぞれ油彩画で描かれ、
立体的に配置されることで、生活感を漂わせています。
一つ一つの作品に込めた作者の思いが立体物の陰から立ち上ってくるようで、思わず感極まってしまいました。
幼い頃から作家が頻繁に通ったおばあちゃんの家は、区画整理のため今年解体されてしまうとのことです。
中国の伝統的な民家で重要な位置を占める祭壇の部屋の両脇には祖母の部屋と叔父の部屋が配置されています。叔父の部屋の窓から見える外は冬景色。厳寒の大陸の暮らしの暖かさが伝わってくるようです。
作家は部屋の家財道具全てを精密に描いています。
即席麺の袋でしょうか、言葉や文化はちがっても私たちの暮らしと同じ身の丈の人たちの生活と幸福感が伝わってきます。
祖母の部屋には座卓が置かれ、その上に描かれた料理の絵は質素ではあるが充実した生活がこの家にあったことを暗示しています。
社会制度の変化が、個人の生活環境を激変させるほどの暴力性を秘めており、個人の記憶は制度によって書き換えられていくという、制度と個人の関係性について考えるきっかけを与えている