日曜美術館「自然を生かす匠(たくみ)たち~第64回 日本伝統工芸展~」
現代の匠(たくみ)たちが技を競う日本伝統工芸展。今年も16の受賞作が決定した。作品を紹介しながら創作の現場を訪ね、自然を生かす技と思いに迫る。
第64回日本伝統工芸展。昭和29年に失われてきた伝統工芸の技術を守り育てることを目的に始まった。陶芸、漆芸、金工、木竹細工、染織、人形、ガラス、七宝など7部門で16作品が選ばれる。今年の受賞作も伝統の中に新鮮さを感じさせる意欲作が多く、最高峰の技の限りを尽くす“美の競演”となっている。司会の井浦新と高橋美鈴がその創作の現場を訪ね、自然を生かす技と思いを探っていく。
NHK会長賞を受賞した木工作家・髙月國光さん作の「欅造鉢」。
岡山市真庭市蒜山で木工工房を営むのが髙月國光さん。倉敷市出身の髙月さんは14年前から蒜山に住み、木工品を作っています。
高槻さんのこだわりは木目をきれいに浮き立たせること。力強い曲線が豊かな表情を生み出しています。
今回の日本伝統工芸展では、自然との関わりで生まれた作品がありました。
雪解けのひとしずくが水面に落ちた瞬間を捉えたガラスの作品です。
雪国出身の安達征良が追求したのが雪の中で見える光の柔らかさです。側面は下書きをせずフリーハンドで描いた切子文様。深遠な光の世界を器の中に閉じ込めました。
水辺ラ生息し、古くは万葉集にも読まれた芦。角谷勇圭は、幼いころ見た芦を描きたいと、自宅で芦を育てて制作しました。川砂を混ぜて作るきめ細かな肌合いは静かな水面を感じさせます。
硯石の作り手の四代目。日枝陽一の作品。原石は自ら山に入って採掘しています。大学院で硯石を科学的に研究した日枝。自然の石の美しさを突き詰めるうちにシンプルな造形と穏やかな曲線にたどり着きました。
さらに自然との関わりの中で風邪をモチーフとした作品が多くありました。
初夏の京都で感じた一陣の風。
室瀬智彌は記憶の中の風邪の清々しさを線の集合体で表現しました。粒の大きさや色の異なる金粉を蒔いた繊細なグラデーション。生命を取り巻く大きな自然の流れまで感じさせる輝きです。
幼いころ見た野原の草花が風に揺れる風景。78歳で新人賞を受賞した大津英子の泥七宝です。天然の岩石を溶かして作った釉薬の色が素朴な優しさを醸し出しています。見た人が自然の風に気持ちを乗せられるようにという思いを込めました。
冬の夕暮れ。家路を急ぐ人。小嶋香代子は冷たい風を人形の仕草で表しました。和紙を幾重にも貼り重ねたストール。
豊かな表情を生み出しています。冷たい空気感の中に人肌のぬくもりが宿っています。
新人賞、神垣夏子の作品「川霧」。一件木箱のように見えますが竹で編んだ箱です。風にたなびく川霧を無数の点で表現し霧のもやっとした空気感を醸し出しています。
形に特徴がある作品です。
今年、最も栄えある日本工芸会総裁賞を受賞した、奥井美奈の乾漆箱「流れる」。
麻布を漆で貼り重ねて整形する乾漆という技法を用い、すべてを曲線で表しました。絶えず形を変えて流れ続ける水を表現しました。緻密な造形設計と朱と黒とのコントラストが響き合っています。
生命の力強さをどっしりとした台形に託した和田的(わだあきら)。ろくろで肉厚に仕上げた筒型を彫刻刀で彫り、シャープな陰影で生と死を表しました。白磁の美しさを最大限に生かすためにたどり着いた究極の形です。
紫一色で染めたように見える反物。作品名はトランプです。
近づいてみるとハートやスペードなどトランプの柄が描かれています。江戸小紋に新たな風邪を吹き込もうとする作者、小宮康義の気概が見えます。
作品名の「清閑」とは、俗字を離れ静かで心穏やかな状態を表す言葉。
空気を詰めて膨らませたようなユニークな形。竹の生命力が隅々まで満ちています。
色に特徴がある作品です。
柔らかく優しい月の光が夜空の闇の中に包まれています。宇佐美成治の作品。顔料を混ぜた何色もの土をスポンジで重ねることで理想の色を生み出しました。夜空を眺めた時の優しい気持ちを見る人に感じてほしかったといいます。
角笛を吹くマサイの戦士。今年最年長の受賞者、83歳の村瀬克美の人形です。こだわったのは褐色に輝く肌の色。茶色い和紙に極薄の白い和紙を貼り重ねることで理想の色にたどり着きました。生命の根源的な美の表現です。
大角裕二の蒔絵六角箱。
青の螺鈿で表された涼やかな滝の流れ。金蒔絵を施した滝は夕日を浴び神々しい輝きを放っています。時間とともに変化する滝の姿を鮮やかな二色で表しました。
山下郁子の作品。
雪解けの早春。一斉に咲いた山のこぶしの白を基に、川の色をイメージしました。藍色と薄緑が川の流れを、縦縞の鮮やかな緑が新緑。黄色は春の光を表現しています。
放送日
2017年9月24日
取材先など
放送記録
書籍