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美の巨人たち 命が宿る自在置物!大竹亮峯『鹿子海老』超絶技巧シリーズ(2)

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今にも動き出しそうな実物大の海老の木彫り自在置物!動くのに一切ネジを使ってない!?不可能を可能にした若き木彫作家の神業!

岐阜の一刀彫の工房で修行し3年で独立した天才木彫師・大竹亮峯さんは、作品制作のために貪欲に徹底的に海老を研究し、ほぼ独学でこの海老を作り上げました。

本物を超える質感誕生の秘密に迫ります。

美の巨人たち 命が宿る自在置物!大竹亮峯『鹿子海老』超絶技巧シリーズ(2)

f:id:tanazashi:20180819105313p:plain放送:2018年8月18日

自在置物『鹿子海老』は、全長約38cmの木彫り作品。明治の自在置物の多くは金属で、これほど精密な木彫りはありません。本物を超える質感、しかもリアルなだけでなく本物のように動くのです。なんとネジを一切使わずに。

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彫りあげた若き木彫作家・大竹亮峯*1は、自在置物を木で作ることに強いこだわりがあるといいます。

一体どんな?不可能を可能にした神業の秘密を解き明かします。

 

 

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青く光る眼。

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体を覆う鋭い棘。

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扇のような尻尾は和紙に漆を塗ったもの。

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複雑に折り曲がった幾本もの足。

一本一本動く足は彫りの技だけによるもの。ネジなどは一切使われていません。

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海老です。それも木彫りの。

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南の海の王様・鹿子海老。ただの木彫りではありません。

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もちあげるだけでくにゃりと曲がる柔らかさ。

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本物のように動きます。

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裏返してみると腹部の仕上がりは気味が悪くなるほどのリアルさです。

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触角は鯨の髭。

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目玉は、光の下限で色合いが変わる長石が使われています。

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日本で生まれた工芸品・自在置物。

本彫自在置物「鹿子海老」です。

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今日の作品は、「大竹亮峯」作の「鹿子海老」。

岐阜県で開かれている展覧会に出品されています。

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全長およそ38cm、木彫の自在置物です。

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江戸から明治にかけて盛んに作られた美術工芸品は主に金属を素材にしていました。

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自在置物は江戸時代甲冑職人などが技を生かして制作を開始。明治に入ると海外の贈り物として脚光を浴びました。

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しかし、これほど精密な自在置物は作られていません。

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素材はつげの木。

高さ数ミリしかない無数のトゲが、1つ1つ表情豊かに彫り上げられています。

細部まで緻密な模様も施されている。

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木彫作家・大竹亮峯さん。

木彫は京都の工芸学校で学びました。

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卒業制作の作品「炎駒」。

飛騨高山の一刀彫の彫刻家に弟子入りし、3年で独立を果たしました。

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一刀彫の技を発揮した作品「飛翔」。

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蝉の羽以外すべて一本の木から掘り出しています。

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葉を枯らし置いてゆく木。

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そこから羽化したばかりの蝉が飛び立とうとしています。

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大竹さんは自在置物を木で作ることに強いこだわりをもっています。

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「木という、長い年月かけて生きて育ってきた素材を使うことで、生きているということに生々しく迫れるんじゃないか」

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「眼鏡饅頭蟹」

「鬼蜻蜒」

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お尻と一緒に羽も動きます。

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水仙はちょっと変わり種。

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水を上げると花が開きます。

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生命(いのち)を表現したいという大竹さんは海老の専門業者を訪れました。

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海老について勉強するためです。

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たとえば海老の模様の一部に色が薄い部分があります。

この部分が少し膨らんでいます。

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この膨らみを表現するのが「浮き彫り」という技法です。

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使うのは先が丸い道具。

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その先端で木の表面を押しつぶします。

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次に凹みが半分ほど残る深さまで表面全体を削ります。

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そこに水を含ませると

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押しつぶした部分が盛り上がってきたのがわかりますか?

木は押しつぶされても水分を含むと復元します。

その特性を活かしたのが「浮き彫」。

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「浮き彫り」を使うとこのわずか5ミリほどの間に簡単に凸凹が作れます。

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本物に迫るため大竹さんは鹿の子海老の生態を徹底研究。

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海老の体を形作る100を超えるパーツをひとつひとつ制作することに。

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完成までにかかった時間はおよそ半年。

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特に苦労したというのが関節です。

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足の関節部分。

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まず付け根の側に足をはめ込むための穴を開けます。

穴の入り口はわずかに直径5ミリほど。

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足は先端を丸く削り出します。

小刀の先だけを使って削り球体関節*2をつくります。

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丸く削った先端部分は穴の入り口より少し大きめのサイズにします。

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力を入れて押し込むとピタリとはまります。

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押し込むときに潰れた木が、中でもとの大きさに戻るため抜けなくなるのです。

しかしこれだけでは実際の動きを再現することにはなりませんでした。

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海老の足は関節ごとに二箇所の支点があり、一方向にしか曲がりません。

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そこで大竹さんは先程の仕掛けを二つ使うことにしました。

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接合するパーツの内側に直径およそ三ミリの接合部分をつくりました。

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海老の関節の中に仕掛けを二つ作ることで足の動きを作り出していたのです。

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さらに足の可動域は足の関節の形を利用。

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この作業を足のすべての関節で行います。

本物同様の関節を持つことで木の鹿の子海老は本物同様に体を支え自立することができるのです。

大竹さんは生きた海老の感触を体験し、それは作品にも活かされていた。

道具も超絶技巧 江戸の技で精密描写

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大竹さんの「鹿子海老」を覆う無数の棘。

この棘はあとからくっつけられたものではありません。

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「下げ彫り」という技法で作られています。

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千本を超えるという大竹さんの道具。

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中でも数ミリしかない棘を作り出すのは、特注の小刀です。

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棘と棘との間にある僅かな隙間を彫るにはこの刀が描かせません。

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「かなり無茶な使い方を僕はしているので、あまり良くない刃物だと、あの使い方をすると一発で先が折れてしまいます」

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東京・月島に、大竹さんが惚れ込んだ鍛冶職人がいる。

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都内で唯一、江戸鍛冶の伝統を受け継ぐ左久作さん。

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左さんは大竹さんからの難しい注文にこたえます。

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刃物は地金に鋼を焼き付けてつくります。 

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一般的な刃物は切る部分だけに鋼をつけますが、

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特注の小刀は地金を包み込むように、鋼が背の部分を巻き込んでいます。

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これが江戸の伝統を受け継ぐ「背巻き」です。

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超絶技巧にはしなってももとに戻る小刀が不可欠なのです。

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もししなっても戻らなければ刃が当たらず彫れません。

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しなることで刃が木の表面に当たり彫れるのです。

しかも刃のあたりが柔らかいために美しく仕。上がります。

「背巻き」によって折れずにしなる小刀が超絶技巧を支えているのです。

 

大竹さんの「鹿子海老」。本物の鹿子海老よりも淡い色彩には木彫ならではのこだわりがあります。

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「木の生地を殺しすぎないように、べたって上に乗っからないように。ツゲって黄色みがあるので、最終的にどうなるかをものすごい実験した」

 


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関連書籍

超絶技巧 美術館 超細密絵画、スーパーリアル・フィギュア、複雑怪奇な (BT BOOKS) [ 山下裕二 ]

反響

自在置物とは

主に鉄や銅、銀などといった金属を用いて制作される工芸品。龍、伊勢海老、蟷螂(カマキリ)、鯉などといった、架空&実在の動物や昆虫をモチーフとした作品が多い。特長は、その名が示す通り関節や体の動きが本物そっくりに動くこと。形だけでなく、動きまでも忠実に再現してしまう、日本工芸の粋が詰まったアートです。

今後のラインナップ

柴田是真 「沢瀉蒔絵印籠」8/25

髙橋賢悟 アルミ鋳造「flower funeral」9/1

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展覧会

驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ|岐阜県現代陶芸美術館 展覧会情報01|近年、明治工芸に対する注目度が飛躍的に高まってきました。陶磁、七宝、金工、牙彫、木彫、漆工、刺繍絵画など、おもに輸出用としてつくられた工芸作品が海外から里帰りし、多くの人が瞠目するようになったのです。2014年から翌年にかけて、当館など全国6会場を巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展は、そんな明治工芸再評価の機運を盛り上げるための画期的な展覧会でした。 大好評を博したその企画の第2弾として、明治工芸と現代アートの超絶技巧が対決する展覧会を開催します。明治工芸を産み出した工人たちのDNAを受け継ぎ、超絶技巧プラスαの機知に富んだ現代作家の作品も多数展示します。

会場 : 岐阜県現代陶芸美術館 ギャラリーⅠ

会期 : 2018年6月30日(土)~8月26日(日)

*1:1989年東京都生まれ。東京大学教育学部付属中等教育学校にて、「江戸指物」を高等部の卒業論文に選ぶ。京都伝統工芸大学校木彫刻専攻卒業。木彫根付から欄間まで手がける一位一刀彫の東勝廣氏を幾度も訪ね、門弟の許しを得て師事すると、1年数カ月の修行で、根付公募展「現代木彫根付芸術祭」(2010年)で大賞を受賞。後に独立し、大竹木彫刻の名で活動。国内外のコレクターから注目を集めている。

*2:関節部が球体によって形成されていることから自在に動かすことができる仕組み