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美の巨人たち 柴田是真「沢瀉蒔絵印籠」超絶技巧シリーズ(3)

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今回の作品は、印籠の最高傑作『沢瀉蒔絵印籠』。

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作家は幕末から明治にかけて活躍した漆芸家&絵師の柴田是真。

俳句、お茶、和歌も嗜んだ“超絶技巧界のスーパースター”。

手のひらに収まる大きさの『沢瀉蒔絵印籠』には、時間をかけた緻密な技が尽くされています。

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例えば何気ない夏草は、蒔絵、螺鈿、切金など5つの技で表現。

一見地味に見えるこの作品に、驚異の超絶技巧が隠されているのです。

その凄さに現代の漆芸家が挑戦!そこから見えて来たものとは一体?

美の巨人たち 柴田是真「沢瀉蒔絵印籠」超絶技巧シリーズ(3)

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放送:2018年8月25日

 

柴田是貞「『沢瀉蒔絵印籠」 鮮やかな夏草の表現!

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静岡・三島市にある佐野美術館。

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二千坪の敷地に作られた回遊式庭園を持つ美術館として知られています。

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ここに収蔵されている柴田是貞の「沢瀉蒔絵印籠」 。

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印籠にはオモダカの葉。

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刃の向こう側にはわずか数ミリの丸い花弁。オモダカの花が咲いています。

 

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裏にはクローバーによく似たカタバミが描かれています。

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カタバミも道端でよく見かける野草です。

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この印籠には緻密な技が隠されています。

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夏草を描くのに5つの技法が使われている。

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柴田是真は「蒔絵と描くことのみに骨身」という言葉を残している。

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印籠は携帯用の薬入れです。

根付にくくって腰に下げて使います。

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もともとは印章を入れたことからこの名がついたと言われていますが、粋な江戸っ子たちには欠かせない装身具でした。

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超絶技巧に挑む!前編

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「沢瀉蒔絵印籠」にはどんな超絶技巧が隠されているのか。

その再現を東京藝術大学の小椋範彦に依頼しました。

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オモダカの葉を作るのにも銀高蒔絵・金蒔絵などの技法が用いられているのです。

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まずは銀高蒔絵を施すところから

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漆を塗っていきます。

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そこに銀粉を撒くのですが、表面を均質に仕上げるため粒の大きさの異なる二種類の銀粉を用意します。

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銀の粉を漆の上にふりかけていきます。 

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粒の大きなものから

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小さいものへと順に撒いて行きます。

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このあと一週間ほど乾燥させ、

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研磨して表面を平らにしたら、もう一度漆を塗って銀粉を撒きます。

 

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こうして銀蒔絵を重ね、 表面を盛り上げていくのです。

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これを乾燥して研磨したらようやく次の工程へ。

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葉脈の部分に金蒔絵を施します。

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下絵に沿って慎重に、

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幅一ミリほどの細い線を漆で描いていきます。

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そこに銀粉と同様二種類の金粉を粒の大きなものから順に撒きます。

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これでようやく葉の形と葉脈ができました。 

「正面ではない側面の薄いところにまたがって蒔絵が入っているが、かなり難しいと思う」と小椋さんは言います。

 

漆芸家・柴田是真

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柴田是真は11歳で印籠蒔絵師・古満寛哉に入門。

しかし当時の漆芸家は下絵を絵師に任せ、自らは漆による加工を行うだけでした。

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柴田是真は他人の下絵では満足できなくなり16歳の時に四条派の画塾に入門。

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屏風絵を描かせれば雄大な自然を猛々しく描く才能を見せつけました。

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是真は蒔絵師としてより先に絵師として認められたのです。

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超絶技巧に挑む!後編

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銀高蒔絵と金蒔絵を終えたら切金と螺鈿を施します。

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金の薄板を0.5mm角に切ります。

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そして微妙に縁が歪んでしまった金を

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台の上に載せ、上から叩いて完全に平らにします。

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螺鈿に使うのは0.06ミリの薄さのアワビの貝殻。

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水でふやかした後、金と同様に0.5mm角に切っていく。

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次に切金と螺鈿を施す場所に漆を塗ります。

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そこに切った貝と金を一枚一枚慎重に置いて貼り付けて行きます。

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「沢瀉蒔絵印籠」には“変塗”という技法が使われている。

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さらに金蒔絵を全体の上に施し、その後全体が平らになるように研磨したら

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ようやく完成。

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是真に挑んだ小椋先生は一枚の葉だけでおよそ一ヶ月かかりました。

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「沢瀉蒔絵印籠」には変塗という技が使われています。

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表面に施したザラザラとした質感の“石目塗”と呼ばれる変塗です。

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“石目塗”は柴田是真の真骨頂だといいます。

柴田是真は漆と墨を使った変塗を次々と開拓しました。

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「青梅波塗柳流水蒔絵重箱」には変塗が数多く用いられています。

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例えばこの青銅塗。一見金属に見えますが炭と顔料を組み合わせて表現したもの。

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銀色に輝くこの部分は錫と炭粉を使い合金のように見せています。

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小椋さんは“石目塗”の技法に挑戦しました。

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乾燥させた漆を粉にした乾漆粉を撒いて行きます。

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その上から薄く銀を撒いたらできあがり。

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是真は変塗を自在に操り、他の蒔絵師にはできない独自の表現を生み出していきました。

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日本美術研究家・安村敏信は「是真は驚かせるというよりも分かる人に分かってもらいたかった。自分から分かるように説明しない」と話す。

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「沢瀉蒔絵印籠」で表現された“朝露”には直径1mmのガラス玉が用いられている。

当時ガラス玉を使うことは一般的ではありませんでしたが、キラキラ輝く露を表現するにはこれが最も効果的だと考えたのです。

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超絶技巧が生み出した漆の美です。

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さらなる高みへと…

f:id:tanazashi:20180902102725p:plain柴田是真が66歳の時に4か月を費やし描いた「富士田子浦蒔絵額」。

ウィーン万国博覧会で称賛を浴びました。

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是真は明治という新たな時代に工芸の1つに過ぎなかった漆芸を芸術へと昇華させたのです。

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その挑戦の極みともいえる作品があります。

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紙の上に漆で絵を描いた「漆絵」です。

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是真の漆絵の最高傑作「花瓶梅図漆絵」です。

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梅の木の木肌までリアルに表現されています。

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驚くのは紫檀の額装まで漆で表現されていること。

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空前絶後の漆の技です。

 

 

 

 

 黒漆塗四段の印籠で、表裏に沢瀉と酢漿草をあしらう。沢瀉の葉には、金銀高蒔絵、錆漆、黒漆、螺鈿や切金などの多彩な技法を用い、露には乳白色のガラスを象嵌する。シンプルな意匠ながら、葉の1枚、実のひと粒までを丁寧に描写し、天性のデザイン感覚でまとめあげている。
 柴田是真(1807~1891)は幕末・明治の代表的漆工家、画家。江戸で生まれ、古満寛斎に蒔絵を、鈴木南嶺に絵を学び、どちらも非凡な才能を発揮した。明治期には国内外の博覧会へ出品し、帝室技芸員としても活躍した。軽妙洒脱で粋な作風は海外でも評価が高い。

展覧会

www.musescope.com