建築家・岡田新一が手掛けた『最高裁判所』。かなり敷居が高い建物ですが、直線で構成された外観、豪壮な正面玄関、詩的な照明、様々な表情を見せる石に施された驚きの技術、名だたる芸術家たちによるオブジェや絵画など、実は多くの美に溢れています。更に大ホールに施された画期的な工法、そして「大法廷」を、人が人を裁く場所とするために、岡田が導き出した答えとは?ヒントは天空から降り注ぐ光の中に!
美の巨人たち 岡田新一「最高裁判所」
放送:2018年9月8日
律儀に並んだ椅子が15席。思わず固唾を飲んでしまう空間です。
威厳と品格に満ちたこの部屋は一体何からここにあるのか。
皇居をぐるりと巡る内濠通りに面した千代田区隼町4番2号にその建造物。
私たちがよく目にする風景で言えば車窓から見えるこの独特な姿かもしれません。今日の作品・最高裁判所。司法の頂点最後の判決が下される場所です。
私たちがよく目にする風景で言えば車窓から見えるこの独特な姿かもしれません。
今日の作品・最高裁判所。司法の頂点最後の判決が下される場所です。
堅固な意志の集合体は見る角度によって多彩なフォルムを表します。
整然と組まれた石があり、
複雑に組まれた石もある。どこか石が感情を持った風に見えるのは木のせいでしょうか。
「建築というものの存在感。そしてその魅力というものをあの日本の社会に知らしめたんではないかと思います」
「建築としても優れと思うがあると思うし周辺の環境に対して非常にマッチしてるというふうなことが言うんじゃないでしょうか」
高さ14 メートルにも及ぶ正面玄関。25段の階段を上った先に、大ホール。
ここは驚くべき工法による自由で自在な発想にあふれています。
天井の曲線から漏れる光。
そそり立つ厚く巨大な壁。
正面に堂々とそびえるこのレリーフはいったい何か。大ホールの先には冒頭でご紹介した大法廷。
設計者は岡田新一。最高裁判所をはじめ多くの公的建築を手がけた男。
本日は岡田の貴重な映像と彼が語った言葉を元に最高裁判所の美しさの秘密に迫ると思います。
最高裁判所は敷地面積37427平方メートル。
地上5階地下2階六つの塔で構成されています。
この建物の見事さは岡田自身の手によるこのコンセプトモデルに。
対峙しそそり立つ2枚の壁はスペースウォールと呼ばれています。
「これがあることによって内部に大法廷とか大ホールとかといった主要な空間を形で作ることができる構造体であると同時に、その内部に廊下であるとかエレベーター階段とかここに含まれていまして、こういった骨格をまず作ることによって、その後の空間の作り込みであるとか細部の表現を通して筋の通った建築ができるという手法を岡田はこの最高裁判所の設計を通して確率でしたのではないかと思います」
建築家岡田新一は1928年水戸に生まれています。
ものを作ることを使命とした祖父の姿から多大な影響を受けました。
東京大学工学部建築学科に進学した岡田は師である吉武泰水から建築家としての根本的な命題を学んだのです。
建物が建てられる土地の歴史からその空間に内在する社会的要因を探り出すこと。
単にひとつの建物を作るだけではない。建築という存在の意義を深く考え、環境と調和させなければならない。1957年鹿島建設に入社。
若くして認められ、本社ビルの設計を任されるなど充実した日々を過ごしますが、基本的には 一介のサラリーマン建築士でした。そんな岡田の運命はあるコンペにより大きく変わることに。
1964年最高裁判所新庁舎の建設計画が持ち上がります。
新たなる司法の象徴としての建築を目指すのです。ふさわしい案を求め広く公募という形が取られました。
応募総数217。丹下健三ら、そうそうたる顔ぶれの中、見事選ばれたのが岡田新一の案でした。
当時岡田とともにコンペ案を作成した和田さんは、
「裁判所をまず見学に行きました。デザインの勉強よりも法律の勉強しなきゃいけない。人が人を裁くということについて勉強しなきゃいけないっていうことで、もっぱらそういう本ばかり読んでたっていう風に聞いております」
裁判とは何か。その本質を知ることこそ肝心だと考えたのです。
これを機に独立した岡田は基本設計に1年。実施設計に1年を費やし1971年着工。
鉄とコンクリートの骨格に膨大な量の石を纏わせ、積み上げ組み上げ、巨大で荘厳な裁判所を2年10か月後の1974年竣工しました。
今日の作品最高裁判所。では中へとご案内しましょう。正面入口石造りの階段を上ると。この建物の美しさを象徴する大ホールが出迎えてくれます。左右にそびえるスペースウォールによって生み出された広大な空間。堅牢でありながらもどこかやすらぎ落ち着きませんか。
それは岡田がこの場所で目指し作ろうとしたものが森だったからです。究極の裁判とは森を切り開いた白日のもとで行われたというヨーロッパの故事に習い、岡田はこのデザインを決定したのです。
半円形の天井は大空に漂う雲でしょうか。差し込む光は雲間から覗く陽光。刻々と変化しホールという森を多彩に照らします。
独特な形状のランプは命の源である水です。
ホールの奥にそびえるレリーフは太い大きな木。太陽と水に育まれて高く空へと。光と水と木と岡田新一が作り上げた石の森。
では最高裁判所のクライマックス大ホールから奥へ。この建物で最も重要な部屋があります。
大法廷。咳に一つはばかられる固唾を飲む空間。その威厳と品格に緊張します。でもこの法廷私たちが見慣れたものがないと思いませんか。それは一体。
最高裁判所は石の建築です。使われた石版は実に10万枚に及びます。
茨城県笠間市稲田が石の故郷。ここで採られた花崗岩・稲田石が採用されたのは白い貴婦人と呼ばれるほど澄んだ岩肌にあります。
正義を体現する裁判所を彩るのにふさわしいと。当時を知る職人浦川さんは「400人位職人さんはいました。加工して仕上げて現場に持っていくのに車十台くらい毎日出ていた。とりあえず忙しかった」
稲田石は多彩な表情を求められます。
威厳が求められる外壁では。
切り出した石の断面そのままの荒々しさを生かした割肌と呼ばれる加工。
中へ入ると威圧感を与えないようにと石は滑らかに。ここで使われているのはバーナー仕上げという技法。
石の表面を焼くと中に含まれる石英が熱で弾け自然な岩肌を思わせる仕上がりとなるのです。
等間隔ではめ込まれ壁にコントラストを与えているのは、ノミ切りという加工技術。表面にのみで凹凸をつけていくのですが、大変な労力と技量が要求されます。
人の手が生み出す石の感触。岡田の言葉です
「石を使った設計は時間を想う設計をする」
高裁判所の心臓とも言える場所へ。大法廷。ここは日本で一番広い法廷です。威厳を持って15の裁判官席。相対して並ぶ166の傍聴人席と、42の記者席。その間に弁護人席と検察官席。ここにも稲田石を使った壁。
隙間が設けられているのは余分な音を吸収し響きを良くするための工夫です。この法廷には何かが足りないと思いませんか。
そう「証言台」がないのです。
「最高裁判所は法律審と呼ばれており、基本的には第一審や控訴審で認定された事実関係を前提にその事実に当てはめるべき憲法や法律の解釈を行うのその基本的な役割としています。証人尋問というのは事実の認定のために行うものですから最高裁でこれを行うということは基本的には予定されていない。そのような理由で証言台がないということになっております」
最高裁判所で岡田が最も心血を注いだものが
「人が人を裁くという空間の中でなんかそういう神聖なものを入れるつまり太陽の存在を入れるということは非常に重要なことじゃないかなと」
岡田の答えです。
直径14メートル。最上部までの高さ実に41メートル 巨大な吹き抜けです。
なぜなのか。
「光の筒っていうか前から光を落とすその下で裁判するとそういう発想を得たんですよ」
大法廷に降り注ぐ天空の光等しく明るく。等しく柔らかく。その光こそが最後の審判に必要であると
「建築にはそれぞれ社会に対応する役割があると思いますけれども。司法というものに対してどういう形がふさわしいかありうべきかそういう問題に対して明確に答えられていたんではないかと思います」
岡田新一は最高裁判所のすぐそばにもう一つの公共建築を遺したのです。皆さんよくご存知の桜田門・警視庁本部庁舎です。1980年岡田伸一さんによる日本のテレビドラマ視聴回数が多い建築です。
今日の作品最高裁判所。
大法廷のほかに三つの小法廷があります最高裁判所が受理した事件はまず小法廷で審理され、ほとんどはここでの判決で終了します。
それぞれの部屋に日本を代表する画家たちのタペストリーが。
浦上玉堂。村上華岳。
そして池大雅。
こちらの大応接室はゆったりとした中にも気品が感じられます。
天井のランプは彫刻家・清水久兵衛によるもの。
滑らかな曲線が見事。
吹き抜けの中庭です。磨き上げの床に反射する緑が美しい。
涼しげに水が湧き出すつくばいはイサムノグチの作です。
「裁判というものの本質にですね、この建物全体の雰囲気が非常によく調和してるんじゃないかという風に感じるんですね。法廷で裁判官席から見ていると、ここは最高裁判所の裁判をするのにふさわしい建物だなということが実感できるわけです。最高裁判所がこういう立派な建物を擁していること自体、我が国において司法が尊重されているということ。そういうことを意味してるわけでして、誇らしくわけですね」
美しき石の要塞です。岡田新一作最高裁判所。人が人を裁く場所に込めた切なる願い。沈黙の石と雄弁な石。法律という名の美しき石の神殿。
書籍
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