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美の巨人たち ミケランジェロ「ロンダニーニのピエタ」

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スフォルツァ城に展示されている『ロンダニーニのピエタ』を観た。

ローマのロンダニーニ邸の中庭に置かれていたことから、そう呼ばれるこの彫刻はミケランジェロにとっては4体目となる『ピエタ』だ。彼は視力を失ってからも病に倒れる寸前まで、この作品を作り続けていたという。未完の遺作である。

『ロンダニーニのピエタ』 | はりねずみが眠るとき

 

 

天才芸術家ミケランジェロのミラノ・スフォルツェスコ城に残された未完の彫刻『ロンダニーニのピエタ』は、他のピエタと比べて異色。通常聖母マリアの膝の上にキリストが横たわる姿なのに対し、マリアがキリストの身体を立ったまま後ろから抱きかかえる姿。しかもキリストがなぜか全裸!その謎を解く鍵は傑作『最後の審判』と『天地創造』の中に!実は大きくポーズが変更されていたこの遺作にミケランジェロが込めた最期の願いとは。

 

美の巨人たち ミケランジェロ「ロンダニーニのピエタ

放送:2018年9月22日

バチカン市国。世界で最も小さなこの国で、今日ご紹介する偉大な芸術家が残した数々の名作と出会うことができます。カトリックの総本山サンピエトロ大聖堂に入って右側。ピエタです。十字架から降ろされたキリストが聖母マリアの膝の上で息絶える姿。思わずため息が出るほどの美しさ。そして壮大なスケールの作品がこちらに。システィーナ礼拝堂天井画「天地創造」。この世界の始まりを表したおよそ40メートルにわたる絵をほぼ一人で手がけたというのですから驚きです。さらにこちらの最後の審判。中央に描かれたキリスト。その裁きの時をお前に様々な思惑が入り乱れる圧巻の壁画。人間業とは思えない数多の傑作を行いに産み落とした芸術家。人々はこう称しました「神のごときミケランジェロ」しかし今日の作品は他とはかなり様子が違うのです。

パチカン市国のあるローマから高速列車でおよそ3時間。イタリア第二の都市ミラノ。ミケランジェロ異色の作品はこのスフォルツェスコ城にあります。見てきたお客さんにちょっと聞いてみましょう。すみませんミケランジェロの作品どうでした。「他のミケランジェロの作品とは本当は明らかに違うね」「見ていると自然に涙が出てくるような作品だわ」一体どんなんでしょう」
城内の西側にある専用の美術館にそれは展示されています。今日の作品。ミケランジェロ・ブオナローティ作ロンダニーニのピエタ。天才ミケランジェロが88歳でこの世を去る6日前までノミを振り続けた未完の彫刻です。彫られたのは細く痩せこけた死せるキリスト。背後にはその体を優しく抱きかかえる聖母マリアの姿。まるで二つが一つに溶け合っているかのようです。荒々しいノミの跡は未完の証。しかし、いくら未完とはいえキリストの前に立っている棒のようなものは何なのか。腕にも見えますがなぜここに。そもそも多くの芸術家がピエタを手がけましたがそのほとんどはマリアの膝の上にキリストが横たわる姿。ところが今日の作品は全く違うのです。「実は最後の審判にもこのポーズが描かれているのです」最後の審判。画面の左下に描かれているのは確かに同じポーズ。実はミケランジェロ人生最後の願いが二人が重なり合うこの姿に込められていたのです。さらに未完の彫刻には重大な秘密が隠されていました。キリストが全裸に。

 神のごときミケランジェロルネサンスを代表する偉大な芸術家です。バチカンで鮮烈なデビューを飾ったのがサンピエトロのピエタ。自分の力を世に知らしめるため全身全霊を注いで挑んだ作品でした。大理石とは思えない艶やかな肌。そして繊細な衣の皺や襞。これを24歳の時に作り上げたんですからすごい。他にもミケランジェロは二つのピエタをフレンチに残しています。一つはパレストリーナピエタ。しかし近年これは弟子が手がけた可能性が高いとも言われています。もう一つがドゥオーモのピエタミケランジェロが75歳の時自身の墓のために作り始めた作品です。しかしこのピエタ彫り進めていくうちにある問題が発生しました。大理石が粗悪だったため亀裂が走ってしまったのです。ミケランジェロは新たに作品を彫り始めます。そして生まれたのが今日の作品。しかしドゥオーモのピエタとは構図も雰囲気も全く異なっていました。

ピエタは女性の膝の上に男性横たわるのが一般的です。でも今日の作品は一体どういうことでしょうか。

ポーズに秘めた想い

 

ロンダニーニのピエタミケランジェロにとって他のどの作品よりも特別だといいます。主任学芸員のモーリさんは「ミケランジェロは自分のキャリアのために制作を続けてきましたしかし自らの墓のために作るという時に一番大切にすべきものは自分の心なんだ。人の目を気にせずに自らの芸術を追求したいと考えたのです」ミケランジェの作品の多くは時の権力者たちに求められ、国を象徴する寺院や貴族の墓地などを飾りました。当然その制作には様々な制限がつきまとうことにら。例えば最後の審判では聖なる場所に全裸はふさわしくないと後に腰布が書き出されるという事態が起こります。だからこそミケランジェロは、ロンダニーニのピエタだけは一切の制限にとらわれず、自分の最後にふさわしいものにしたいと考えたのです。そんな決意の表れが女性が男性を後ろから抱えるこの姿。ドゥオーモのピエタも今日の作品と同じようなポーズ。しかし背後の人物は聖母マリアではなく男性。ルネサンスの芸術を研究するズッフィさんは、この男女の変更に作品を読み解く重要な鍵があるといいます。「このポーズを用いる場合抱える役目は男性というルールがありました。男性の体を女性では支えられないという考えからです。しかしそれをあえて女性にした。おそらくヴィットリア・コロンナとの出会いが影響しています」1535年ミケランジェロ60歳の時。 その身を芸術にのみさ下げてきた天才が一人の女性と出会います。

ヴィットリア・コロンナ。早くに夫と死別した43歳の未亡人でありイタリアで名の知れた女流詩人ミケランジェロが生涯で唯一交際した女性です。ヴィットリアの豊かな才能と女性でありながら逞しく芸術の世界を生き抜いてきた強さに惹きつけられたのです。当時ミケランジェロ教皇の命令で苦手な壁画制作に着手。大きな苦しみの中にいました。絵の中に皮だけの自画像を加え、自分は抜け殻となり果ててしまったと嘆いています。ヴィットリアは悩めるミケランジェロを理解し、偉大であるがゆえ孤独な芸術家の心を支えたのです。今日の作品のポーズはそんな二人の関係があったからこそ生まれました。「力のない女性にあえて男性を抱えさせたのは聖母の強さや逞しさを表現するためです。そのインスピレーションは強い女性であるヴィットリアから得たものなのです。自分を支えてくれたヴィットリアとの出会い。それが死せるキリストを力強く支える聖母マリアの独特なポーズを誕生させたのです。しかしロンダニーニのピエタは単に男性を女性に変えただけではありませんでした。ヒントはこの棒のようなもの。

 

キリストの横にある棒とはなにか。あれは腕の跡。実はミケランジェロはこのピエタを彫り直してるのです。足が綺麗に磨かれてるところから、多分腰の辺りから上を彫り直したと考えられています。なぜ彫り直したのでしょうか。

 

彫りなおされた理由

今日の作品の当初の姿を示すスケッチが残っています。今のポーズとは確かに違いますね。残された元の腕の位置はスケッチの腕と一致します。なぜミケランジェロは彫り直したんでしょう。謎を解く鍵が最後の審判に描かれたこの二人にあるというんですが、彫り直しの真相とは。

 

今日の作品ミケランジェロ作ロンダニーニのピエタ。それまで出かけてきた彫刻とは雰囲気が全く違う世紀の天才が残した遺作です。制作を始めた頃ミケランジェロはすでに84歳。様々な病気に悩まされ、体は衰弱ヴィットリアが世を去ってからは訪ねてくる友人もなく、孤独の中で黙々と作品に向かっていました。作品を彫りすすめめながらミケランジェロは自らの死を明確に意識するようになっていきます。そこで大胆なポーズの変更をするのです。その時モデルにしたのが最後の審判の天使が死者を天に引きあげようとするポーズです。当初腕を垂れていたキリストをマリアがぐっと抱き寄せ天へと導く姿勢に彫り直したのです。さらにマリアの頭部にうっすらともうひとつの顔があるのが分かりますか。左を向いていた顔をキリストの方に向けました。そしてキリストの体。隆々とした肉体美の表現が得意なミケランジェロですが、その面影はありません。「ミケランジェロはキリストの死に自分の死を重ね合わせたのでしょう。だから自身の体の衰えをキリストに反映したのです。おそらくこれらの変更には自らの死が愛につつまれるようであってほしいという願いが込められているのだと思います」マリアに優しく引き寄せられぬくもりに抱かれながら天へ旅立つように彫り換えられたキリスト。その姿にミケランジェロは理想の最後への思いを重ねていたのです。そしてミケランジェロにとってマリアといえばヴィットリア。その愛に包まれながら天に召されたいという願いも託していたのかもしれません。

 

全裸のキリストの秘密

ミケランジェロは肉体の美しさを表現するため、全裸の作品を数多く残しました。最後の審判の完成当初の模写を見てみるとほぼ全裸。でもキリストだけは違いました。救世主を全裸にするなど普通はありえません。この異例の姿に理想の最後を追い求めた天才の特別な願いが隠されていたのです。

ミケランジェロ代表作の一つ天地創造。そこに描かれた全裸の人物が実は今日の作品に大きく影響しています。楽園に生まれた最初の人間アダム。全裸で描かれています。つまりその姿は楽園の象徴なのです。しかしアダムはイブと共に禁断の果実を口にするという現在を犯し楽園を追放。罪を負うことで生まれた羞恥心によって全裸では生きられなくなりました。この物語こそ全裸のキリストの謎を解く鍵なのです。「全裸は原罪を犯す以前の状態。つまり楽園への回帰を意味します。たとえ原罪を犯し楽園を追われたとしても死んだ後は再び楽園へと戻ることができる。ミケランジェロはこの救いを全裸のキリストに込めたのです」そもそもピエタとは日が沈むことにキリストの死を重ね生まれた言葉。しかしそれだけではないのです。沈んだ太陽は必ず昇る。復活です。終わる悲しみの果てに待っている始まりの喜び。この相反する二つの感情が複雑に重なり合う表現こそ本来のピエタである。そう確信したミケランジェロは死の直前まで全裸のキリストを掘り進めたのです。理想のピエタに救いを求め衰えゆく体で腕を振るい続けたミケランジェロ。生々しく刻まれたノミの後には苦しみながら芸術に挑み続けた生き様と最後に夢見た楽園回帰への願いが込められています。だからこそ見るものの涙を呼ぶのです。

愛につつまれた理想郷へと旅立っていったのです。ミケランジェロロンダニーニのピエタ に託された説なる願い。

 

 

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