チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

美の巨人たち ゴッホ「アルルの寝室」

f:id:tanazashi:20181016222515p:plain

 

南フランス・アルルの町はずれにゴッホが住んでいた家がありました。

その寝室を描いた『アルルの寝室』は、今日の一枚の他に同じ構図の絵がもう2枚存在します。

それぞれ微妙な違いがあるのですが、ゴッホはなぜこの“誰もいない部屋”を3枚も描いたのでしょうか?

さらにゆがんだように見える部屋の違和感…

その秘密を紐解くと、そこにゴッホという画家の不世出の才能があったのです!

謎めいた一枚に潜むゴッホの凄みに迫ります。 

美の巨人たち ゴッホ「アルルの寝室」

放送:2018年10月20日

 

アルルの寝室

f:id:tanazashi:20181027164830p:plain

1888年2月。パリでの生活に疲れたゴッホは南仏アルルへとやってきました。

浮世絵で深い感銘を受けた日本への憧れをこの街に重ねるように。

親友の画家ベルナールに宛てた手紙にはこうあります。

f:id:tanazashi:20181027164921p:plain

「この地方が大気の透明さや鮮明な色の効果のため僕には日本のように美しく見える」

f:id:tanazashi:20181027165145p:plain

この街はずれの一角にあったのがゴッホの住んでいた黄色い家。

f:id:tanazashi:20181027165211p:plain

その2階にある寝室をゴッホは描きました。

f:id:tanazashi:20181027165304p:plain

ところがこれと同じ絵が他にもう2枚あるのです。

f:id:tanazashi:20181027165336p:plain

 

f:id:tanazashi:20181027165409p:plain

一つはアメリカシカゴ美術研究所が所蔵しているこちらの作品。

f:id:tanazashi:20181027165500p:plain

もう一つはフランスオルセー美術館所蔵のものです。

f:id:tanazashi:20181027165542p:plain

それぞれ微妙に違いがあるようですが、ゴッホはなぜ3枚も描いたのか。

f:id:tanazashi:20181027165704p:plain

「この作品はこの時期に描かれた他の絵と同様に共同生活を始めるポール・ゴーギャンが来るので自分の家を飾るために描いたものでした」

ゴッホはこの黄色い家を拠点として画家たちのユートピアを作ろうと考えていました。

f:id:tanazashi:20181027165753p:plain

そのリーダーとして招いたのがポール・ゴーギャン

ゴーギャンに当てた手紙にはこう綴られています。

f:id:tanazashi:20181027165827p:plain

「これも他の絵もあなたに見てもらえるわけで、それらも二人で話し合いましょう。ここに来れば、あなたも僕のように秋の印象を描きまくる熱狂にとりつかれることになると思う」

もうすぐゴーギャンがやってくる。

 

この絵はその喜びと期待に溢れているのです、そしてその年の10月待ち焦がれたゴーギャンがやってきました。ところが幸福は長くは続きませんでした。

次第にギクシャクしていく二人の関係に苛立ち傷つきゴッホが起こした事件。

f:id:tanazashi:20181027165951p:plain

そしてアルル郊外のサンレミにあった施設にゴッホは入院することになったのです。

f:id:tanazashi:20181027170034p:plain

失意と不安の日々の中、ゴッホはキャンバスと向き合いました。

f:id:tanazashi:20181027170603p:plain

皮肉なことに狂気と正気の狭間をいきつもどりつした一年間に、ゴッホはいくつもの傑作を生み出していくのです。

f:id:tanazashi:20181027170640p:plain

 

f:id:tanazashi:20181027170707p:plain

今日の一枚が描かれたのはアルルにやってきた年の1888年10月。

f:id:tanazashi:20181027170805p:plain

シカゴにあるこちらはおよそ1年後の1889年9月5日に描かれています。

f:id:tanazashi:20181027170838p:plain

その3週間後に描いたのがオルセーにあるこちらの絵です。

f:id:tanazashi:20181027170916p:plain

なぜ3枚もあるのか。

f:id:tanazashi:20181027170953p:plain

「この絵が損傷したので模写を作ったのです」

近くの川が氾濫し、その湿気の影響で色が劣化してしまったのです。

 

ゴッホはこの絵を重要な作品とみなしていたので再び描いたのです。さらにもう 少し小さいサイズでも描いて母と妹に送りました」

f:id:tanazashi:20181027171137p:plain

二枚目を描いた時、ゴッホの精神はまだ不安定なままです。その焦りと苛立ちが荒々しい筆致になったのかもしれません。

f:id:tanazashi:20181027171216p:plain

ところが3週間後に描いた3枚目は身内のために描いたという優しさもあり、全体的に柔らかな印象を受けるのです。

f:id:tanazashi:20181027171248p:plain

でもこの2枚には最初の1枚とは決定的な違いがあります。壁にかかった2枚の肖像画

f:id:tanazashi:20181027171330p:plain

今日の一枚の壁にあるのは友人二人の肖像画です。

f:id:tanazashi:20181027171400p:plain

ウジェーヌ・ボックの肖像とミリエ少尉の肖像だと言われています。

 

 

ところが後に描かれた2枚では両方ともゴッホの自画像と女性像の組み合わせに変わっているのです。一体どういうことなのか。

f:id:tanazashi:20181027172132p:plain

肖像画を変えたのは大変興味深いことです。彼が別の意味を込めたと考えられますから。自画像の隣に女性像をかけたのは自分が実現できなかった今とは違う人生を表したかったからかもしれません」

f:id:tanazashi:20181027172206p:plain

ゴッホにとってこの誰もいない部屋というモチーフはそれだけ大切なものだったのでしょう。

とはいえ問題は最初の絵です。違和感にこそゴッホという画家の不世出の才能が込められていたのです。

ヒントは古地図。あの寝室の謎は、家と道との位置関係に。一体それは・・・

斜めの家

f:id:tanazashi:20181027172250p:plain

南フランス、アルルの町外れ。ラマルティーヌ広場2番地にゴッホの家がありました。

明るく希望に満ちたはずのこの絵にどこか違和感を感じるのはなぜか。

ゴッホの目はいったい何を見ていたのか。

f:id:tanazashi:20181027172403p:plain

ゴッホの家は斜めに交差する道の角にありました。家も道に沿って建てられていたため台形のような形をしていたのです。

ですから部屋も普通の四角でなく窓側の壁は斜めだったのです。

これがアルルの部屋の真実の形。

f:id:tanazashi:20181027172437p:plain

この謎に挑んだのが造形作家の青木世一さんです。

f:id:tanazashi:20181027172558p:plain

青木さんは絵の中に描かれたイメージを再現するため立体作品づくりに挑戦し続けています。

f:id:tanazashi:20181027172657p:plain

Life with Art: AOKIT 絵画の世界に迷い込む不思議

f:id:tanazashi:20181027172851p:plain

ゴッホが描いた絵の世界を立体的に配置してみました。すると

f:id:tanazashi:20181027172925p:plain

ゴッホが描いた絵の部屋はゆがんでいることがわかりました。

ゴッホの家は斜めに交差する道の角にありました。建物自体が道に沿って斜めに建てられ、部屋もまた斜めだったのです。

これがアルルの部屋の真実の形。

 

f:id:tanazashi:20181027173317p:plain

ゴッホは広角レンズ的な目をもっているということを見つけました。普通にこの部屋を描いても絵のようにはならないのです。」 

f:id:tanazashi:20181027173422p:plain

「普通にこの部屋を作っても絵のようにはならないのです」

 これが普通に部屋を見た時の見え方です。

f:id:tanazashi:20181027173506p:plain

そしてこれが広角レンズを使って部屋を見たときの見え方。

比べてみるとどうでしょう。

「洗面台の上とか何があるのかしっかり描くためゴッホは左右に広げて描いたのではないか。それがちょうど広角レンズ的な表現になったのだと思う」

この絵の違和感の正体は部屋そのものの形と、ゴッホ独特の広い視覚のせいだったのです。

精神的なものではないのです。

その証拠にこの絵は遠近法的に全く破綻はないはずです。

f:id:tanazashi:20181027174831p:plain

線を引いてみましょう。家具に沿って線を引いてみると全ての線はただ一点。

つまり消失点に収束しています。その消失点にある窓こそがこの絵の謎を解く最大の鍵。

f:id:tanazashi:20181027174924p:plain

目を凝らして見るとその窓がほんの少しだけ開いているのです。

果たして画家の狙いは。

画家が夢見た理想の部屋

ゴッホのアルルの寝室。じっと目を凝らしてみた先の消失点にあるのは窓です。

一体どんな意味があるのでしょう。

地図を見ると家は南向きに立っています。

少し開いた窓からは太陽の光が差し込みます。

f:id:tanazashi:20181027175012p:plain

画家の視点で部屋を見ればきっと逆光で強いコントラストの陰影があったはず。

ところが・・・影がないのです。

f:id:tanazashi:20181027175046p:plain

ゴッホは自然光の中にある風景を描いたのではなく、頭の中の光を元にして描いたのかもしれません。

もうすぐゴーギャンがやってくる。

その共同生活を夢見たゴッホにとって、この部屋こそが最高の場所。

だからそこにあるものすべてを輝きに満たして描きたかったのかもしれません。

あえて窓を開けて、逆光であるにもかかわらず。

ゴッホはこの誰もいない部屋を描いた理由についてゴーギャンに宛てた手紙にこう記しています。

「僕はこうした実に様々な色調全てによって、全くの休息を表現しようと思った」

つまりこの部屋は実験の場所であり、安らぎの場所。

だからこそゴッホはこの誰もいない部屋を描いたのです。

画家が誰もいない部屋を描いた時、いくつもの物語が生まれます。

椅子があり、テーブルがあり、ベッドがある。でも誰もいない。誰もやって来ない。

ゴッホ作「アルルの寝室」沈黙の部屋の恐るべき雄弁。

 

 

 

映画、ドラマ、アニメの動画視聴ならU-NEXT<ユーネクスト>。映画やドラマ、アニメの名作はもちろん、最新作も超充実なコンテンツ数が特徴です。その数120000本以上。まずは31日間の無料トライアルを是非お試しください。

映画、ドラマ、アニメの動画視聴ならU-NEXT<ユーネクスト>。映画やドラマ、アニメの名作はもちろん、最新作も超充実なコンテンツ数が特徴です。その数120000本以上。まずは31日間の無料トライアルを是非お試しください。