チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

美の巨人たち 駒井製「名所図小箪笥」

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金属で造られた小物入れ『名所図小箪笥』は、高さわずか13.8cm。

その極小の中に凄まじい密度で装飾が隙間なく施されています。

それは金と銀で彩られた京都の風景。

扉の中にも雅な金色の世界が!

作品を手掛けたのは明治~昭和に存在した京都の金工工房・駒井。

そして布目象嵌という技法で作る“駒井スタイル”を確立したのが二代目・駒井音次郎でした。

番組では布目象嵌を再現。

造形美を生み出す超絶技巧に迫ります。

 

美の巨人たち 駒井製「名所図小箪笥」

放送:2019年2月9日

プロローグ

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金と銀の線が織りなす景色。

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見事な寺だ。鳳凰が舞う。ひしめき合うのは様々な文様。

f:id:tanazashi:20190210000402p:plain形作っているその線はわずか1 mm ほどの微細。

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これは箱なのか。

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開いた。そこには京都の風景が鮮やかに。

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京都市三年坂美術館は明治期の工芸を数多く所蔵する超絶技巧の殿堂です。

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館長さんが取り出したのは・・小さいですね。

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「細密で精緻な装飾が人間技とは思えないその凄さがやっぱり一番だと思うんですけど。超絶技巧ったて言いますか。全ての人が見て感動するんじゃないかと思います」。

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駒井作「名所図小箪笥」

今日の作品「名所図小箪笥」。

鉄と真鍮で作られた小さな箪笥です。

わずか13.8センチ。その大きさを念頭に置いてみるとわかるのです。技術の高さが。すさまじさが。

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隙間なく覆いつくす装飾は鉄の地に金や銀を打ち込んだ象嵌という技法で作られています。f:id:tanazashi:20190210000641p:plain

まずは正面からご覧いただきましょう。

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描かれているのは京都東山界隈の風景です。

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寺があり庭がありその奥行きも立体感も見事に表現されています。

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額縁のようにしつらえた縁には蔦葉模様が隙間なく。

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天板には大きく羽を広げ向かい合う二羽の鳳凰

 

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背面は驚きます。様々な文様がびっしりと。

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市松、麻の葉、青海波などが巧みに複雑に並んでいます。心地よい無限の連なり。線の一本一本。幅は1ミリもありません。金と銀そして地金の黒の深みが醸し出す雅さ、

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華やかさ。さらにタンスの鍵を開けるとそこには。驚きの風景が。詳しくは後ほど。このタンスを作り上げたのは駒井。明治から昭和にかけて京都にあった伝説の金工工房です。

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その駒井が作り上げた独自のスタイルが布目象嵌と呼ばれる技法。

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今回現代最高の腕を持つ象嵌師の方に名所図小箪笥の一部を再現していただきました。この道57年の名工が繰り出した技は、叩いて、溶かして、塗って、焼いて。

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多彩で緻密複雑な工程の果てに生まれたのが、この金閣寺だ。清水寺には蝶が舞う。

明治を代表する工芸

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金工は明治を代表する工芸です。

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例えばこの香炉は鶏の動きのリアリズムに徹底的にこだわり。

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自在置物の鯉は金属とは思えない滑らかな動きを可能にし、金工とは金属と格闘した果てに新たな美しい造形を生み出してきました。ところが名所図小箪笥の美しさはそれまでの均衡とは全く違う方向を向いていたのです。

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他にも駒井の手がけた直径40 CM の大皿に施された模様の繊細さ。

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このシガレットケース。

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10 CM にも満たないサイズに刻まれた生き生きとした人物。

布目象嵌が生み出したものは。

 

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京都・古門前通りは美術工芸店が立ち並ぶ場所として知られています。

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かつて駒井はここに店を構えていました。

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創業は1841年天保12年。江戸時代は刀装具を手がけていました。

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駒井のスタイルを作り上げたのが2代目にあたる駒井音二郎です。

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なぜ音二郎は布目象嵌を手がけるようになったのか。

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布目象嵌の源流は肥後の国、現在の熊本県で発展した肥後象嵌です。幕末の1855年嘉永7年肥後出身の三崎周助という装剣金具師が夫婦で京都に旅行にやってきました。ところが妻が病に倒れてしまい、同じ金工家同士のよしみか、駒井の店に担ぎ込まれます。音二郎この時13歳。気の毒にと思って音二郎が薬や食事の面倒を一切を見、さらには仕事場まで提供しました。深く感謝した周助は肥後に伝わる象嵌の技のすべてを音次郎に伝授したのです。

 

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音次郎はその技にさらに磨きをかけます。

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目指したのは形の面白さではなく雅さ。

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京の都にふさわしく、より優美により華麗に。

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そしてこんな作品を作り上げていったのです。

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細密を極めた美しさ見事さは国内はもとより海外で圧倒的な賞賛を浴びました。その最高峰が名所図小箪笥です。

 

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京都市北区。川人象嵌は駒井の技を現代に受け継ぐ工房です。

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高橋和夫さんはこの道57年の象嵌師。今日の作品を見ていただきました。

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「すごいですね。細かいですね。でもやってみる価値はありますね」。一体布目象嵌とはいかなるものか。

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高橋さんに再現していただくのはここ。

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実はこの1枚。完成するのに六つもの工程をたどります。では始めましょう。

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まずは布目切り。

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この工程が布目象嵌の基礎であり最も丹念な作業。

 

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鉄板にタガネで細かい溝を打ち込んでいきます。

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さらにその上から斜めに。

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反対側の角度からも打ち込みます。

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細かな溝の重なりが布地を思わせることからこの技法を布目象嵌と呼ぶのです。続いては入嵌。

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金工における象嵌とは金属に別の金属をはめ込むことを言います。

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通常ははめ込む形の凹みに、同じ形の金属を打ち込みます。

しかし布目象嵌は違います。

 

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布目を打った鉄板の上に金を乗せ、そのまま打ち込みます。

すると打ち込まれた金は刻まれた溝にしっかりと食い込み、固定されるのです。

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今作っているのは屋根の部分。幅の広い平金を切り抜いてはめ込みます。そしてここからが真骨頂。

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使うのはその幅はわずか0.1 mm 以下の金糸です。

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この極細の金糸を打ち込んでいきます。

たくみに緻密に自在に操り、風景や紋様を形作っていくのです。

「線は細いものですので、そこで金槌を当てていくのは慣れないと大変なんですよね」。

0.1 mm に満たない金糸。同じ場所に金槌を振り下ろすだけでも相当な技量が要求されるのです。

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二日かけて入嵌し、だいぶ仕上がってきました。

 

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ここからは金糸と銀糸を使い分け、模様を作っていきます。

さざなみも、樹木も、気が遠くなりそうな細やかな作業が続きます。

まだ行程の半分です。駒井金工の中でも優美さと精密さの極致が名所図小箪笥です。

正面下部には引き出しが取り付けられています。

前板の柄は八つに仕切られそれぞれ異なる花鳥図と風景画。

金と銀で彩られた極小の美。ところがこの美しすぎる小箪笥。

本体のどこにも駒井の銘が刻まれていません。なぜ駒井政と特定できたのか。

ヒントは引き出しにあけた鍵穴に。

駒井の作品が美しい理由は金と銀が放つ輝きにあります。

さらにその金銀を支える地金の深い黒にこそ美しさの秘密が隠されていたのです。

果たしてそれは。

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象嵌師・高橋和夫さんによる再現はようやく入嵌が終わったところです。

「細い線を巧みに使っているので結構むつかしかったです」。

しかし、これでおわりではありません。

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ここからちょっと意外な展開を見せるのです。

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なんと、象嵌が完了した鉄板を硝酸につけるのです。この工程を腐食と呼びます。

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これにより象嵌した部分以外の表面が溶け、金と銀が隆起し際立つのです。漆焼きは最も大事な黒を生み出すための工程です。

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腐食を終えた鉄板に漆を塗ります。

 

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さらにその時、「漆にマコモという草の実ですね、それをかけてるんです」。

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マコモとはイネ科の多年草。そのマコモの実の粉末を漆の上から重ねて塗ります。

なぜなのか。「マコモは漆の光るのをおさえてしまうのです。

そのつや消しが喜ばれるんです」。マコモには漆の艶を消す効果があるのです。

そして焼きますこの作業が光沢のない黒を海、金と銀をより輝かせることになります。

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漆焼きは数度行い、より深い黒へと変わっていくのです。

研ぎ出しとは漆によって覆われた黒い表面から。

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鉄ベラを使い金と銀を研ぎ出していく作業です。

傷つけないように慎重に、輝きが黒の中から沸き立つように。

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恐るべき手間をかけ、布目象嵌は作り出されるのです。

これだけ美しい小さなタンスには一体どんなものをしまうんでしょうか。

思わず悩んでしまいます。

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「駒井の数ある作品の中でも、あれほど緻密に美しく装飾してある小箪笥ってのは私見たことないんですけれども、京都らしいみやびやかさといいますか、豪華な中にも気品がある駒井の中でも最高級のものではないかと思います」。

ところがどこを見てもこの箪笥には銘が刻まれていないのです。

ではなぜ駒井政とわかったのか。

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正面の鍵穴。実はそこに差し込むカギに駒井の文字。しゃれてますね。

もちろん本当に鍵として使えます。小さくともタンスですから引き出しもしっかりと。

 

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それでは中をご覧に入れましょう。

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2枚の観音扉を開けると金色の世界です。

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扉の裏、左側には金閣寺。さざ波の一つ一つがきらめいて。

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右側には東山の風景。

山々を背にした寺社の風格と威厳。内部には5本の引き出し。

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取っ手は細やかな造形の花や蝶。

このタンスの高さは13.8 CM です。金と銀と漆黒で描かれた京のみやび。極限の技。極限のしつらえ。

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高橋さんの布目象嵌の再現はほぼ完成かと思っていたのですが。

作業はまだ続いていました。

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傷つけてる。実はこれが最後の工程。

 

最後のひと手間

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象嵌師・高橋さんによる布目象嵌の再現も五つの工程を終え、いよいよ最後のひと手間。毛彫りです。

「これからね人間でいうお化粧、毛彫りです」。f:id:tanazashi:20190216174205p:plain

毛彫りは金銀を埋めた部分にタガネで凹凸を刻んでいく技です。

一見傷つけているように見えますがこのひと手間で表面に立体感が生まれ、光を美しく複雑に反射するのです。

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比べてみると。

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最後の人打ちまで決して疎かにすることなく、布目象嵌やっと完成です。

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「やってみてむつかしいのは、木ひとつにしても色々な木の種類がある。私らの習ったんでは一つの柄の入り方。多種多様な柄が入ってたんで最初は面食らいましたけどね。真似してやることがなかなかしにくいです」。

昭和20年、駒井の工房は金工を廃業します。人件費の高騰によりクオリティを維持することが困難になったためでした。

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主に海外向けに作られていた為、国内に作品をほとんど残されず、その名は忘れられて行きました。

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しかし作り上げたスタイルは今でも。

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布目象嵌は現在では京象嵌とも呼ばれ、その技は脈々と受け継がれているのです。都が誇る工芸として。

それは不滅の金工の技です。金と銀と漆黒の鮮やかさ。布目象嵌が生み出す線と面の超絶技巧。たった13.8 CM の雅なる京の風情。駒井作名所図小箪笥。さて何をしまいましょうか。


 

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