チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

美の巨人たち アンリ・ルソー「戦争」

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「戦争」アンリ・ジュリアン・フェリックス・ルソー

 

 

戦争は、ルソーには珍しい題材であるが具体的な闘争の光景を描くのではなく、師や破壊のイメージを表現しようとしている。中央の黒い馬に乗る人物は、戦争の擬人化であり、真下に横たわる男性はルソーの自画像である。戦争が武器を持ち、黒煙をあげて通り過ぎると、足元には死体の山が出来るという凄惨な寓意画である。

“世界で最も下手”な画家と揶揄されているのにゴーギャンピカソなど巨匠たちは大絶賛!

そんなルソーの代表作『戦争』に描かれているのは、陰鬱な情景なはずなのに清々しいほどの青空、黒い馬に乗り剣と松明を持ち楽し気に笑う少女、戦争なのに誰一人武器を持っていない裸の死体の山…不可解な箇所が幾つもあるのです。

ところがこの絵には、下手な画家だからこそ見る者を惹きつけることができる理由が。

番組ではその謎解きを!

美の巨人たち アンリ・ルソー「戦争」

放送:2019年2月16日

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インターネットでこう検索してみたことありますか。

ちょっと失礼ながら世界で最も下手な画家。

するとトップページにある人物の名前がいくつか出てきます。

ほら、ここにも。関連ワードもほぼ全てその人の事。アンリ・ルソー

19世紀後半から20世紀初めに活躍したフランス人画家。どれほど下手かと言うと。

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サッカーの絵だと言いますが、競技内容が意味不明。

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人物も同じ顔ばかり描いてしまう。

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髭のないおじさんだと思うでしょ。

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幼い子供の絵です。

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自画像はどうかと言うと、遠近感めちゃくちゃ。

美術史上これだけ欠点の多い画家はいないとまで言われ、作品を発表するために人々を大いに笑わせてきました。

しかし、下手なのに何故か強く惹きつけられる。

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下手なのに、世界中に作品の展示が。

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下手なのに、名だたる巨匠たちが絶賛。一体なぜ。

 

フランス・パリ。この町にあるルソーの代表作を見に行きましょう。

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ちょっと気分を変えて、バタビュスという水上バスで向かいます。

エッフェル塔の麓から乗船できるほか、船着場は全て有名観光地のすぐ近くにあるんです。

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早速出発しましょう。目指す場所までは20分ほど。

セーヌにに架かる橋を一本二本三本くぐると見えてくるのがアレクサンドル三世橋。

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パリで最も美しいと言われる橋です。

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さらにしばらく行くと国の建築賞を受賞したレオポール・セダール・サンゴール橋が見えてきます。それをくぐった先にあるのが目的地。

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大きな時計が目印のオルセー美術館です。それでは参りましょう。

世界で最も下手と揶揄された画家の作品に会いに。光の降り注ぐ展示室の2階。

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その絵が描かれた時代のアンティーク家具や調度品と共に展示されています。

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今日の一枚。アンリルソー作「戦争」。

縦1メートル14センチ横1メートル95センチ。画家が50歳で初めて挑んだ大作です。

描いたのは死体の山が築かれた戦場。カラスが死肉を貪っています。中央には戦場に似つかわしくない髪をなびかせた少女。白い服を纏い、黒く怪しげな馬と共に戦場を駆け抜けています。この少女。剣を持つ右手指がおかしなことになっています。松明を握りしめる左でもまるで子供のお絵かき。顔も変です。全ての歯をむき出しにして笑っています。少女の下に転がっているたくさんの死体も戦場にしては何か不自然。ほぼ全ての死体が全裸なのです。戦争の悲惨さを描いているのに清々しい青空。他にも稚拙な部分やよくわからない箇所がいくつもあるのですが、それでもなぜかこの作品に惹きつけられてしまうのです。 

 

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フランス西部の地方都市ラヴァル。

ルソーはここで生まれました。経歴は少し変わっています。

19歳からの5年間を兵役に費やし、27歳からの22年間はパリの税関に勤めました。

その頃から仕事のかたわらキャンバスに向かい始めます。

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夢は自分の作品の素晴らしさを世に認めさせること。

そして1885年40歳で満を持してルソーは動き出しました。

フランス最高峰の展覧会である美術アカデミーのサロンに作品を持ち込んだのです。

その結果は全く相手にされませんでした。

すると今度はお金を出せば誰でも展示できるアンデパンダン展へ出品。

そこでの評価は・・・「その面白い落書きを描いたのは誰だ」「6歳児が指で描いたみたい」「この画家にはなんにもない」。

しかしそんなルソーの作品に思わぬ人たちが密かに注目していたのです。

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それがこちらのゴーギャンピカソカンディンスキーのお三方。

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カンディンスキーの私からお話しさせていただくと「私が描いている抽象画の世界に通じるところがあるからです。戦争の恐怖という抽象的なものを具象的にしていると言えば分かるかな」。

ルソーは空想を描いたんですか。「そこは話が違うんだよな。この戦争と言う絵はルソーにとっては写実なんですよ」。ルソーはこんな言葉を残しています。

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「私は現代フランスの最も優れた写実画家になりつつある」。

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師と仰いだのはアカデミーのエリート画家たち。

彼らのような正確なデッサンを身につけたいと模写に励みました。

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しかし出来上がった絵は全くの不正確。

時には仕立て屋のように巻尺でサイズを測ってもこの通り。

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手が異様に大きい。

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写真を目の前に置き描いた作品もありますが、どうにも写真通りにはいきません。

挙句ありえないほど小さい犬を加えたため、遠近感がめちゃくちゃです。

「でもルソーが目指す絵はあくまでも写実画だったんですよ。見る人には到底写実には思えないんでしょうけどね」。

自分が見てきた戦場を元に描いたんですか。

「彼は戦場には一切行っていないんだよ」。

ルソーは兵役は勤めましたがフランス国内で駐屯していただけで戦場には一度も出たことはありませんでした。では何をもとにして戦争を描いたのでしょうか。実は駐屯していた街には最前線から戻った多くの兵士たちがいました。口々に語る戦争の恐ろしさを耳にして大いに作品に反映させたのです。

 

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美術史家のジェラール・ダ・シルバさんはもう一つルソーが戦争を描くため参考にしたものを見せてくれました。

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「皇帝アレクサンドル3世の行いを風刺した新聞の挿絵です。黒い馬にまたがっているのが皇帝です。ルソーはこの構造を応用し戦争そのもののイメージを追求しているのです」。

戦争の本質を描く

画家は今日の一枚にこんな解説を添えて出品しています。

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「戦争とは恐ろしいものだ。絶望と涙と廃墟をいたるところに残し通り過ぎていく」。ルソーが絵に込めた戦争の恐怖。それを象徴しているのが画面中央の少女だと言います。

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「少女は剣とともに松明を持っています。この松明よく見てみると鎌のような形をしていますよね。鎌は死神の象徴。死を司る存在としてルソーは少女を描いたのです」。不吉さを漂わせる化け物のような黒い馬と共に戦場を駆け抜けていく少女の姿をした死神。さらに。「少女の服はまるで遊びまわった後のように破れたり汚れたりしています。無垢な子供が無慈悲に命を奪っていく。そんなイメージで、ルソーは戦争の恐怖を表現したのです」。笑顔すら見せながら無慈悲に命を奪っていく少女を絵の中心に据える。だからこそこの作品は現実以上の現実味を持って私たちに戦争の恐ろしさを伝えてくるのです。よくよく見ると恐ろしさを感じてしまう。理由はこの少女にあったんですね。

ゴーギャンはこの絵を絶賛してましたよね」「私の場合は色です。ルソーは実に私好みの色使いをする。技術は私に劣るがただ黒だけは別だ。この黒は誰にも真似できない」。

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「戦争」には黒が多く使われています。でもあのゴーギャンが真似できないとまで言い切るのはなぜなんでしょうか。現代の画家にルソーの絵を再現してもらうと。「モナリザを描いてくれって言われたほうが楽」。その理由とはいったい。

 

ルソーの黒

ルソーの作品で印象的に使われているのが黒。代表作へびつかいの女ではジャングルの水辺に立つ黒いへびつかいの女が作品にミステリアスな空気を加えています。そして今日の一枚戦争にも多くの黒が。

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画家のエリック・ルプローさんにルソーの塗った色を再現していただきました。

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描くのは絵の左下背中を向けて横たわる死体です。死体の色を再現すればルソーの黒の凄さが分かるというのですが。「難しい」。どうして難しいんですか。「下手だからだよ」。でもそれだけじゃないですよね。

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「アカデミズムを学んだ画家なら光の一を決めて絵を描く。それが陰影を作り立体感を生みます。

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ところがルソーにはそれがない。

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いろいろな角度から光が当たっているので陰影がない。だからむつかしいんです」。

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たしからルソーの描く体はかなり平面的です。でも陰影がない分、色の面が際立って見えませんか。

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ちなみに死体に陰影をつけてみると、画面全体が黒く沈んで見えます。

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「それぞれの色面が際立とように描いてそこに強烈な黒を効果的に置きたい。ルソーはそう考えたんだと思うよ」。

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実は荒涼とした戦場には似合わないこの青空も色の対比で黒を際立たせるための仕掛けだと言います。独学だからこそ生まれた平面的な描き方がルソーの黒を特別なものに変え戦争の恐怖を強く訴えかける色となったのです。

「我々では考えつかないような突拍子もない描き方。そして型破りな色の組み合わせ。見事だろ」。「ルソーがこの絵に仕掛けた秘密があるんだ。それは俺がゲルニカであえて色を省いたような、引き算の美」。

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ピカソゲルニカから色を抜き去りました。それは戦争の恐怖を見る人により印象的に感じてもらうためのものです。ルソーのこの絵も戦争の本質を伝えるため本来あるべきものを描かなかったと言うんですがそれはいったい。

 

 

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今日の一枚。アンリルソー作「戦争」。描いたのは戦場の惨劇。大地を埋め尽くすほど沢山の死体が横たわっています。しかしその死体をよく見ていくと何か気づきませんか。

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戦争の絵にもかかわらず、すべての死体が軍服をまとっていないのです。なぜか武器がひとつも見当たりません。なぜルソー戦場に不可欠のこの二つを描かなかったのでしょうか。

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「この絵に描かれている死体は兵士ではなく市民なのです。だからこそ誰も軍服を着ていないし武器を持っていないのです。戦争によって失われるのは無力な民の命であるということをルソーは強調したかったのだと思います」。

戦争では失われるべきではない多くの命が奪われていく。そしてその恐怖は誰にでも降りかかる。世界で最も下手と揶揄された画家が描きたかったのはそんな 不尽極まりない戦争の本質だったのです。

画家は晩年こんな言葉を残しています。「もし王様が戦争を起こしたら、母親が止めなければならない」。

暴走する権力を自らの絵筆で止めたかったのかもしれません。アンリルソー作「戦争」。世界で最も下手な画家が描き上げた命の重み。

 

 

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