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響くアートの愛好家

日曜美術館「エッシャー 無限性の彼方へ」

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日曜美術館エッシャー 無限性の彼方へ」



 

永遠に流れ落ちる滝や、無限に続く階段を上る僧侶など、ミステリアスなだまし絵で有名なエッシャー。それはただのトリックアートなのか?謎多き作家の全貌に迫ります。

学校では落第生。建築家になる夢も挫折。

そんなエッシャーの前に現れたのは、超個性的な作品を残した版画家、メスキータ。

やがてエッシャーは、唯一無二の世界を切り開いて行きます。

作れそうで絶対に作れない不思議な建物。

数学者をも魅了するシンプルなデザインの反復模様。

そこには、人間の視覚の限界を見せ付けるような幻惑感にあふれ、多くの人々を魅了し続けています。

エッシャーはなぜ、どのように作品を生み出したのか?

【ゲスト】明治大学特任教授…杉原厚吉,東京芸術大学准教授…熊澤弘,【司会】小野正嗣,柴田祐規子

日曜美術館エッシャー 無限性の彼方へ」

放送日

2019年5月19日

プロローグ

ヨーロッパの修道院を思わせる建物です。その屋上には階段。階段を登る人下る人。頭巾をかぶった人々の表情は見えません。そして彼らは無限に階段を登り続け、降り続ける。一体なぜこの絵が書かれたのか。「不合理なものを探す人は、不可能なものに到達します。それは私の地下室にあると思います。上に上がって確認してきます」マウリッツ・コルネリス・エッシャー。去年、生誕102周年を迎えたエッシャー。その摩訶不思議な作品は今も私たちを惹きつけそして惑わせます。「頭の中どうなってんのかすごいな」「自分の中の常識ではない世界に連れて行かれる感じ」「だまされました」あの人気漫画の作者もエッシャーの虜。「映画を観てるみたいに驚くようなと思った SF 映画とかみたいな」人の目や脳を刺激するだまし絵の作家・エッシャー。その世界はいかにして生まれたのか。辿っていくと知られざるアーティストの存在が見えてきました。「すごく衝撃的でしたね。こういう作品を作った人がいたんだ」単なるトリックアートではないのかもしれません。その奥に何らかのメッセージが隠されている。しかしそれもまたトリックかも。今日は騙されてみませんか。エッシャーの世界に。

前説

今日はエッシャー。オランダの版画家でだまし絵で有名ですけれども、マウリッツ・コルネリス・エッシャーの世界を取り上げてまいります。

エッシャーという画家

エッシャーの代表作「滝」水路を流れる水。レンガで作られた壁面を辿れば水が下へ下へと流れているのが見て取れます。そして徐々に画面の奥へ奥へと水路は向かっている・・はずですが、水の流れが滝となった時気づきます。水はいつのまにか一番高い所に。そして一番手前に来ているのです。これがエッシャー。目の錯覚。錯視の世界。作品「凹凸」ではまず左側だけを見てみましょう。下にははしごを登る男。上には籠を持ち歩く女性。では次に右側を。梯子を登る男性から視線を上に向ければ左側を反転させたかのような世界が展開しています。出っ張っているのか引っ込んでいるのか。現実には建築不可能な建物。エッシャーに影響を受けたアーティストがいます。川人綾さんです。「父親が神経科学者でずっと脳の機能研究していたっていうこともあって、家にエッシャーの画集を置いてくれていたので、それを幼い頃から眺めていました。とにかく不思議で、どれだけ時間をかけて眺めても把握しきることができないような感覚を、何ていうかずっと目が騙し続けられるようなそれはありえない図形だって分かってるのに、そこにはあってみたいなのが、自分の中で続いていくような。ちゃんと帰ってこれるなら入りたいです。怖い世界なんじゃないかなって思うので、実際に箱に入ってしまったらもう謎の中に引き込まれて、ブラックホールみたいなイメージなので」川人さんの作品です。連続するパターンが立体に見えてきます。エッシャーの凹凸のような錯視効果を狙った作品。視覚が揺らぎ目眩すら覚えます。「エッシャーが描き出した錯視効果ってのは私たちにその自分たちが脳を通してとらえたイメージと現実世界の対象物との間の大きなズレを意識させてくれたと思うんですけど、そうすることによって私たちは自分の把握できる能力の限界を感じるとともに、自分たちが認識している領域を超えた領域の存在っていうのがあるんだろうなっていう感覚になるんじゃないかなと思っていていて、エッシャーはそういうことをした人なんじゃないかと思ってます」自分が認識する領域を超えたもの。それと出会った時のめまいを覚える感覚。それはエッシャー自身が若い頃に味わったものかもしれません。オランダ北部の町。レーワルデン。エッシャーはここで1898年に生まれました。父は水力工学の技師で裕福な家庭だったと言います。学校の成績は褒められたものではありませんでした。体も弱く唯一得意だったのが美術。父の勧めもあり最初は建築家になることを目指しますが、成績が振るわず断念。そこでエッシャーは授業で好きになった版画の道へと進むのです。24歳の時の作品。緻密な表現からエッシャーが確実に腕を上げていった事が伺えます。この作品を手がけた翌年には初めての個展を開くまでになりました。そしてこの頃エッシャーは旅先である光景と出会うのです。それはイタリアの大地と建物。衝撃でした。平地の多い故郷オランダでは見ることのできない起伏に富んだ大地。そこにへばりつくように建つ建物や段々畑。新しい発見の連続でした。エッシャーは時を忘れ夢中でスケッチをしたと言います。イタリアの風景の虜となったエッシャーはローマに居を構え、10年以上に渡りイタリア各地を旅するのです。エッシャー36歳の時の作品。入り組んだ道や階段は迷ったら出ることができない迷路のよう。あまりに複雑な構造の建物は建築不可能にすら見える。そんな不思議な光景。そして後にこれらの作品が生まれるのです。イタリア時代はエッシャーエッシャーになるための準備期間だったのかもしれません。

スタジオ

日本でのエッシャー展の監修をされている東京芸術大学の熊澤弘さん。エッシャーを数学的に読み解いていらっしゃる明治大学杉原厚吉さんです。
・イタリアの風景がエッシャーの作風に影響を与えたってことはあるんでしょうか
エッシャー1920年代、20代の時からイタリア及び地中海の海岸線のところの景色に今は特に魅了されていたと考えられています。その頃の主題のほとんどがイタリアであるのと切り立った海岸線の表現としてはのイタリアの伝統的な石造りの建物をモチーフにしたものが多いんですね。切り立ったイメージ、複雑に交差したイメージというものが将来のエッシャーのだまし絵的イメージの基礎を作っていると言えると思います」

 

 

だまし絵の画家

エッシャーのだまし絵の作家として一躍脚光を浴びた作品です。「昼と夜」夜空を飛ぶ白鳥は昼の光に溶け込んでいき、闇から黒い鳥が浮かび上がる。左右だけでなく上下においても不思議な変化が見られます。オランダを思わせる田園地帯が黒と白の鳥へと変身する。エッシャーに魅了されている漫画家がいます。荒木飛呂彦さんです。荒木さんが大好きな一枚がこちら。「鳥と魚が変身してるって言うか、黒を見るか白を見るかで、何か違うんですけど、鳥がどんどん立体化してくっていうか、で同時に魚がどんどん立体になってくっていうようなそういうところがまた何かとても素晴らしくて、もう一枚の絵で何か変身を同時に書いてるって言うか」平面を規則性のある図形で埋めていつ正則分割と言われる技法を応用した作品です。エッシャーにインスパイアされた荒木さんはこんなシーンを描きました。主人公が超能力を使い敵と戦う場面。正則分割が不思議な世界観をより高めています。なぜエッシャーはこうした作品を手がけるようになったのか。それはエッシャーが旅先で出会った光景が原点でした。スペインの古都グラナダにあるアルハンブラ宮殿。24歳の時に初めてここを訪れました。目を奪われたのは壁面を埋め尽くす幾何学模様の装飾でした。複雑に絡み合いながら延々と続く文様。その後エッシャーは再びアルハンブラ宮殿を訪れ、丸3日かけて宮殿内の文様を模写したと言います。そして生まれたこの世界。エッシャーの言葉です。「宇宙を作り出そうとするのは抽象的でも曖昧なものでもなく、しっかりと認知できる事物を再現するべきです。二次元の宇宙を、同じ形のしかもはっきりと認知できる組木を無限個数使って組み立てるのです」ではさらに進化したエッシャーのおよそ4 M もの大作をご覧ください。最初はメタモルフォーゼ・変身の文字。そして返信の文字に戻る。漫画家の荒木さんはこうしたエッシャーの作品を見るたびにいつもあることを感じると言います。「無限のパターンでどんどん変化したりとか。滝が永遠に流れてるとか、人間が永遠に階段を登りながら実は降りてたとか、無限の世界をすごく感じる」連続するパターンが織りなす無限。それだけでなく滝や階段など不可能な立体を表した時にもエッシャーは無限にこだわっていると荒木さんは指摘します。そしてこの版画にも。これはエッシャー、イタリア時代の作品です。どこに無限性が潜んでいるのでしょうか。「なんでこういう絵を描いたのかと考えると、なんか崖の斜面とこの雲の、なんかどこまでも続いていく感じが描きたかったのかなって、例えば構図的に言ったらこの一番向こうの雲とか僕はいらないような気がするんだけど、エッシャーはずっと続いてくこの雲を描きたいんだろうなって思うんです。崖のこのすごくどこまでも続いていくような感じの構図って言うか、そこにエッシャーは絵の無限の無限って言うか、分割するパズルの絵とはまた違うんだけどもその無限みたいなのを描きたいんだなっていうのがちょっと分かるんですよね」
 

取材先など

 

放送記録

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書籍

展覧会