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響くアートの愛好家

日曜美術館「幻の国宝 佐竹本三十六歌仙絵」

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百年前、日本美術史を揺るがす大事件“絵巻切断”によって散り散りになった秘宝「佐竹本三十六歌仙絵」(さたけぼん・さんじゅうろっかせんえ)が今秋、京都国立博物館に過去最大規模で集結する。

36人の名だたる歌人の肖像に、詠まれた和歌などが書き添えられた歌仙絵。

完全な状態であれば、第一級の国宝だったとされるこの絵巻はなぜ切断されたのか?

現代の文化人と最新科学が、歌仙絵の最高傑作に込められた魅力を解き明かす。

【ゲスト】東京大学大学院教授 国文学者…ロバート キャンベル,京都国立博物館 学芸部 研究員…井並林太郎,【司会】小野正嗣,柴田祐規子

日曜美術館「幻の国宝 佐竹本三十六歌仙絵」

放送日

2019年11月10日

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京都国立博物館。幻の国宝とも言われる貴重な作品が今公開されています。

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鎌倉時代に描かれたとされる《佐竹本三十六歌仙絵》です。

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日本文学の礎を築いた和歌の第一人者。

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宮中に仕えた恋多き女歌人

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万葉集百人一首などに名を連ねる当代一流の歌人36人の肖像が描かれた歌仙絵。

その最高傑作とされます。およそ800年前に描かれた名画が今も多くの人を魅了し続けています。

 

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「声を感じる。歌の声を。風景はないけれども。あの人が選んだ声を人物から感じることができる」

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「本当見事だと思うのは二つとして同じ者はもないんです。全部違う。似たように思うかもしんないけどよく見ると全部違う」

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描かれた当初。歌仙絵は上下2回巻物の姿をしていました。

ところが100年前切断されバラバラになってしまうことに。

しかし奇しくも切断されたことで絵巻は新たな芸術へと生まれ変わったのです。

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「単なる古美術、文化財ではなくて今のものとして存在感を放ってくるわけですね」

f:id:tanazashi:20191117190432p:plain佐竹本三十六歌仙絵。

年を越え幻の国宝と歌われる作品の魅力に迫ります。

 

スタジオ

今日のテーマは佐竹本三十六歌仙絵。もし絵巻の形で残っていればもう間違いなく国宝級という大傑作なんですが、バラバラに来られちゃったんです。どうしてそんなことがね起きたんでしょうね。今日はまず歌を手がかりにこの傑作の魅力を紐解いていきます。

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鎌倉時代に数多く描かれた歌仙絵。

歌仙絵とは歌人の肖像に詠んだ歌などを書き添えたもの。

中でも最高傑作とされるのが佐竹本三十六歌仙絵です。

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恋の歌を雅に歌い上げた女流歌人小大君

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岩橋の夜の契りも絶えぬべし明くるわびしき葛城の神。

夜の契りを交わした後、明るくなっても帰らない男性に姿を見せたくないと恥らう歌です。

f:id:tanazashi:20191117191449p:plain現代歌壇を代表する歌人 馬場あき子さん。

歌の世界観が絵に見事に表現されていることが作品の魅力だと言います。

「動きがありますし、叙情性があります。かちっとしたもんじゃなくて表情がある。表情っていうのは顔の表情だけじゃなくて姿に表情がある。装束の動き。着物の衣装の動き。乱れからその人物の内面に達する何かがあるって言うことね。そういうことはなかなかのもんだと思いますね」

小大君の心情や歌の情景が表情や髪の毛の描きかたに見て取れるといいます。

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「この女の表情は色っぽい女してますね目つきがね。ちょっと流し目をするような身体を傾けながらこう上の方に流し目をしてるあたりがね。呼びかけている女っていうそういう感じになってるんでしょうね。やっぱり女の人のあの色っぽさってのはこの髪の流れで出したんですね。これは非常にあの乱れ方も美しい見られ方をしているし、下がり端ってんですけど半分これ切れてる髪がありますね。これがあの扇が間に合わない時には顔にかける。そういう髪。だから切ってあるんですよこれだけ。短くね。端正の中にある色っぽさとあの情緒というのを出して」

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逢瀬の後の夜明けに漂う上品な色香が表現されています。

 

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さらに歌人の佇まいが歌に寄せた心情をより際立たせる作品も。

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月の歌を詠んだ平安時代歌人藤原仲文

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有明の月の光を待つほどに我が夜のいたく更けにけるかな。

空に昇る月を待ちわびながら自らの老いに思いを馳せるこの歌。

老いを重ねた悲哀が歌仙のちょっとした仕草に現れています。

「これなんか膝を見てますね。膝を見てるし、膝を押さえて立とうとしたのか。分かりませんそれは。だけどちょっと傾いて悲しい顔してます。どうしたんでしょうね。人生我が夜も痛く老けたんじゃないですか。こう膝に手をかけてね。痛いんじゃないですかね」

読み手の内なる声を随所に感じさせる表現が、この歌仙絵が傑作たる所以と馬場さんは言います。

「声を感じるわけ。歌の声を。風景はないけれどもあの人が読む選んだ声を人物から感じることができる。声っていうのはやっぱりある現場感を持ってますからね。その面白さもあるでしょうね。その人に成り代わって歌を読んでみると、何か違った。単なる歌よりももうちょっと面白い歌に読めてくることがある」

情緒豊かな歌仙の絵姿が若一つ一つの持つ奥深い世界へと誘ってくれるのです。

スタジオ

今日のゲストをご紹介しましょう。

 

絵師の緻密な計算

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日本画家の千住博さん。

佐竹本三十六歌仙絵には絵師の細やかな技が詰まっているといいます。

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千住さんが注目したのは藤原高光

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緻密な描写に際立つ歌仙絵です。

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わずか2センチ の顔に1ミリ以下の細い線が重ねられ、眉や髪の毛が本物のように描かれています。

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まぶたを描いた線は上下で墨の濃さが変えられています。

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柔らかな眼差しからは繊細な心情が伝わってきます。

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「非常に高貴で貫禄がある。しかし人間味も出しながら小さな顔に細かく描いている。視線からね細かい緻密な計算ができている 」

 

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千住さんがいう絵師の緻密な計算。それは最新の科学調査でも明らかになりました。蛍光 X 線分析装置で歌仙絵に使用されている絵の具を調べると、

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高光の顔の部分に肉眼では分からない注目すべき結果が出ました。

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「地には鉛がちょっとだけ出た。ナチュラルメイク」

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背景の紙の色に近く一見何も塗られていないかのような顔の部分。ここに鉛白という白い顔料がごくわずかに塗られていたのです。

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「そもそも美男子だったんでしょこの人。描き分けたかった。上に載っている絵の具の色も違う」

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他の歌仙絵と比べてみると確かに高光の肌の色は白く透き通っているように見えます。

名門の生まれでありながら父を早くに亡くし、全てを捨てて出家した藤原高光

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かくばかり経がたく見ゆる世の中にうらやましくもすめる月かな。

清らかに輝く月と自分自身を比べ、世の中の生きづらさを嘆くこの歌には、悲しみが漂っているかのようです。

絵師は若き青年が抱えていた心の憂いをこの透明感ある白で表現したのかもしれません。

 

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「薄く、それも白系の色を薄く塗って表情を出していくというのは、ちょっとすると筆にたまった絵の具である部分だけぼわっとしろっぽくなっちゃったりするもの。だから薄く塗ってあるところでとどめるっていうのは本当に枚数を描いている経験の豊富な画家じゃないとなかなかうまくいかない。絵の具を濃くべったりと塗っちゃう方がよっぽど楽です。

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だからものすごい経験というか枚数を描いている人ならではの技巧なんでしょう」

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次に挑戦したのは小大君

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絵師の技巧は着物の細かい部分にも隠れていることがわかりました。

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くすんだ灰色に見える上着の部分を調べてみると。

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「銀がある」

「今はグレーに見えてしまっていますけれども当初は光り輝くような銀泥が塗られていた。それが非常に広い面積で塗られていたと思われます」

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灰色に見えた部分には銀粉をにかわで溶いた銀泥が塗られ、きらびやかな銀色が広がっていたことがわかりました。

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調査結果を基に復元された当時の色がこちらです。上着に重ねられた華やかな銀。十二単のかさねの部分には金も使われていました。小大君の装束が精巧に描かれていたのです。

千手さんはここに絵師のある大胆な企みを受け取りました。

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「 当初はもう目にも鮮やかな銀色ですごく華やかな絵だったと思うんですよ。

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銀色が早くて半年くらいで変色を始めることは画家だったら今も昔もみんな知っているわけで、たしかに描いたときは目にも鮮やかな銀でしょ。ビカビカの銀色ですよ。でもそうだったら顔は惹き立たなくなっちゃう。だからここら辺に落ち着いて初めてこの色があって顔の白色が強調されてくるし、全部想定してその時の流れをも道具として扱っていった。

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今私たちが見てるこの姿も今から何百年も前の作者の想定の中で、少しずつ少しずつ時の流れとともに変わっていった変化であるし、毎回見るたんびに違った表情をしているということもあってしょうがない毎回が一期一会で、何かこう書いてる人間の作家のこの息遣いみたいなものを伝わってきた」

時を経た鈍い色にこそ映える艶やかな白い顔。絵師の緻密な計算がそこにもあったのかもしれません。

スタジオ

 

取材先など

 

放送記録

av98ingram.wpblog.jp

 

書籍

展覧会

 

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