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響くアートの愛好家

新美の巨人たち 鏑木清方「築地明石町」ほか

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鏑木清方「築地明石町」

 

 

明治、大正、昭和を生きた美人画の名手・鏑木清方“幻の最高傑作”『築地明石町』。

隅田川沿いの河岸の町が描かれた、縦173.5㎝横74㎝の掛け軸です。

幻と呼ばれるゆえんは、1975年の展覧会以来忽然と姿を消し、行方不明になったため。

歴代の学芸員たちが手を尽くし探し続け、このたび44年ぶりに公開されました。
朝もやに佇む美しい女性がひとり。

誰かに呼び止められたのか、見返るような姿で陰りと憂いを帯びたまなざしを向けています。よく見ると眼の下に一本の線が。

この線が意味するものとは?

昭和2年、脂の乗り切った清方が帝展の出品作として手掛けた『築地明石町』は、今なお描きたてのような瑞々しさを放っています。

細部に隠された筆の凄み、凄まじい技術…実は想像を絶するほど手間ひまをかけているのです。

美人画の最高峰と呼ばれたこの作品は、失われてゆく明治時代への郷愁によって描かれました。

そこに清方のどんな想いがあったのか。
謎をひも解くのは、女優・酒井美紀さん。

作品に会いに行くだけでなく、絵の中の女性に変身。

そこで気づいた不思議な着こなしにも迫ります。

美の巨人たち 鏑木清方「築地明石町」ほか

放送:2019年11月30日

 

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44年もの間所在不明だった幻の傑作が今展示されようとしています。

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昨年発見され購入した金額は三幅揃いで5億4,000万円。

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初めてその絵を見た時主任研究員の鶴見さんは驚きました。

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「とても綺麗です。昨日一昨日とかそんな最近に書いたように見えるほど作品の状態がとても良かったんですね。そのことにまずは驚きました」

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タイトルは築地明石町。

朝もやの中女性が一人佇んでいる。

ただそれだけ。

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憂いを帯びた眼差しで。

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透き通るような肌。

線の緻密さ繊細さ。

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痺れるような美しさです。

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昭和2年にこの絵を描いたのは、当代一の美人画の名手とうたわれた鏑木清方

絵の前に佇んでみれば。

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「非常に女性の色気を醸し出してる。すごく清らかな女性」

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本日は女優の酒井美紀さんが鏑木清方幻の傑作の美に迫ります。

何故これほどまでに美しいのか。

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そこには凄まじいまでの超絶技巧が隠されていたのです。

研ぎ澄まされた究極の筆使いとは。

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今日の作品。鏑木清方作《築地明石町》

明治11年生まれの鏑木清方が幼少期を過ごしたのは銀座の東。

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今は埋め立てられてしまった築地川のあたり。

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この土地に寄せる画家の思いは。

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「築地側の周辺に私は人となったので、従ってこの水域に寄せる愛着は並々ならぬものがある」

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清方は少年の頃の思い出を辿り、この界隈の情景をいくつも描いています。

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築地の前にある明石町は外国人の居留地でした。

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カトリック教会や各国の公使館。

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ホテルが立ち並ぶ町並みは清方が初めて触れた異国の情緒。

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「涼しい潮風が吹くところ、紅毛碧眼の子女がいつも快活に遊んでいた」

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少年の頃の淡い郷愁があの傑作を生んだのです。

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東京竹橋。国立近代美術館です。

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今日の作品。鏑木清方作《築地明石町》縦173.5センチ。横74センチ。

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絹本彩色の掛け軸です。深く美しい黒です。

その羽織に包まれた楚々とした立ち姿。

「透き通るような美人の方です。何だろう」

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背景に描かれた隅田川に浮かぶ帆船のマスト。

朝もやに霞んでいるようです。

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女性は少し肌寒いのか、手を合わせています。

袖からのぞく白い指には金の結婚指輪。

誰かに呼び止められたの見返るような姿で佇んでいます。憂いと翳りを帯びた眼差しを向けて。

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「髪型も結ってある」

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遠目には無地に見える着物の柄は微細な文様が描かれた江戸小紋です。

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ペンキ塗りの柵に絡んで咲いているのは朝顔

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葉は枯れ始め、蕾がぽつんと路上に落ちる秋の気配。

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内側に向いた女性の足。

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素足の親指にキュッと力が入っています。

「誰見ているのでしょう」

100年近く前に描かれた絵なのになぜ今も輝きを放っているのか。

この絵には美しいだけではない秘密が隠されているのです。

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鎌倉の小町通りの賑わいを外れた路地に鏑木清方の美術館があります。

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30回ほど転居を重ねた清方が終の棲家とした邸宅。

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ここに築地明石町の下絵が残されていました。

清方の1日には決まりがありました。

起床は朝7時から8時の間。

着物に着替えると枕元に畳んでおいた前垂れを昔の職人や商人のように締めるのです。

朝食を済ませると画室に入ります。

代表作の一つ《朝涼》清方の絵は実に丁寧に、端正に仕上げられています。

繊細で優美な線。ふわりと浮かび上がるやわらかな情感。

昭和2年。脂の乗り切っていた清方は帝展の出品作の制作に臨んでいました。

それが今日の作品《築地明石町》

下絵は洗練の極みを尽くした簡略な線で描かれ、ほぼ全体の構想が固められていました。

ではどう描いたらこの美人画になるのか。

清方の腕の凄みは細部に隠されています。

その一つが白い肌の描きかた。

東京芸術大学の向井大祐さんに絵の一部を再現していただきました。

まずは輪郭。下絵に絹をかぶせ上からなぞります。

細く均一に。毛先ほどの微細な線で描かれた輪郭です。

続いて肌。使う顔料はこちら。

「基本的には胡粉という白い絵の具に対して黄土と朱の混色なんですけど」

ベースとなる胡粉に起こして朱色。

白い胡粉に黄土を混ぜて、さらにほんの少量の朱を加えます。

肉色と呼ばれる肌の色です。

このわずかな色合いが生きた肌を生み出すのです。

薄く透明感を保つように塗っていきます。微妙な違いわかりますか。

「他の作品と比べても手数が多い。多いってのは厚くなくて薄い彩色を何度も何度も重ねて丁寧に仕上げている。薄く塗り重ねるって事が非常に大事と言いますか」

一度では終わりません。

何度も何度も塗り重ねます。

ひたすら薄く。

ひたすら丁寧に。

色を重ねるごとに生きた肌に。

清方は想像を絶する手間暇をかけているのです。

築地明石町には明治の女性の風俗をあらわす凝縮されています。

着物に。羽織に。そして髪型にも。

「この人物の中に、時代をすべて入れたいっていうその思いが素敵だなと思います」

酒井美紀さんは創業6年という老舗の呉服店へ。

やってみたいことがあったからです。

まずは着付けですが。

酒井さん何やら疑問があるようです。

「着物の着方が。襦袢を着ないんですね」

築地明石町の女性は着物の下に襦袢をつけていないのです。

素あわせと呼ばれる明治に流行した着こなし。

「今だと考えられない着方」

羽織るのは今では珍しい長羽織。

「羽織の丈も流行があって、築地明石町の時代は長めが流行った」

着付けは完了です。

描かれているのはどこか心をざわつかせる謎めいた女性です。

彼女は何者なのか。

実はこの方。美人です。

今日の作品《築地明石町》と同時に発見されたのが両脇の美人画です。

新富町》は雨に降られた江戸前の芸者の姿。

《浜町河岸》は踊りの稽古帰りの町娘が描かれています。

ところが彼女達と築地明石町の女性とでは一点だけ描き方に違いがあるのです。

「三幅並べてみた時に築地明石町だけが何やらこう人間を臭いような顔立ちになっている」

その秘密は目元に。

二人の女性はすっきりと描かれていますが、築地明石町の女性には薄い線が引かれています。

涙堂いわゆる涙袋を表した線です。

なぜなのか。

「三部作の中では築地明石町だけモデルをスケッチして描いているというのがひとつの大きな特徴になっているわけです」

モデルはいたのです。

明治のころ現在の銀座八丁目辺りに江木写真館という東京一の写真館がありました。

その家の御曹司の妻は評判の美女として知られていました。

名を江木ませ子といいます。

「その人との清方の出会いというのは結構前に遡りまして、清方の奥さんになる人が照夫人という方なんですけれども、その照さんが学生の頃にクラスメイトだったという風なお話がありまして、照さんを街中で見かけた時に、お隣で美しく立っていた女性がませ子さんだったという風なストーリーが清方の書いた随筆の中でも語られています」

異国情緒の街を描くとき、モデルに浮かんだのがこの忘れがたき女性だったのです。

この時江木ませ子は41才。

女学校時代の若さや華やぎははるか昔に遠のき、その顔に滲むのは歳月を重ねた美しさ。

憂いと陰りそして清方は目元にすっと線を入れたのです。

酒井さんは絵と同じ髪型にしようと。

「これは清方さんがイギリス巻きとおっしゃっていたもの」

髪型はイギリス巻きという明治の中頃から流行したもの。

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