去年、台風19号で多くの美術品が被災した。
収蔵庫が浸水した川崎市市民ミュージアム、文化財の救出に当たる長野市立博物館を取材。
文化財レスキューの最前線を見つめる。
台風19号など未曽有の水害で、去年、各地で文化財が被災した。
川崎市市民ミュージアムでは、地下収蔵庫が浸水し多くの美術品に被害が出た。
また、千曲川が氾濫した長野県では、地域の文化財の救出に長野市立博物館が当たっている。
水に浸かった美術品を搬出しカビの繁殖を防ぐ応急処置。
そのノウハウは東日本大震災での経験が生かされている。
専門家のネットワーク作りや、長期にわたる修復など文化財レスキューの最前線に迫る。
【出演】文化財保護支援機構理事長…三輪嘉六,【出演】村上博哉,【司会】小野正嗣,柴田祐規子
日曜美術館「被災した美術品を救え!~文化財レスキュー最前線~」
放送日
2020年1月26日
プロローグ
激しく炎をあげているのが首里城です。
去年日本各地で災害によって文化財が危機にさらされました。
台風19号で長野県では千曲川が氾濫し甚大な被害をもたらしました。
被災した寺では多くのボランティアが入り生活の再建が進められています。
「まさかというその一言に尽きるというとこなんですけども、全く想像もしてなかったことです」
泥水をかぶった掛け軸や古文書などを懸命に運び出している人たちがいました。
地域の文化財をなんとか救い出そうとする地元の博物館の学芸員たちです。
「これが今回最大の発見かもしれない」
「全然知られていないものですが古文書にしてもお軸にしても、こんなものってのがありますよね。すごく貴重なものがかなりありましたね」
一方で未曾有の浸水被害を出した美術館があります。
大量の雨水が地下から浸水し収蔵品およそ23万点が被災した川崎市市民ミュージアムです。
棚から崩れ落ち水に濡れた美術品。
膨張した漫画本によって歪んだ棚。
日本各地から学芸員や修復家が集まり、レスキューを続けています。
「現場に入ってきますと、まずカビの臭いが鼻をつきます。カビが進行するのを止めたいと、これ以上劣化をしないという状態で安定した状態にしているということが、目指してるところです」
文化財のレスキューが本格的に始まったのは東日本大震災の時でした。
被災した美術品の応急処置のため、全国から専門家が集まりました。
震災からおよそ9年。今も修復が続けられています。
「被災文化財は10年たってもまだ半分以上残っている。作品を元に戻す、活用するまではかなりの時間とお金とかかるのはもう仕方ないことなんですよね」
災害が頻発する今、美術品をどのように守るのか。
文化財レスキューの最前線を取材しました。
スタジオ
去年は台風19号の水害や、首里城の火災など多くの文化財が災害の被害を受けました。今日は文化財を災害からどうやったら守っていけるのかをテーマに考えて行こうと思っています。
文化財美術品。僕たちはそれがそこにあってそれを鑑賞することを当たり前だと思ってますけども、文化財がそこにあるって事自体が当たり前のことではないんだってこと。失うとわかります。
今日はまず台風19号で23万点もの文化財が被害を受けた川崎市市民ミュージアムここで現在どんなレスキューが行われているのか見て行きます。
川崎市市民ミュージアム
去年10月。日本各地を襲った台風19号。
多くの河川が氾濫して未曾有の被害を生み出しました。
大量の雨水が地下から浸水した川崎市市民ミュージアム。
地下収蔵庫に保管されていた美術品の大半が水に浸かってしまいました。
川崎市が出しているハザードマップでは以前から洪水による浸水の危険性が指摘されていましたした。
被災した美術品はおよそ23万点。
かつてない大きな被害でした。美術館は現在閉館中。
立ち入りは禁じられています。
全国の文化財を保護するネットワークの責任者です。
収蔵庫に入れたのは4日後でした。
「残念ながら開けた結果、全ての収蔵庫に水が入っていた。もう中にカビがついていてという状態でした。たくさんの作品が被災しているんだけれども、どうしたらいいんだろうっていうところがなかなか見え出せないというところがありました」
激しい水の圧力で壊された扉。
収蔵品の9割以上が水に浸かっていました。
庫内の湿度は100パーセント。カビの発生が大きな問題でした。
「現場に入ってきますとまずそのカビの匂いが鼻をつきます。これも普通に嗅いだことないような臭いがするわけですが、一般の家庭の環境の中に比べて何千倍も多いという状況でカビの菌が飛び交うという風になります。そうしますと現場での作業は1時間も続けることは難しいということになりますので、防護服を着、ゴーグルをつけて気密性の高いマスクをするという形をとって、健康管理も行なっているということです」
美術品の多くが棚から崩れ落ち水に濡れてカビの繁殖の恐れがありました。
優先的に救出されたのが、近代日本画を代表する安田靫彦の作品およそ600点です。
「安田靫彦の作品は一番奥の収蔵庫に入っていましたが、幸いにして有名な草薙の剣という作品がありますけれども、これは桐の箱に入って、その外側に漆塗りの箱に入っているという状態でした。二重箱にしていたということがあって、カビは付いていますけれども比較的綺麗な状態で出てきたと言えると思います」
搬出した美術品はこれ以上カビが生えないように仮説コンテナに保管されました。
「カビというのは湿度が70%を切っていればそれは抑えられるということですので、湿度の状態を保つということを目指して設備を作っているということです」
美術品の他に漫画や映画フィルムなどは9つの収蔵庫に収められていました。
およそ6万3000のマンガ本は水で膨張。
棚が動かず壊して搬出しました。
映画フィルムの収蔵庫は棚の下まで水が入っていました。
「映画フィルムは水につかってしまうとフィルム事態が使い物にならなくなりますので、外部の専門家が心配してすぐに救出活動を行いましょうと」
各地からそれぞれの分野の専門家がレスキューに参加。
それができたのは東日本大震災の経験があったからだと言います。
「東日本代震災時、あれだけの災害が現実に起きたことを実感として持った人たちが今回の救援委員会がすぐに立ち上がるような連携体制を作っておきましょうと言うことが、私たちの活動を行うことになった」
2011年3月。東日本大震災の大津波が甚大な被害をもたらした宮城県石巻市。
河口近くにあった石巻文化センターは多くの文化財が被害を受けました。
「まさか津波とは考えていなかった。一階の建物の天井までいきました。カビの心配には気をもみました」
文化財を一刻も早く外に運び出し、応急措置をする必要がありました。
まずレスキューの最初の課題は濡れて汚れた大量の美術品をどこに運べばいいのか、受け入れ場所の確保でした。
受け入れてくれたのは仙台の宮城県美術館でした。
美術館事態も被災していましたが、比較的被害が少なかったこともあり、駐車場や倉庫を応急処置の場所に提供してくれました。
「泥とかカビとかを一度綺麗にしてからでないと中に入れられないので、この場所で一回まずは応急処置をした」
搬出された文化財の応急処置は汚れの洗浄から始まります。
全国美術館会議のメンバーとして洗浄などの作業に取り組んだ修復家の伊藤由美さんです。
「海のそばでしたから海水と同時に砂、パルプ、汚水、ゴミ、すべて絡めたようなものが付着した。完全に乾ききってしまうと固着してしまうので、現場でできる限りまだ湿っている内に取るという応急処置をしています。汚れを少なくすればカビの繁殖も少なくて済む」
洗浄が終わると古文書などはカビが生えないように冷凍保存します。
美術品は感想やカビの菌を除去するくん蒸などの応急処置を施します。
これ以上作品が劣化しないようにするこうした安定化の作業が大事でした。
「応急処置にも専門の知識がいります。専門家に来ていただきました。ただ人数が限られているので全国の学芸員が修復家の指導を受けながらサポートできる体勢を作りました」
こうして東日本大震災で作られたネットワークが川崎市のレスキューに生かされたのです。
石巻市では震災から10年目となる2021年、石巻文化センターに変わる石巻複合文化施設がオープンする予定で建設が進められています。
その設計には津波被害の経験が生かされました。
「海から遠いところです。1メーター50かさ上げして建物が建っています。
以前の文化センターは収蔵庫が1階部分にあって津波にやられましたが、今回の建物は収蔵庫が2階です。
何が起きても対処できるため日頃から心づもりしておかなければならないと思っています」
スタジオ
今回の動きを同ご覧になられました
「カビの進行が思ったより早く、修復の妨げになりました」
「文化財の被害の多くはカビと虫。つまり生物被害によるものです。今回は水害の中で乾く課程でカビてくる。しかも収蔵庫という密閉空間でしたので被災後数日でカビた」
経験したことのないって同時に未曾有の大災害ということだと思います。この動き出しが今回は非常にその後だったという風に向かっていますけれども。
地域のお寺や個人の所有する文化財をどうやって災害から守るのか長野市のケースを見ていきます
長野市
多くの家が浸水し、倒壊した家もありました。
2ヶ月がたった去年12月。ボランティアによる復旧作業が続いていました。
長野市立博物館の学芸員たちが、被災した地域の文化財をすくい出そうと現地に向かっていました。
戦国時代に創建された古刹・正覚寺。
今回の水害で本堂の中まで水に浸かりました。
「まさかというその一言に尽きるというとこなんですけども、本堂自体が基礎が地面よりも1メートル高くなってますので、水が来るとは全く想像もしてなかったことです」
掛け軸や日本画など寺が代々守り、伝えてきた貴重な文化財が被災しました。
「これが不思議なものでマリア観音みたいな」
こうしたすべての文化財は長野市立博物館が預かり、応急処置や修復をしたのちに地域に返すことにしています。
その中心で文化財レスキューを担っているのは長野市立博物館の学芸員・原田和彦さんです。
顔見知りの住職から、被災した掛け軸や古文書があると聞き、辞せ元の大切な文化財が失われることがないように活動を始めました。
「長野市にとって重要なものを見てますんで、どういう価値かを皆さんにお伝えしてくるような仕事ってのは義務かなと思ってます」
次に原田さんが向かったのは、一階がほぼ水に浸かった旧家です。
要請があれば個人の家に伝わる歴史資料や美術品も集めて回ります。
応急処置の作業は今回台風の被害を直接受けなかった長野市立博物館で行われています。
ぬれてくっちいてしまった古文書などの資料は一枚ずつ慎重にはがし、水分を取り俗作業が続けられてます。
「かなりのものが濡れていてびっくりした」
原田さんを支えたのが阪神淡路大震災で歴史資料の保全活動を始めた歴史資料ネットワークでした。
今回の長野市立博物館のレスキュー活動もその支援によって始まりました。
長野にもネットワークを作り物資や人の支援をしてもらっています。
近隣の寺から予想を超えて集まった多くの掛け軸や絵画・仏像など。今後それぞれ専門家の意見を聞き、修復の方針を決めることになります。
300を超える掛け軸は仏教美術の専門家たちの手によって損傷具合や美術品としての価値などについて記録が行われていました。
新たに発見された歴史的に貴重な作品です。
取材先など
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