チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

日曜美術館「ゴッホ 草木への祈り」

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炎の画家ゴッホには、原色や激しい筆致とはちがうもう一つの顔があった。

それは、花や草木をひたすら描くこと。

地面に顔を埋めるように描く一本の草木に込めた祈りとは?

「糸杉 ゴッホ」の画像検索結果

ゴッホが描いた膨大な草木や花。

たった一本の草木にゴッホは何を見たのか?

知られざるゴッホの真実に迫る。

現在来日中の「糸杉」。

まっすぐ天に向かって伸びる姿にゴッホは何を見たのか?

西洋では死の象徴とされる糸杉、しかしゴッホは生命の証として描いた。

なぜか?

何枚もの糸杉の絵の変遷から見えてきたゴッホの心の内側。

浮かび上がる炎の画家の知られざる「祈り」とは?

悲劇の裏に隠された自然に神への祈りを託した真実。

【ゲスト】美術史家…木下長宏,小野正嗣,柴田祐規子

 

日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展(日経トレンディ2020年1月号増刊)
 

 

芸術新潮 2019年 12 月号 特別付録:芸新手帳2020

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  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/25
  • メディア: 雑誌
 

日曜美術館ゴッホ 草木への祈り」

放送日

2020年2月23日

鮮烈なまでの原色。渦巻く曲線。

分厚く盛り上がった油絵具。

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描いたのは炎の画家フィンセント・ファン・ゴッホ

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今、兵庫県立美術館で回顧展が開かれています。

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初期の代表作《ジャガイモを食べる人々》

牧師の息子だったゴッホが貧しい農民の労働にこそ尊いものがあると信じて描いた一枚です。

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そして晩年に描き続けた糸杉。

大地に根を張り、力強くうねり、天へと立ち上る姿です。

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「人間より大きなものを尊敬するという、畏怖を感じる心に近いんじゃないかなと思いますけれど」

わずか10年の画業。

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初期と晩年二つの作品の間でゴッホは何を見たのか。

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残された手紙から炎の画家ゴッホの知られざる真実を紐解いていきます。

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スタジオ

今日のテーマは炎の画家ゴッホです。

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ゴッホの画業は10年ほど。初期の作品から見ていきます。

初期の作品

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1885年。32歳のゴッホが初めて描いた油絵の大作です。

ランプのわずかな灯りの下で食卓を囲む農民。

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太く荒々しい線が生活の苦しさを伝えます。茹でただけのじゃがいも。

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そこに伸びる手はゴツゴツと節くれだつ労働の厳しさを物語ります。

ゴッホはこの絵に何を託したのでしょうか。

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1853年、ゴッホはオランダ南部の小さな村に代々続く牧師の家に生まれました。

幼い頃から聖書を読み聞され信仰心を育みます。

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牧師を目指しますが、頑固な性格が災いし周りと衝突を繰り返しました。

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25歳の時、ベルギーにある炭鉱の町に移り住み、伝道師の見習いとして働き始めます。

そこは採掘量が少ない貧しい地域でした。

 

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重い袋を担いで日々の糧を稼ぐ女達。

この貧しい人たちを救いたい。

ゴッホは自分の服や金を全て分け与えるほど献身的に働きます。

しかしその行為が常軌を逸していると解雇されてしまいます。

夢だった牧師への道は完全に絶たれました。

失意の中、ゴッホが決意したのは画家になることでした。

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絵は今独学で学び始めます。

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決して上手くはありませんが、実直にモデルの姿を捉えようとしています。

そんなゴッホが最も敬愛したのが農民画家・ミレーでした。

弟のテオに手紙で綴っています。

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「僕は作品の中に自分の思想を取り入れるように努めるのは画家の義務だと考えている。ミレーが信じていたような高みにあるもの。つまり神と永続性の存在を示す最も有力なしるしというのは言葉にできないような哀れの表現にある」

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農民の中にこそ尊いものがあるはずだ。

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自分もミレーのように高貴なものを描きたい。

ゴッホは何度もミレーの絵を模写し習作に取り組みます。

 

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その1枚。ゴッホが最もこだわったのは日々の労働で酷使された手でした。

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様々な角度から執拗にデッサンを繰り返します。

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そうした鍛錬が5年に及びました。そして出来上がったのが最初の油絵。

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《ジャガイモを食べる人々》でした。

完成してすぐにテオへ送った手紙からはゴッホの高まる気持ちが読み取れます。

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「小さなランプの光でじゃがいもを食べているこの家族がさらに手を伸ばしているその手で自分たちの土地を耕したということ。つまり、それ手の労働であり、彼らがいかに自らの食料を誠実に得たのかということを僕はどうしても示したかった」

大きな自信を得たゴッホ

 

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自ら版画を作り家族や友人に送り届けます。

しかし画家仲間からは、物事をなぜうわべだけで捉えるのか、どうして動きを勉強しない、彼らはまるでポーズをとっていると厳しく批判されてしまいます。

ゴッホは反論します。

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「農民たちを描くということは極めて弱い人間には取り掛かろうとすら思えないような種類の仕事なんだ。僕は少なくともそれに挑戦したし、ある種の基礎も築いた。君が考えているよりずっと確かな有益なものを掴んだ。でも僕は自分にできないことをし続けるよ。それができるようになるために」

ゴッホにとって絵描きになるとはどういうことだったのか。

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ゴッホ研究の第一任者である圀府寺司さんに話を聞きました。

「神の言葉を種まく人になりたいという言葉を残してます。それは聖職者であろうが伝道者であろうが画家になっても基本的にはそれほど変わってはいないんですね。ただその教会を介さなくても神の言葉っていうか高い倫理みたいなもの人と伝えるという事は、画家になってもしようと思ってた」

神の言葉を種まく人になりたい。ゴッホは画家として新たな道を歩み始めます。

 

スタジオ


フランスの暮らし

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1886年ゴッホは弟テオを頼りに芸術の都パリへやってきます。

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ゴッホ印象派の画家たちと交流を結び、オランダ時代とは一転して鮮やかな色彩表現を獲得します。

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そしてパリで2年を過ごした後、太陽の光を求めて南フランスアルルを目指します。

ここでゴッホの代表作が次々と生み出されます。

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《アルルのはね橋》

洗濯女たちの作る水面の波紋と橋を渡る馬車の動きが響き合い、春の陽光に満ちたみずみずしい川辺の風景が描き出されています。

 

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そしてあの《ひまわり》もこの場所で誕生しました。

花だけでなく、背景の壁までも全て黄色のバリエーションだけで描くことに挑戦しています。

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数々の小さな花弁まで厚塗りされ、毛羽立つような筆使いで力強く表現しています。

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しかしゴッホは苦悩を抱えていました。

絵は1枚も売れず認められない日々。

弟の仕送りに頼るしかありませんでした。

「僕は人生においても海外においても神など無くてもやっていけるが、でもとても苦しんでいて何か僕以上に偉大なもの。僕の生命力であり想像力となるものがないとどうしてもやっていけない」

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そんな時かつて見た日本の芸術を紹介する雑誌を思い出します。

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その中の一枚にゴッホは心を奪われます。

それは誰が書いたかも分からない草の絵でした。

「日本美術を研究すると明らかに賢く哲学的で知的な人物に出会う。その人は何をして時を過ごしているのだろうか。地球と月の距離を研究しているのか。違う。ビスマルクの政策を研究しているのか。いや違う。その人はただ一本の草の根を研究しているのだ。どうかねまるで自分自身が花であるかのように自然の中に生きる。こんなに単純な日本人が教えてくれるものこそ、まずは真の宗教ではないだろうか」

 

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ゴッホは草の根一つに宗教を見つけたのです。

そしてこの絵を部屋の壁に貼り、飽きることなく眺め続けていたと言います。

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そしてゴッホ自身も描き始めます。黄色い花と地面を覆う様々な草。

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こちらは蝶が草むらの中を飛んでいます。

ゴッホは何枚も描き続けました。

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その中の一枚が神奈川県箱根の美術館に収蔵されています。

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現れたのは緑の画面。

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花も蝶も何もない。ただ草むらだけが描かれています。

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「おそらくイーゼルを立ててというよりは、もしかしたら地面に座って、近い視点で自分の隣にと言いますか、近くにある目に入った草を描いてるのではないかと思います。非常に勢いのある筆使いで描かれています。ほとんど下書きはなくておそらくをキャンバスに直に勢いのある筆使いで草の一本一本帰ってきたんだと思います」

 

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よく見ると草の一本一本が細かく塗り分けられていて、それが何本も重なることでムッとするほどの濃密な草いきれを感じさせるのです。

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作品の裏には普段はめったに書かないゴッホのサインが記されていました。

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ゴッホにとってそれだけこの草むらは大事な作品だったのです。

実はこの時、ゴッホは病気を発症し錯乱状態にありました。

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自らの耳を切り落とすという事件まで起こしていました。

そうした中でこの草むらに没頭していたのです。

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ゴッホは自ら南フランスにあるサンレミドプロヴァンスの病院に入院します。

そして病室で新たなモチーフを発見するのです。

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それが窓から見た糸杉一でした。

ゴッホは糸杉を描かずにはいられませんでした。

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地面から天に向かってうねる様は画面をはみ出してどこまでも伸びていくようです。

根元に生い茂る下草は黄色や黄緑色で描かれ、糸杉を支えるようにうごめいています。

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葉を近くで見てみると一つ一つがうねっていることがわかります。

そのうねりがひとかたまりとなり、さらに大きくなって一本の糸杉となるのです。

草むらで学んだ対象にできるだけ近づき観察すること。

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そこから生まれる激しい筆使いがそれを可能にしていました。

実は糸杉は南仏では墓場などに植えられ、死を意味すると言われます。

ゴッホは死を意識していたのでしょうか。

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「糸杉のことが始終頭から離れないない。なんとかひまわりの絵のようなものに仕上げたいと思っている。驚くべきことだがこれまでこれらの木を僕の目に写っているような感じに描いた人がいないのだ。これらの木はプロポーションが美しく、まるでエジプトのオベリスクのようだ」

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ゴッホ古代エジプトで太陽神の象徴だったオベリスクを糸杉と重ね合わせていたのです。

ゴッホを長年研究してきた木下長宏さんは糸杉が死の象徴ではなく、祈りを捧げる信仰の対象そのものではないかと言います。

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取材先など

 

放送記録

av98ingram.wpblog.jp

 

書籍

 

芸術新潮 2020年 01月号 東京のミュージアム100

芸術新潮 2020年 01月号 東京のミュージアム100

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: 雑誌
 

 

展覧会

 

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