チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

新美の巨人たち いわさきちひろ『あめのひのおるすばん』

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柔らかな線、滲んだ淡い色彩で子どもたちを描く絵本画家いわさきちひろが、初めて絵と文を手掛けた『あめのひのおるすばん』。

なぜこの作品が“絵本の世界を大きく変えた”と言われるのか?

かつてちひろの身に起きた、ある残酷な出来事とは?

さらに“ちひろタッチ”と呼ばれる独特な世界をちひろの孫で絵本作家の松本春野さんが再現!

その驚きの技法とは?

旅人・奥貫薫さんは「安曇野ちひろ美術館」へ!

絵本の原画と対峙します。

 

日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展(日経トレンディ2020年1月号増刊)
 

美の巨人たち いわさきちひろ『あめのひのおるすばん』

放送:2020年5月9日

 

ずっといい子でした。

世の中のことを何も知らないままに。

不思議な人でした。

歳月を重ねても素直も心も少女のままで。

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描いたものは柔らかな線。

滲んだ淡い色彩。

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子ども達。

その混じり気のない透明感。

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絵本画家いわさきちひろ

20歳の結婚と衝撃の結末。

31歳での再婚、出産、子育て。

その生涯は波乱に満ちたものでした。

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今日の作品は「あめのひのおるすばん」。

絵本の世界を変えた永遠の傑作です。

「お母さんどこまで行ったか見てきて。誰もいないお部屋なの。すぐって言ったのにまだかしら」

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本日は奥貫薫さんがいわさきちひろが紡いだ子供の世界を旅します。

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春の安曇野です。

いわさきちひろが生前愛していた信州の大自然の中に彼女の美術館が建てられています。

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安曇野ちひろ美術館

女優の奥貫薫さんは子どもの頃からちひろの絵本が大好きだそうで。

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「父が私に買ってくれたものだったと思うんですけど。画集もあったし、詩集のようなものもあったしだからなんだかちょっと懐かしい気持ちです」

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この美術館にはいわさきちひろの絵本や原画、世界中の絵本作家たちの作品が収められています。

特別に見せてもらいました。

「印刷されてるものとはやっぱり少し色合いが違ってすごく綺麗」

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絵本「あめのひのおるすばん」その原画です。

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画用紙に水彩絵の具で描かれています。

ちひろタッチと呼ばれる滲むような淡い色彩。

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「不思議ですよね。言葉がないのに状況とか、この女の子の心境がすごく伝わってくる絵だなあと思います」

「あめのひのおるすばん」がいわさきちひろの絵と文を手がけた最初の絵本です。

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雨の日に女の子が一人で留守番するというシンプルなお話。

「お母さんどこまで行ったか見てきて」

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すると緑色の風船がふわふわと飛んでいく。

お母さんはすぐに帰ってくると出かけたのに、なかなか帰ってこないのです。

滲んだ色彩と余白。添えられた短い言葉。

画面から伝わる不安。心細さ。

「この小さな子どもにとっては多分一人で留守番している家ってすっごく広く感じたんだと思うんですよね。いつも過ごしてる部屋なのに。そういうこともこういうバランスで表現されてるのかなって思います」

突然電話が鳴りました。

驚いたのは猫。

「ビリンビリリン。隠れてもダメ聞こえちゃう」

さあどうしましょう。それは後ほど。

ではこの独特のちひろの画風はどうやって生み出されたのでしょう。

 

いわさきちひろの孫で絵本作家の松本春野さんに技法を再現していただきました。

例えばこの絵には、紙の白色を塗り残す白抜きという技法と、色を塗った上に別の色を

滲ませるたらしこみという技法が使われています。

までは白抜きから。

鉛筆で輪郭を描いていきます。

その輪郭線の外側を水で濡らします。

そこに絵の具を置いていくと、水の表面張力により色は輪郭線でせき止められるのです。

さらに別の色をたらしこみ

水でぼかして画面に表情を付けていきます。

子どものシルエットが浮かび上がりました。

その中に目や鼻を描き込んでいけば。

可愛い女の子。

「特に顔の周辺なんかはすごく微妙な濃淡をとても上手に使っていて、それを再現しようとするとどうしても強い色を乗せ過ぎてしまったりするんですけども。そのとたんやっぱり表情とかが破綻してしまっているところもあって、水の魔術師」

ちひろは魔法のように水と絵の具を操り、透き通るような子供の世界を作り上げたのです。

生涯子供を描いた人です。

では彼女自身どんな子供だったのでしょう。

 

 

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昭和天皇即位の式典に出席した両親の記念に写真館で撮影された家族の肖像。

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父は陸軍省築城本部の建築技師。

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母は女学校の教師。

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長女のちひろ大正7年に生まれています。

立派な職業を持つ両親の子でしたから

ちひろはいつもいい子でいなければなりません。

幼い頃から絵が得意だったので、母親は14歳の時に洋画の大家、岡田三郎助の画塾に通わせてくれました。

女流画家の展覧会で入賞したこともありましたが、両親が画家にしようと考えたことはありません。

跡継ぎとしてお婿さんをもらい、良妻賢母の女性になることが両親の希望でした。

そして二十歳の時に親の決めた相手と結婚したのです。

ちひろは一流企業に夫と共に赴任先の満州大蓮で新婚生活を始めました。

ところがちひろの体が受け付けないのです。

そばに寄られるだけで鳥肌が立ってしまう。

煩悶と苦悩の果ての悲劇。

夫は自ら命を絶ったのです。

ちひろの一人息子の松本剛さんはこの出来事について。

「はじめて人間としてどう生きたらいいのか。自分の今までの生き方を何だったのかっていうことを自分に問い直したんだろうと思います。その意味で言うとあそこでの夫の自殺ということを経験したということが、いわさきちひろが人間の命とは何なんだろうかってことを考える最初のきっかけだった気がします」

昭和20年東京大空襲

下町一帯が焼け、5月にはちひろが暮らしていた中野の家にも焼夷弾が落とされました。

「真横に流れる一面の火の海の中を、家族バラバラになった私は川のあるほうの空き地へ逃げて水をかぶっていました」

街も人も焼けていく。

どうしてこんなことになってしまったのか。

母の実家のあった松本に疎開したちひろ終戦の翌年家を出ました。

東京で一人暮らすことを決めたのです。

国に従い親に従い、自分で考えることをしなかった今までの自分と決別したのです。

生き方を反転させるように画家を目指しました。

片時もスケッチブックを手放すことなく。

納得のいく力強い線を追求していく日々。

三十歳の時。千尋はある男性と出会います。

東京大学を卒業したばかりの松本善明という7歳年下の若者でした。

彼の言葉に心をつかまれたのです。

「僕は一生お金のたくさん入るような仕事にはつかないつもりなんです」

初めて愛した男性でした。

「その日、焼け残った神田のブリキ屋さんの2階の私の部屋は花でいっぱいでした。私は千円の大金を全部花にしてしまったのです。今日は私の結婚式の日なのです。あとはぶどう酒一本と綺麗なワイングラス二つ。これが四面楚歌の中での二人だけの結婚式でした」

ちひろと夫の善明が交わした誓いの言葉です。

「めちゃすごいなと思ったのは芸術家としての妻の立場を尊重する事ってあるじゃないですか。この時代に女性が社会的な立場を持つことってのも難しかったと思うんですよね。でもそれを大事にされてた二人っていうのは新しいパートナーシップと言うか、新しいあり方だったんじゃないかなってすごく思います」

結婚の翌年、ちひろは男の子を授かります。

そして絵のタッチも微かに変わっていくのです。

 

赤ちゃんのスケッチです。

幼児は月単位で変化していきます。

最初は頭は大きく顔は丸みを帯び、成長に従い手足が長くなり、骨格ができていきます。

仕草も変わり、手は物をしっかりとつかめるようになり、好奇心が旺盛になり、表情も豊かになっていきます。

ちひろが筆一本で家族の暮らしを支えていました。

雑誌の挿絵から醤油メーカーの広告や紙芝居の制作など、あらゆる仕事を引き受けていきます。

そしてちひろの描く子どもの絵が多くの人々の心をとらえていきました。

それまでの子ども像と全く違う魅力を持っていたからです。

「元気でニコニコしてる子がいい子に思うけれど、子どもの内面って実は悲しみをたくさん持ってたりとか、苦しいこともあったりとか、がまんしていることがあったりとかがあるわけですよね。晩年の作品なんかは特にそうですけれども、子どもの内面、心理というものを描いたという意味でやっぱり新しいっていうか。いわさきちひろの独自の表現があったんだと思います」

1968年。「あめのひのおるすばん」が誕生しました。

この絵本には波乱の生涯を生きたいわさきちひろという画家の思いの全てが込められていました。

柔らかな色彩と淡いタッチの中に奇跡の眼差し。

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今日の作品「雨の日のおるすばん」

この傑作はどうやって生まれたのでしょうか。

ちひろの描く子供達に早くから着目していた人がいます。

ちひろの表紙を描いていた児童雑誌の編集者武市やそうです。

武市はこれまでにない全く新しい絵本作りをちひろに提案しました。

新しい絵本の世界を切り開くに考えてそれは物語をつけるんじゃなくて、本でなければ表現できないような一冊の作品を作りたいというのはこの本の出発点だったんですね」

雨の日にお留守番する少女というテーマを描く。

市と決めたちひろは浮かんだイメージをどんどん絵にして行きました。

絵本の原画は17枚ですが、秀作はその倍以上41枚もあります。

例えば緑が印象的なこの場面も初めはこんな絵でした。

よくできてる嫌なんだけれども一日女の子の足にくるなんか虫に刺された箇所の研磨

息も合ってるとか説明的なりすぎてここんところは女の子の気持ちだけじゃあここに写った部分だけを液晶そうやってこのグリーンの世界からできるんですよね」

さらに電話が鳴ってカーテンに隠れる女の子の名場面。

青いカーテンの色は塗っては水で洗い流しまた色を塗るという作業を何度も繰り返しています。

どうして生まれたこの複雑な色合いは

電話を取ろうかどうか迷う女の子の気持ちそのものです。

過去体の形もそうそうそう出て行きたいようないけないようなっていうそういうふうにみると不思議なんだか

カーテンの中

向こうの様子も

なんか透けて見えてくるような感じでは

絵本の世界へ雨の日のおるすばんお母さん

どこまで行ったか見てきて

誰もいないお部屋なの

すぐって言ったのに

まだかしられみふぁそらしどドシラソファミレド

雨だれの歌ってるそうだ指舐め

ちゃいけないって

お花が濡れてなんだかしちじ

なんだかビリリビリリ隠れてもダメ聞こえちゃう

子供のお魚お母さんのお魚

今の電話お母さん頭だんだん暗くなってきたお母さん

早く私のお願いを窓に書いたお母さんあのね

あのね電話待ってよ

もう一度お留守番だってできた

んですもの小さな自信が芽生えた女の子ところで

この絵本にはちょっと面白い技法が使われています。

雨に濡れた菖蒲の花は揉み紙に描かれているのです。

奥貫さんちひろの技法に挑戦しました。

「小学生の頃にみんなで鳥の絵を書いたんですけど、何で奥貫さんだけ虫の絵を書いたのって言われたくらいでたんですがします

まずは紙をくしゃくしゃに丸めて皺をつけた後に紙を作ります

そこに菖蒲の花を描いてみますが

晴れるところと泊まる所があって

それが楽しくなってきました

買い物して帰る疲れたこちらが奥貫さんの作品。

出来栄えは鬼神の方がニュアンスがいるし

その折り目の部分が濃くなったり

そこだけ色が入らなかったりして

面白い不具合にはなったかなと思います

1973年ちひろは最後の絵本を完成させました。

その子供強烈な怒りと悲しみ。

いったい何が。

 

 

どうして千尋の描いた子供たちはずっと愛され続けているのでしょうか。

周りが淡い色の黒い瞳の黒さが印象的ですよねちひろさんが言ってね

四角い目の子うっすらと色を付けただけの瞳

一人一人違うのですよく言いますよね

目の表情の豊かさをそこに描けば

よりその子の持っている力だとか

人間性だとか感情だとか性格だとか

そういうものを表現できるとふうに考えた

集大成とね戦火のなかの

子どもたちベトナム戦争での爆撃に心を痛めたちひろが最後に描いた絵本でした。

問いかけてくるのです。

子供たちの眼差しが。

どうしてどうしてと絵本を出版した翌年のこと。

いわさきちひろは病に倒れたのです。

ずっと少女のように生きた人全ての子供が幸せであることと世界が平和

である事って言うの

本気で願って

祈ってへの柔らかさとかとは真逆の

すごく強い信念みたいなものを改めて感じました

皆であったことのある子どもたち

私たちの心の中にいる子供たちです

いわさきちひろさく雨の日のお留守番に来た

愛した描いた例の子供たち。

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