特別編アーティストのアトリエより ―影絵作家・藤城清治
アートシーンは特別編。
「アーティストのアトリエより」と題してお届けする。
2013年8月に放送した「日曜美術館」から、影絵作家・藤城清治が89歳で挑んだ「風の又三郎」の制作を追った。
スタジオでは、今年4月に96歳となった藤城が番組に寄せてくれた「ウィルス撃退」のイラストも、紹介する!
放送:2020年5月10日
爽やかな9月1日の朝でした。
教室の中にはどこから来たのかまるで顔を知らないおかしな赤い髪の子供が一人。
その時風がどうと吹いてきて、するとかすけがすぐ叫びました
「あーわかったあいつは風の又三郎だぞ」
これは影絵作家藤城清治さんが制作した宮沢賢治の「風の又三郎」です
藤代さんは世界的な影絵作家として長年にわたり活躍してきました。
20代で影絵の世界に出会い、そこに新鮮な美を見出しました。
その表現は色彩と光を駆使して自然と生命の賛歌にあふれています。
そして89歳の時に風の又三郎に挑戦します。
僕の影絵は賢治童話の中で触発され進化していった。
2013年7月。
東京にある藤城さんのアトリエを訪ねました。
カワセミの鳴き声に迎えられてアトリエに入ります。
そこではすでに風の又三郎の制作が始まっていました。
「下絵なんかを今日明日で描いてしまおうとやっているところです」
藤城さんは又三郎のデッサンを描き進めていました。
藤城さんは宮沢賢治に強く惹かれ銀河鉄道の夜などを影絵にしてきました。
まず取りかかったのはに見開きを飾る又三郎の全身像。
下絵を切り抜き裏側に半透明の紙を貼り付ける。
この繰り返し。
紙が重なり合うことで微妙な濃淡が生じます。
次にイメージに合う色を選びます。
シートに線を引き、そこをカミソリで削っていきます。
そして色の違うシートを組み合わせ、陰影を出していきます。
こうした手法が紙や洋服の質感となって現れるのです。
完成した又三郎。
後ろから光が当たると服のシワまでも浮かび上がります。
「風の又三郎の個人の顔。その顔だけでもね、勝負できなきゃいけないという気もするんですよね。僕はそこを思いっきりリアルにしたい。完全に子どもたちの性格を突っ込んでみたいと僕なりに」
新人画家として注目されていた藤城さん。
戦前は人形劇にも参加していました。
終戦を迎え、瓦礫と化した東京を目にした時、人々に希望の光を与えたい。
その思いで廃材などを集め作り始めたのが影絵でした。
「影絵っていうのは色を塗ったり仕上げるとかね、そういうことしないで、切って2、3分で切ったものをヒュッと光を当てただけで、
単純だけどなんかすごい心に焼きつくような面白さと美しさのある。映し出された陰ってものは。自分一人だけの感覚がね、もっとストレートに出るかなっていうことは感じた。だから影絵は人形とは違った鋭さみたいなものがあるかなと思って」
80歳の時原爆ドームを訪れ心を揺さぶられた藤城さん。
あらゆる角度からスケッチし続けます。
何枚もスケッチを重ね、見つめた原爆ドーム。
美しいものだけを描くのが大事ではないという思いがあふれてきました。
8月に入り風の又三郎の制作が続いていました。
下絵を任せたスタッフと何やら話をしています。
どうやら機械的な線が気に入らなかったよう。
あえて大ざっぱな線を描き、カミソリを入れていきます。
そして半透明の紙を荒っぽく千切り教室の天井や壁の部分に貼り付けていきます。
出来上がった作品です。
転校してきたばかりの又三郎と興味深げに見つめる子どもたち。
天井や壁には自然にできたかのような汚れやシミ。
机も使い込まれた表情。
賢治の世界が伝わってきます。
東日本大震災は藤代さんにとって大きな衝撃でした。
この時ある川の様子に目を見張ります。
そこには産卵のため川を上ってきた鮭のたくましい姿があったのです。
この旅から生まれた作品。
ここはかつて人々が生活していた場所。
今では見渡す限りススキが生い茂っています。
それでもあらゆる命はこの災害を乗り越えてゆく。
この絵にはそんな願いが込められています。
藤城さんはこの絵に賢治の言葉をされました。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
2013年6月藤城さんは賢治の故郷岩手県を訪れました。
到着したのは風の又三郎の舞台とされる種山ケ原。
重要な場面のイメージをつかむためです。
「こういう風に霧がかかっちゃって見えなくて、どうしようもない絵としても描けないんじゃないかってみたいなんだけれども、そこになんかすごく良さがあるじゃない。だからそういう風の又三郎というのは、そういう感じじゃないかと思ってね」
賢治も見つめた草原の風景。
優しく照らし出された草原の一場面。
少年や馬。そして全ての風景が淡い霧に包まれどこか夢のような世界。
ガラスのマントに身を包んだ又三郎が空へと舞い上がります。
2013年11月。風の又三郎全18作品が完成しました。
「又三郎や一郎やなんかが、野原の中を走り回ったみたいに、僕も切ったり貼ったりして走り回っている中に迷い込んだり、なんか夢だか現実だかわかんないような作り方をしながらやっていったら、なんか今までの僕の作った影絵とはちょっと違った絵っていうか、なんか自分でもこういう絵を今までに作ってなかったなって言うかね、ちょっとなんか自分でも初めてのような絵がね、何か出来上がったような気がしてね」
宮沢賢治は山奥の小学校を舞台にここに転校してきた不思議な少年をめぐる物語を作りました。
子ども達は少年の正体が風の神様の子ども。
つまり風の又三郎だと信じ込みます。
そして少年は様々な出来事を巻き起こして12日目に姿を消していきます。
賢治は農村の子どもたちの姿を現実と幻想の交錯する中で鮮やかに描写しました。
その精神世界を藤城さんは光と影で新たな美の世界に作り上げました。
番組のディレクターが藤代さんにお電話をしたところ、先月96歳になられたということです。
藤代さんから番組に送っていただいた作品。
新型コロナウイルスには負けないという気持ちで書きました。
放送記録
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