日曜美術館45年のアーカイブから「日本絵画の傑作15選」を3回に分けて紹介するシリーズ。
初回は古代から鎌倉時代の5作品。
日本絵画の原点・チブサン古墳、憧れが生んだ超絶美人・鳥毛立女屏風、仕掛けづくしの王朝美・源氏物語絵巻、肖像画誕生!・伝源頼朝像、自然と仏の出会い・山越阿弥陀図の5作品を、井浦新、岡本太郎、上村淳之、瀬戸内寂聴、横尾忠則、井上涼さんら豪華な出演者の言葉とともにじっくり見る。
日曜美術館「蔵出し!日本絵画傑作15選一の巻」
放送日
2020年6月7日
開きますよパタパタパタパタ。古墳時代から江戸時代にかけての名作15選。
日曜美術館からあなたへ贈り物。とっておきの映像を蔵出しします。
今こそ触れたい美の国日本の底力。
美を感じる心の泉。たっぷり潤いますように。
気が許せない状況が続きます。
こういう時こそ美しいものに触れたいという企画を今回から3回シリーズで私たちは考えました。
蔵出し日本絵画傑作15選というシリーズ。
番組が45年続いていますから、その中でも繰り返し取り上げられてきた名作中の名作15作品です。色々な方が愛する言葉もを述べてくださっているので、そんなところも含めてご紹介していこうと思います。
今日はその1回目。15作品の中から5作品です。
まず最初は4世紀から7世紀にかけての装飾古墳の傑作。この作品からです。
蔵出し傑作選一作目は九州から。
訪ねたのはこの方。2年前まで日曜美術館の司会を務めていた井浦新さんです。
やってきたのは熊本。
「チブサン古墳は九州の装飾古墳を巡る上では絶対に外せない。ぼくに古墳を興味を持ってそっちへ行ってみたいって思わせてくれたきっかけをくれたような古墳」
6世紀に作られたチブサン古墳。
これほど想いを募らせるその姿は。
「チブサン古墳の石室見えました。三角。丸。圧倒的な迫力だな。三角。ひし形。丸」
暗闇に現れた極彩色の世界。
蔵出し傑作選一作目は祈りと呪術。日本絵画の原点チブサン古墳。
死者を安置する空間を彩る強烈な赤、黒、白、三角、丸の大胆な組み合わせ。
シンプルな色と幾何学模様が不思議な迫力で迫ってきます。
最もエネルギーに満ち溢れた古墳と言われるのも納得。
右の壁には冠をかぶり両手を掲げた人物が。
ここに葬られた主の姿とも言われています。
その頭の上に浮かぶ白い丸。
左の壁のひし形の中の丸。
そして正面の目玉のような同心円。
これらの丸。一体何なのでしょう。
「一般的には鏡を表現したものだという風に言われることが多いですね」
「丸はすべて鏡と受け止めてもいいのですか」
「そればかりではない。赤い丸があるんですが、太陽と月とか、そういうものの表現ではないか。右壁の方の丸は空の星を描いているとか、そういった説もあります」
「太陽再生のシンボルっていうのか。登ってまた沈む。闇を照らすっていう意味合いからも根源的なところではステ信仰?にも結びついてるのかなということもいえるのかなと思います。魔除けの意味も持っていますが死者に捧げるというのかですね、安らかに眠ってもらうと言うかそういったことを考えて描かれてるのかなっていう印象は受けす」
「チブサンの絵を描いた人の、祈りを込めてるけど丁寧に描くよりか、どこかちょっと乱暴力がある描き方ってひかれるんだなーって、技術じゃなくて、誰かのために、もしくは自分のために描かなければいけないそういうのが切実さを感じますね」
チブサン古墳のような装飾古墳は日本全国で660墓。
その4割が熊本と福岡に集中しています。
福岡もまた装飾古墳の宝庫。
建物に入っていくと。
「すごい装飾されてる。壁中に」
6世紀前半。
この地域を統治した首長の墓と考えられている日岡古墳。
大きな同心円。
小ぶりの三角。剣や盾、草の模様など、細やかな装飾で埋め尽くされています。
井浦さん憧れの人もここを訪れていたそうで。
「1970年代に岡本太郎さんが来られたそうです」
その時の映像がこちら。
井浦さんの生まれた年でした。
「これは振り切れているし、これは繋がっていないし」
「石組を作った後に描いたんだと思う」
「馬が描いてあります」
「非常に難解ですね。丸と三角しかない。片一方は純粋に呪術的なものだと思う。いろんな絵だって、馬の絵だって一種の呪力を持っている。こういうところに装飾するってことは、装飾じゃなくて経文を写し取るような呪力を持たせている。だから僕は職人が描いたものとか、きれいな枝とかそんなものは僕はどうでもいい。美術や芸術といっているのではなく、もっと人間の存在の絶対感というものを見いだすべきだし、装飾古墳の方が人間の根源をちゃんと掴んでいるし、人間の生き方そのもの。いろんな謎がここに秘められているから、こういうものこそ大事にするべき。かつての人間がどういう重いでどういう生き方したという事の方を考えなきゃない」
時を越えてクリエイターの心揺さぶる装飾古墳のエネルギー。
それは絵画の原点であり、人間存在の原点でもありました。
「シンプルで、丸とか三角だけで、しかも色も赤と黒。限られた色彩で見るものに強く訴えかけてくる。なぜ古代の人たちが丸とか三角を自分たちの表現のモチーフとして選んだのかっていうのは興味深いですよね」
「チブサン古墳に関しては同心円。まるに中に黒い点がポッツってある。あれが女性の乳房の形に見える。ということからチブサン古墳という名前になったとも言われていて、お乳の神様として祈りの対象であったと」
「古墳の空間は子宮的な空間。胎児が、我々全てが経験したことがある時間と空間というのを表現してる。つまりあの暗闇から出てきて、また暗闇に帰っていく。暗闇の中に照らし出される光を与えるものとしてあの丸とか三角ってものがあったのかなっていう風にも想像しますけどね」
続いては古の王朝からです。
蔵出し傑作選二作目。
それは東大寺を建立した聖武天皇ゆかりの正倉院宝物の一つです。
蔵出し傑作選二作目は、憧れが産んだ超絶美人。
鳥毛立女の屏風。
六枚一組の屏風に描かれているのは、木下で思い思いに佇む女性たち。
ふくよかな体つきがなんとも優雅です。
ゆったりと結った髪型は典型的な唐美人の姿。
艶やかな赤い唇。
口元のつけぼくろ。
額の緑の模様。
唐を中心に国際的に流行していたメイク術を取り入れています。
長らく唐で作られたと考えられてきた屏風。
しかし実は日本で作られたことを示す痕跡が次々と見つかっています。
NHKがこの屏風を8Kで撮影した所。
際立って映し出されたものがありました。
「ここに区分線が割と息の長い直線で、ここに転写する際の痕跡です」
紙の上にお手本の絵を置き、輪郭を鉄筆でなぞって写つ取った線だと考えられます。
憧れを何としても自分たちのものにしたい。
そんな強い思いが時を越えて伝わってきます。
さらに工夫を込めた跡が衣の部分に残っていました。
うっすら残る茶色。
一体これは何なのか。
その手がかりが当時の唐の書物にあります。
皇帝の娘が鳥の羽で作ったスカートを履いていた。
それが流行し鳥の羽がほとんど採り尽くされてしまった。
この茶色が流行していた鳥の羽の跡。
鳥毛立女の屏風はなんと本物の鳥の羽で覆われていたのです。
調査の結果、使われていたのは日本でしか生息していない山鳥の羽だとわかりました。
30年ほど前、この屏風の再現を試みた人がいました。
日本画家上村淳之さん。
花鳥画の第一人者です。
山鳥の羽を模様に合わせて一枚一枚丁寧にのりで貼っていきます。
屏風一枚におよそ千枚の羽。
一ヶ月がかりで完成しました。
上村さんが再現した鳥毛立女の屏風です。
まるで毛皮をまとっているような豪華さ。
何より印象的なのは不思議な光沢。
山鳥の羽は独特の神秘的なきらめきを放ちます。
美しいと感じる自然の素材を柔らかな発想で用いた古の人々。
あこがれの唐の絵に学びながら、憧れ以上のものに進化させていく。
そんな日本のものづくりの力がここにあります。
続いて蔵出し傑作選三作目は、謎と仕掛けづくしの王朝絵。
現存する最古の絵巻物です。
現在は一場面ずつ保存されています。
平安貴族たちの暮らしぶりや恋愛模様が描かれた豪華絢爛な美の世界。
それは奥ゆかしくも巧みな仕掛けに満ちています。
最も完成度が高いと言われる柏木の場面。
光源氏の妻、女三宮は内大臣の息子、柏木と密かに通じ男の子かおるを産みます。
良心の呵責に悩み泣きながら出家したいと訴えているところ。
その訴えに嘆き悲しむ女三宮の父、朱雀院。
妻の裏切りに打ちひしがれる光源氏。
なかなかの修羅場です。
その千々に乱れる心模様を現すために施された仕掛け。
それは色。
几帳や周りの女房たちには華やかな色を、
一方三人の衣装には墨や銀を用い、対比させています。
さらに雑然と交わる畳と几帳の線。
わざとリズムを乱すことで、悲しみに暮れる三人の心情を際立たせているのです。
女三宮との一件で激しく自分を責め、重い病となった柏木を親友の夕霧が見舞う場面です。
満開の桜が降りしきる中。
桜模様の衣をまとった女三宮を見たことから始まった柏木の罪深い行為。
寝所を覆う布に施された桜模様は、その暗示だと言われます。
全ての登場人物の顔は引目鉤鼻という均一な描きかた。
内心の葛藤を、見るものに想像させるこちらも巧みな仕掛けです。
よく見ると目元は細い線が重ねられ、瞳にも神経が行き届いています。
薫の生後50日の祝いの日の画面。
不義の子を抱く光源氏の表情。
複雑な心中がシンプルな線の向こうから浮き立ってくるよう。
源氏物語を現代語にした瀬戸内寂聴さんとアーティストの横尾忠則さん。
お二人はどんなふうにご覧になったかと言うと、
「でこれがねもう今にも死ぬ死にそうです。もうじき死ぬんですよ。もうそれに
してはね、もう死にそうには見えない。このまるまる太っちゃって、ダイエットしなきゃ」
「黒の配置。絶妙な配置をしてるのね。建築的な構図が抽象化されて、具象と抽象が合体してそこに柔らかい髪の線とか模様が直線と曲線が絡み合ってるっていう。音楽的って言ったらいいんですかね何とも言えない。もう一つ気になるのは、上から俯瞰してますよね。それは神仏の視線。映画でいえばクレーンですね。不思議な空間。未来空間ですよね」
建物の屋根を外して上から覗き込んだような構図は吹抜屋台と呼ばれます。
映画のクリーンショットのよう。
だからこそ見えてくるドラマがある。
微妙な心情に寄り添う緻密に練り上げられた王朝屏風の傑作。
現存最古の絵巻物は心憎いまでの謎としかけに満ちていました。
二つの作品も思わず見入ってしまいました。鳥毛立女屏風から伺いましょうか。
「絵に山鳥の羽を貼り付けていくっていうか、異素材を一緒にするっていう現代アートみたいなことをする。あの時代の人たちがやっている。よく思いつきましたね」
教科書で見て、どうして鳥毛立女なんだろう。どこにも鳥はいないじゃないかと思っていたのがなるほどこういうことかと納得しました。
「憧れの対象に接近していくアプローチの仕方がすごいとおもいました」
横尾さんが話をされてましたけど映画で言うクレーションみたいな構図があるじゃないかという話がありました。吹抜屋台。どんなふうになるかというと、見えているものがこんな風になるんですね。
「今は技術的に行ってカメラをあげてその僕らのイメージを見ることできますけど、当時はねそうはいかないですよね。だからねすごい想像しなかったってことですね」
続いての傑作15選は鎌倉時代の傑作です。
公家と武家の文化がぶつかり合い新しい力が生まれていった鎌倉時代。
絵画の世界にも新しい風が吹いてきます。
京都神護寺の宝物もその一つ。
蔵出し傑作選4作目はリアルを極めた肖像画誕生。
伝源頼朝像
まず圧倒されるのは大きさ。
天皇や僧侶ではない俗人を描く。
しかもこれほど大きく描くのは異例のことでした。
等身大に表すことで人物が目の前にいるかのような存在感が際立ちます。
引き締まった口もと。
遠くを見つめる眼差し。
威厳溢れる顔立ちの表現は実に緻密。
目元は細い墨の線を重ねて濃淡を生み出しています。
人物の本質を捉えようとする画家の深い洞察力が筆跡に漲ります。
画面の大半を占めている装束は力強く直線的。
よく見ると裾先には銀色の蝶。
全体は輪無唐草文と呼ばれる模様が埋め尽くしています。
刀を身につけるための平緒には、紺地に金で鳳凰と桐の花が。
自然をかたどった繊細な装飾によって、柔らかさと力強さが同居する、不思議な緊張感を生み出しています。
とことんリアルに描こうと巧みな技を繰り出すうちに、目には見えない威厳と気品までも描き出す。
そんな肖像画の傑作が生まれました。
その圧倒的な存在感の秘密を独自の目の付け所で捉えている人がいます。
古今東西の美術作品の魅力をユニークな歌と映像で表現するアーティストの井上涼さんです。
「手の込んだ処理がされているから、出来る限りのリッチな表現を使って時の人を描くっていう、気概気合を感じますね。構図として上の方がすっきり開いているので何かこう始まりそうな感じっていうのもとっても感じて、体が動きそうな、SFの映画に出てくる。前は人間だったけど今機械に移植されちゃったなかクリーチャーみたいな印象で、本当にきっぱりと肉感的なところと、機械っぽいところがはっきり分かれているところが人間離れしていると言うか。手とかが隠れてるからとかもあるんですかね、顔だけが印象に残った、体がこう四角くなってたりする。人間らしい部分が隠されているっていうところも多分ご人人間離れして感じさせるところなのかなと思います」
蔵出し傑作選。今日最後の作品は京都東山にあるお寺から。
阿弥陀如来が死にゆく人を迎えに来る来迎図が盛んに描かれました。
中でも禅林寺に伝わるのは独自のスタイルを持つ来迎図。
蔵出し傑作選。
5作目は聖なる自然と仏の出会い。
山越阿弥陀図。
山の向こうから死に行く人を極楽浄土に導く阿弥陀如来が現れる。
臨終の際、死にゆく人のそばに置かれ、穏やかな来世への旅立ちを演出する装置として使われました。
力強い線で表された顔立ち。
体の輪郭には金箔を細く切った切り金が施されています。
阿弥陀如来に先立って雲に乗って降りてくるかのようなお供の者たちの姿。
左は勢至菩薩。
細やかな模様があしらわれた衣装。
その質感までもが伝わる優美な姿です。
浄土への乗り物である蓮の形の台を差し出すのは観音菩薩。
さらに。往生する人を極楽浄土へ導く万全の態勢が整っています。
激しい形相の四天王も見参。
強い力で道中守ってくれそうです。
ところでこの独特の構図は一体どこから生まれたのか。
山に囲まれた京都の地形にその秘密がありました。
ということは、山の背後に現れた巨大な阿弥陀如来には西の山に沈む太陽が重ねられていたのです。
阿弥陀如来に祈りながら、同時に太陽に手を合わせているよう。
そもそも古来、山は日本人にとって神が宿る神聖な場所でした。
折り重なる山並みの向こうには海原が広がります。
山と海をこの世ならぬ世界と考えた宇宙観が織り込まれた来迎図。
それは自然に聖なるものを見る日本人ならではの感性の結晶です。
「太陽なんですね人間とって重要なのは。最初のねあのチブサン古墳にも丸と三角が描かれていては
ノーマルは鏡であるとも言われてるし採用ではないかとも言われてるって
話がされてましたね
踏まれた猫踏んだから
古墳は墓所ですよね。亡くなった人が納められるところ。そこにも古代人は太陽を必要としていた。太陽はあらゆるものに命を与えるものであると。だからチブサン古墳の中に太陽があるって事は、生きる事に結びつくわけですから、再生っていうか命への祈りっていうのも当然込められてるんだろうなと思います。それは阿弥陀図でも同じ。死と太陽っていうものが一緒にあるって言うこと。死に行く人が太陽によりそってもらいたいっていうのは人間の自然の発露としてねあるのかな」
今でもね私たち初日の出が見られたらいいなと思うし、ご来光って言葉があったり、日の出日の入りを見ると思わず口を手を合わせたくなる。
「そういうことを常におそらく人は感じ取ってきた。チブサン古墳の頃から鎌倉時代に至るまで自然に対する畏敬の念。自然対する感謝気持ちが脈々と受け継がれてるような気がします」
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