チャンスはピンチだ。

響くアートの愛好家

新美の巨人たち マルニ木工&深澤直人『HIROSHIMA』

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在宅時間が増えたことで生活環境を見直そうと、売り上げが大幅にアップしているのが椅子。

座りやすさ、素材、デザイン…そんな椅子に求めるもの全てを叶えてくれるのが、プロダクトデザイナー深澤直人デザイン、日本の老舗家具メーカー・マルニ木工製作『HIROSHIMA』。

“座れば人生が変わる”と言われる名作です。
サイズは幅56cm、奥行き53cm、高さ76cm。

丸みを帯びた背もたれ、その背もたれから緩やかなカーブを描くように仕上げられた肘掛け…

まるでオブジェのような佇まいをしているその形一つ一つに理由がありました。

今再び注目を浴びているこの椅子の裏に隠された、木の良さにこだわり続けたマルニ木工の社運を賭けた戦い、その思いを形にした匠・深澤のアイデア、機械では表現できない複雑な曲面を作るために頭を悩ませた熟練の職人たち驚きの技術とは?

そして実際『HIROSHIMA』を持っているという、今回のアートトラベラー田辺誠一さんが語るこの椅子の魅力とは…?

伝統を受け継ぎながら、独自のスタイルを生んだ名作椅子の美と機能性に迫ります。

 

日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展(日経トレンディ2020年1月号増刊)
 

美の巨人たち マルニ木工&深澤直人『HIROSHIMA』

放送:2020年11月21日

 

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こちらは人気の北欧家具のお店です。

今最も売れているのがこの椅子。

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Yチェア。

デンマークのデザイナー、ハンス・J・ウェグナーの作品。

 

発売から70年。

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Y字に見える背もたれが特徴の、日本で最も知られている椅子です。

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「ものすごい売れてまして、前年比で5倍位売れていると思います」

新型コロナの影響で在宅での仕事が増えて、椅子を見直す方が増えているのだとか。

一体どんな椅子がお望みなのでしょうか。

「いくつか種類があるといいのかなと思ってて、態勢変えながらとか座り心地変えながら仕事するとリフレッシュになるので」

「長時間座ってて楽な、腰とかが疲れない椅子がいいなと思います」

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北欧製も良いのですが。今日はその要望を全て叶える日本製の椅子をご紹介しましょう。

今や世界が欲しがる名品です。

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俳優の田辺誠一さんがやってきたのは武蔵野美術大学

ここに世界中の名作と言われる椅子を集めたユニークなギャラリーがあります。

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「見たことあるやついっぱいあります」

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人気の北欧椅子からアメリカヨーロッパアジアまで。

その数なんと400脚。

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「圧巻ですね。これはコルビジェですですね。ミース」

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今回ご紹介する椅子もすでにお持ちだそうです。

その椅子の名は。

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「広島です。名作の椅子に囲まれて。綺麗ですね」

 

今日の作品。

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深澤直人デザイン、マルニ木工製作HIROSHIMA。

幅56センチ、奥行き53センチ。高さ76センチ。

2008年にダイニングチェアとして発売された椅子です。

では改めて座って頂きましょう。

「ゆっくり休め、包み込まれてるような感じですかね。背中も本当に結構広い面で丸く支えてくれますし、この曲線の綺麗さ。木をこんな風に多面的に加工できるんだっていうのデザインも手触りもなめらか。触っていたくなる」

田辺さん絶賛のHIROSHIMA。

みずみずしいという言葉がぴったりの木肌。

背もたれから肘掛けまでつながる曲線は有機的で流れるような艶やかさを携えています。

細部まで丁寧に磨き上げられた匠の技。

シンプルなデザインなのに飽きのこないフォルム。

足一本とってみてもその美しさに惚れ惚れ。

座り心地の良さが座面からも伝わってきます。

HIROSHIMAが世に知られるきっかけは2017年のこと。

あのアップルがアメリカ本社の食堂用に、なんと数千脚も購入したんです。

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さらに世界が注目したアメリカ大統領選の討論会場にも採用されるなど、作られてわずか12年で名作の仲間入りを果たしました。

いったいなぜ。

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椅子ギャラリーの学芸員・森克之さんは、16世紀頃に中国で作られた椅子にヒントがあるといいます。

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「背もたれですとか、肘掛けの部分ですね。ここが独特の形をしていまして」

この形さっき見たような。

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Yチェアです。

「リデザインというんすけど、中国の椅子から形が繋がってきてるってのが分かりいただけるかなと。HIROSHIMAもこの椅子たちのDNAを受け継ぎつつ、今だからこそ出来る技術を十二分に使って、座り心地の良さですとか、形ってものをきちんと継承されて」

HIROSHIMAは過去の名品の良さを取り入れながらそこに新たな価値を加えることで誕生したんです。

ではHIROSHIMAはいかにして生まれたのか。

 

田辺さんは作者の元へ。

それは不可能を可能に変えるプロジェクトだったそうで。 

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プロダクトデザイナー深澤直人さん。

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無印良品のデザインに拘り、壁掛け式CDプレーヤーなどのヒット作を手掛けました。

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ニューヨーク近代美術館にも収蔵された携帯電話。

ご記憶の方も多いのでは。

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曲面を取り入れて、使い心地の良さを追求してきたデザイン界の巨匠が特別な想いを持って挑んだ椅子。

それがHIROSHIMAでした。

「椅子をつくるというのはデザイナーの方にとってどういう意味」

「若手のデザイナーがのぼり詰めていく、一番最後のゴールに椅子のデザインがあるような感じがあるんですよね。40歳近い頃ですかね。チャンスがたまたま来たっていう。椅子の世界でアイコンと呼ばれてるようなYチェアとか、そういう定番ですよね。そう言ったレベルのものと同じようなもののレベルをやらないと今までやってきた努力は実らないなみたいな感じで」

どうすればあのYチェアを超えられるのか。

初めて手がける木の椅子に試行錯誤が4ヶ月続きました。

様々なデザインを考えていく深澤さんの脳裏に、特徴的な形の背もたれが浮かんできました。

そしてこれまでにないある発想にたどり着いたのです。

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「ロボットみたいな座り方をしていない。こうやって話したりっていうのが自然じゃないですか。無意識な自然に人間を会わせた方が調和するんじゃないかっていう。それを形にすると、ちゃんと背中に当たるしオーナーもぴったりも入るみたいな。そういう思わずにやってしまうことがすごくデザインの中の重要な軸ですね」

椅子の上で人は様々な姿勢を取ります。

まずどんな態勢も包み込んでくれる理想の背もたれが必要でした。

しかも見ただけで心地よいと感じる圧倒的な美しさを兼ね備えた曲面の背もたれが。

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その繊細なデザインを形にしたのが広島県湯来町にあるマルニ木工です。

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実は広島は倒産寸前にあった家具メーカーの復活をかけたプロジェクトでもあったのです。

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マルニ木工は創業92年の老舗家具メーカーです。

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戦後の高度成長期に生活様式の洋風化が広まるとヨーロッパ調の高級家具で業績を伸ばしました。

しかしバブル崩壊後は大量に輸入されたアジアの量産品に押され、クラシカルなデザインも飽きられて経営は火の車。

この頃6代目を任された社長の山中武さんは。

「うちの強みを生かしたものづくりとかに賭けなきゃいけないっていうか、賭けたいなと。もしかしたらデザインが変われば会社は変わるかもしれない」

山中さんは意を決して深澤さんにデザインを依頼します。

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「デザイナーっていう人たちは、センスがいい人が絵を描くだけだと思ってたのが、例えば紅茶のティーバックをデザインしました。

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彼がやったことは、ティーバックの取っ手のところを紅茶の飲み頃の色にした。それがデザインですって書いてあって、感動ではなく驚愕だった。決算書を全部持って行ってもう大赤字です。お金も時間もない。でも思いと技術があります。深澤さんうちとしっかり組んでくれと」

そして待つこと10ヶ月。

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待ちに待ったデザイン案が到着しました。

「木でつくる椅子じゃない。樹脂で型に流し込んでいって形を出すような椅子に見えたので、どうやって作るんやみたいな。でもこれでしたら面白いかも」

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マルニ木工の初代社長は世界遺産厳島神社で有名な広島県宮島の出身です。

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神社建設のために全国から集まった職人たちが木工の技をこの街に伝えてきました。

マルニ木工は木材を美しく仕上げる技と感性を受け継ぐ職人集団なのです。

しかし当時製品化を任された周田さんは。

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「HIROSHIMAは機械では出せない一線を人間の手で磨いているんですよ。モデルの中にですね、それで表現しなきゃいけない部分がですねたくさん含まれてるんですよね。笠木(背もたれ)の部分にまでつながっていく、綺麗なアールにできるのかっていうのは、正直不安でしたね」

深澤さんが生み出した複雑な曲面が組み合わされたデザイン。

その実現はマルニ木工の職人たちといえどもも難題でした。

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そこでまず、最も複雑な背もたれと肘掛けをつなぎ、ある程度機械で仕上げることに。

そして脚を組み合わせ椅子の形が出来上がってから複雑な曲面を手作業で削り出すという方法で制作に臨みました。

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その仕上げを担当してきた磨き職人の竹次さんは。

「ある程度の形は作られてくるんですけど、アール指定が多かった。ゲージを合わせながら1日2脚ぐらいしかできなかった」

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そのゲージがこちら。

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背もたれと肘掛けだけで10近くの異なる角度指定があるのです。

深澤さんの狙い通りのアールを生み出すために磨いては当て、また磨く。

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その繰り返しまるで木の塊から理想の美を生み出す彫刻作品のように手間をかけて、素材を慈しんで。

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そして多彩な局面で象られたHIROSHIMAの第一号が完成します。

その出来栄えに深澤さんも。

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「やりましたね。ここに頼めばどんな形でもできるかなと思ってたけど、ここまでやってくれるとは思った」

当初は1日に二脚くしかできなかったHIROSHIMA。

その後、複雑な職人技をほぼ機械で再現することに成功して、今では月に500脚を生産しています。

そんな美しき工芸品に惚れ込んだ人がいました。

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あのスティージョブズの右腕としてiphoneimacをデザインした、ジョナサン・アイブです。

去年appleの本社を訪れた山中さんは。

「最初通された会議室があって、20脚くらいHIROSHIMAが置いてあって、もわけわからなかったですね。ジョナサン・アイブさんが、アップルパークにこの椅子を入れたいという意思を持っていたんだよと教えてくれて」

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工業製品にシンプルで美しいデザインを持ち込んだデザイナーがHIROSHIMAを認めたのです。

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北欧の名作椅子と肩を並べる世界の定番の誕生。

廃業を覚悟した家具メーカーが起死回生の大逆転を果たした瞬間でした。

今回そのHIROSHIMAの座り心地を人間工学の視点から徹底分析してみると。

見えてきたのです。

HIROSHIMAが世界に認められたもうひとつの理由が。

 

 

 

 

日本が生み出した世界に誇れる名作椅子HIROSHIMA。

どんな座り方をしても気持ちの良い椅子を目指して開発されたといいます。

デザインが生んだ奇跡を検証してみましょう。

広島の座り心地を人間工学が専門の早稲田大学の野呂先生に数値化してもらいます。

実験は背もたれやひじ掛けなど6カ所にセンサーを設置し、ICTという最新の方法で計測します。

椅子に座ってもらうのは四人の男女。

それぞれ食事をしながら5分。

テレワークをしながら5分。

HIROSHIMAに座ります

そして座り心地が良いと感じた瞬間に、肘掛けのスイッチを押してもらいます。

その瞬間、椅子のどの部分に体が触れているのか、それをセンサーが検知し集計していきます

長時間椅子に座ると腰への負担を一時的に軽くするために自然と姿勢が崩れていきます

そこで先生が注目したのはHIROSHIMAの座面の傾斜。

他の椅子より傾きが強いので、姿勢を換えづらく座り心地が良くないのではと想定していました。

実験の結果は。

四人が座って心地よいと感じた回数をまとめると、他の椅子に比べて心地よさの頻度が多いという結果が出ました。

しかも、背もたれ肘掛鞍部に体が接している時に心地よいと感じていることがわかります。

興味深いのは、心地よいと感じた時、お尻が椅子にきちんと接していないこと。

つまり態勢が崩れた時に座り心地が良いと感じるんです。

接触してる面積が非常に広いということを意味してるわけですね。椅子というのは人間の体を受け止めてるわけですよね。体を支える面積。これが広ければ広いほど圧力が下がる。日常生活でかなり広い範囲で、座るという行為を受け止めてる椅子だなという風に思いました」

一般的な肘掛け椅子は、姿勢が崩れると体と椅子の接地面積が減って座り心地が悪くなります。

しかしHIROSHIMAは姿勢が崩れても、広い背もたれや鞍部など、椅子全体で体を支えてくれる。

体を包み込むようなこのデザインこそが座り心地の良さを生む秘密だったんです。

「人間、歩くとか言っても、床のこと考えてないし靴のこと考えていない。でも自然ですよね。座ってても椅子を意識しないのが一番良い状態。あらゆる生活の気になっていることを修正すると皆が「おっ良くなったじゃん」みたいな感じだと思う。それと椅子は佇んでる姿が美しくないといけない。二つの大きなファンクションが合わないと。だからマルニさんの努力もすごかった」

椅子の存在を感じさせないという深澤さんのデザイン。

そしてマルニ木工の職人の技が倦んだ質感。

美しさと座り心地という二つが見事に形になった。

それがHIROSHIMAなのです。

さらに木と向き合い続けてきた職人の知恵と工夫の賜物がもう一つ。

 

 

この国は木で彩られた芸術に満ちています。

千年続く木造建築。

木の性質を知り木の特性を生かして作られた美しき造形物。

HIROSHIMAもまた木を知り尽くした人たちが生み出しました。

美しく流れる背もたれのカーブは素材の柾目が活かされています。

その柾目は背もたれから肘掛けにそして足に向かって垂直に。

まるで椅子に描かれた水墨画の滝のように流れ落ちていきます。

「深沢さんに柾目で表現した方がいいんじゃないですかって言うのはマルニ側から提案をしました。あまり木目があってごちゃごちゃしてると、椅子の印象が薄れてしまう。なるべく木目の柾目を使った方が全体のディテールがはっきりしてくるんじゃないか」

その美しさは体を支える椅子の強度も生み出していました。

例えば横に長い背もたれには、横方向の柾目を使うことで自然と頑丈なつくりになるのです。

これもまた伝統に育まれた木の職人たちのなせる業。

「朝起きて夜寝るまで日中立ってるか座ってるかどっちかじゃないですか。座ってる時間は長いんですよ。体の一部じゃないですけど、何か改めてすごくいい相棒だなと」

椅子は机やテーブルとセットで使うもの。

こうしてみれば美しさがもっと際立ちます。

日本が生んだ世界の定番椅子HIROSHIMA。

人生を豊かにしてくれる座り心地をあなたに。

 

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